本記事では『東方Project』に登場する稗田阿礼について記述する。
概要
『東方Project』に登場する稗田阿礼は作中では本人の登場はみられていない、設定上の人物である。
その性格やキャラクターデザイン、経歴、行いなどの多くの部分が明示されていない。
ただし上記の日本史に登場する「稗田阿礼」をモデルとしている他、いわゆる「求聞持」の能力(見たものや聞いたものを忘れない能力、才能)を持っていたとされる。
同作シリーズにおいて阿礼が語られるのは、主に稗田阿求の文脈であり、その記述は書籍『東方求聞史紀』に特に見られる。同書籍は阿求による「幻想郷縁起」が主体の書籍であり、阿求の妖怪研究や調査に加え、阿求個人の想いなども語られているものである。
また阿求は先述の阿礼の才能・能力である求聞持の能力も有し、作中では「一度見た物を忘れない程度の能力」としてその実践を含め語られている(「幺樂団の歴史」、『求聞史紀』等。その実践は『東方鈴奈庵』などでも)。
なお、阿礼としてのこの能力は、東方Project作中では「 一度見たこと、聞いたことを忘れない能力 」として語られる可能性があった(「『求聞史紀』初期企画案」、『東方外來韋編』)。
御阿礼の子
阿礼はその死後に転生し「稗田阿一」として再び稗田の家系に生まれた。
当時はまだ妖怪が強力な力を持っており、人々は妖怪の恐怖に深く脅かされ続けていた。
その状況に阿一(当時18歳)は人々へ妖怪対策のための知識を授けるべくいわゆる対妖怪の啓蒙資料としての「幻想郷縁起」の執筆・編纂を開始し、人々へ妖怪に対する適切な対処や知識などを伝えた。
しかし当時は「文字」を読むことができる人間は限られていたため、後世に書籍の形で残すという意味もあった(ただしその文字などについては、現在では阿求によって当時の「幻想郷縁起」は読み辛いものだったと評価されており、その難読さをして資料的価値が失われていたとされている)。
阿礼の魂は阿一以後も転生を繰り返し、その時代に合った「幻想郷縁起」を編纂し生み出すことで人間とその営みに奉仕し続けたのである。
「幻想郷縁起」の編纂は阿一以後の「御阿礼の子」のライフワークとなり、阿一以後、今代の「御阿礼の子」である稗田阿求に至るまでそれは続けられている。
なお「御阿礼の子」とは「阿礼」の「御子」の意味合いであり、阿一以降の人物(阿礼の転生した存在)を指す。阿礼本人は含めない。
例えば「 初代御阿礼の子 」(文々。新聞・第百九季 文月の一刷、『求聞史紀』掲載)といえば、稗田阿一を指すものである。
御阿礼の子が生まれることは「御阿礼神事」と呼ばれる慶事であり、先述の文々。新聞でも稗田家での喜びの様があったことが報告されている。
阿求は阿礼の生まれ変わりであることを「 なんとなく理解している 」が、記憶そのものは鮮明ではない。これは転生に際して一部を除いた記憶の大半が失われるためである。
「求聞持」の能力そのものはそれぞれの代ごとに発揮され生涯生かすことができるが、その能力によって鮮明に記銘された記憶の内容は一部を除き次代には継承されない模様である。
この他東方Projectにおける「阿礼」の名称をその要素に持つものとして、『求聞史紀』付属のCDに収録された楽曲に「阿礼の子供」がある。
「稗田」と「本居」
歴史上に登場する稗田阿礼は当時の天皇の命を受け『古事記』の編纂に関わったとされ、『古事記』はその後江戸時代に本居宣長(1730~1801)によって研究されて現代に伝えられている。
東方Projectにおいては宣長をキャラクター背景のモデルとした本居小鈴が登場しており、『東方鈴奈庵』では阿求と小鈴が頻繁に交流する様子が描かれている。
『鈴奈庵』という作品そのものも、阿求が小鈴の働く貸本屋「鈴奈庵」へと借りた本の返却のために訪れるところから始まっており、いわば二人の関係性からスタートする物語となっているのである。
また二人のそれぞれの能力についても関連性を見る事が出来る。
先述のように阿求は阿礼同様に「求聞持」の能力を持ち、小鈴は通常では読めない文字・書物を手をかざすことで読むことができる能力をもつ。
いずれも高度な事象の記録者・伝承者としての阿礼と、興味を惹かれた未知のものを広く深く理解しようとする研究者としての宣長をそれぞれ彷彿とさせるものとなっている。
加えてその二次創作においても両者は仲の良い様子で描かれることが多く、先の設定的背景をさらに打ち出した作品では、阿求が「(日本最古の歴史書である『古事記』を)まとめたのは私」と言えば小鈴が「研究して今に大成させたのは私」と返すなど、設定的にもつながりの深い二人ならではのやり取りが描かれることもある。
いわばある書物を通して結ばれた遥か昔の原作者と遥か未来の研究者とが、壮大な時間過程を越えて同時期に存在していることを示唆するものとなっているのである。
参考:あきゅすず
ただし阿礼が阿求の直系の人物と明記されているのに対し、小鈴はそのキャラクターの周辺設定に宣長のモデルを多分に含む、という程度である(2014年6月現在)。
この他、歴史上の稗田阿礼とともに『古事記』の編纂に携わった人物に太安万侶(おおのやすまろ。?~723年)がある。太安万侶は『日本書紀』(※)の編纂にも携わったとするものもあり、本居宣長は『日本書紀』も研究している。
※:編纂の際の資料には『古事記』のベースとなった『帝紀』や『旧辞』の他『古事記』そのものも用いられている。
『古事記』は『日本書紀』へと直系するものであり、先の阿求と小鈴における二次創作的関係を見る時、阿礼の仕事上のパートナーとしての安万侶を通して、『古事記』にとどまらず『日本書紀』を通しても二人の縁は繋がっているのである。
その他歴史上に登場する稗田阿礼と本居宣長については「稗田阿礼」記事も参照。
藤原不比等説を元にした二次創作(東方Project)
歴史上の稗田阿礼は、その実際について藤原不比等ではないかとの説がある(何の根拠もない説に過ぎないが)。
東方Project原作ではこれに関する要素はみられない(2014年6月現在)が、二次創作では先の藤原不比等説を参照した作品が展開されることもある。
ここにおいては、東方Projectには藤原不比等の娘と目されるキャラクターである藤原妹紅が登場しており、時代も場所も越えて懐かしい親子関係が幻想郷で再び交錯しているのでは、とのアプローチがなされるのである。
詳細は「稗田阿求」記事の二次設定項目における該当部分または「藤原不比等」記事を参照。
関連イラスト
先述のように東方Projectにおける稗田阿礼はそのキャラクターデザインなどは未設定であるため、作品ごとに様々な「稗田阿礼」が描かれている。 デザインの一例としては原作中で描かれている阿求のデザインを参考にするものなどがあり、例えば性格などの内面的特徴をはじめ背丈や表情、髪の色や質感といった外見的特徴に共通点や類似、近似を見出すことでも阿礼から阿求に至る結びつきを表現する作品もある。
「稗田阿求」も参考とした「稗田阿礼」の可能性
稗田阿求と本居小鈴(あきゅすず)
稗田阿礼=藤原不比等説を基にした作品