概要
ドナルドダックシリーズの一作。1943年にアメリカで公開された。
当時は第二次世界大戦真っ只中であり、日本を含めたナチス・ドイツら枢軸国側を風刺するというプロパガンダ色が強いため日本では封印作品となっている。アメリカですら2000年代にDVDが発売されるまで封印状態であった。原題は『Der Fuehrer's Face』
すでに著作権切れ(パブリックドメイン)になっているが、今後吹き替え版の製作や安売りのDVD等に収録される可能性は限りなく低いと思われる。動画サイト等をあされば原語版は視聴可能。
一応2015年にNHKのとある番組で取り上げられたことがある。
物語
舞台はあちこちにハーゲンクロイツが立っている恐怖の独裁国家ナチランド。アドルフ・ヒトラーが好きだったという「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が軽快に流れる中、眠っていたドナルドは敬礼をしながらもうるささにブラインドを閉めたがマーチング部隊に武器で叩き起こされ、ヒトラー、昭和天皇(劇中でドナルドがHeil Hirohito〈裕仁〉!と言っている)、ムッソリーニに敬礼し、もう一度寝ようとしたが水をぶっかけられできなかった。
仕方なく軍服に着替えたドナルドは金庫の中に大事にしまってあるコーヒー、卵とベーコンの味がする香水、ノコギリで切らなければならないほど硬いパンを食べる。すると目の前にヒトラーの著書「我が闘争」が付きつけられ、家の中に侵入してきたマーチング部隊に仕事場へ連行されてしまった。
ドナルドが働く軍事工場ではラインで流れてくる砲弾を組み立てる作業を行い、時々流れてくるヒトラーの肖像画に敬礼しつつ作業しなければならなかった。
やがて休憩時間になるが、実際はアルプス山脈の絵をバックに短時間の体操をさせられるだけでまたしても作業に戻らされ、肉体的に限界を迎えたドナルドはついに発狂してしまう。
だがすべては夢であり星条旗のパジャマを着て眠るドナルドがいた。目覚めると窓際から伸びていた物影をヒトラーと勘違いし、一瞬敬礼しようとするものの、それは自由の女神像のミニチュアだった。
喜びのあまりそれに熱烈なキスをし、像を抱きしめながらアメリカ国民であることを心の底から喜ぶドナルドであった。
そして軍歌とともにヒトラーの顔の戯画があらわれ、そこにトマトが投げつけられて、"THE END"の文字へと変わり映画は幕を閉じる。
登場人物
主人公。ナチランドの兵器工場で労働者として働いている。しかし労働環境のあまりの過酷さに発狂してしまう。
マーチング部隊のスーザフォン担当。眼鏡をかけた糸目の出っ歯という偏見で描いたアジア人の容姿。英語の発音も微妙に日本語っぽい。
マーチング部隊のピッコロ担当。
マーチング部隊のトロンボーン担当。
マーチング部隊のバズドラム担当。
マーチング部隊のスネアドラム担当。
余談
見ての通り当時のドイツやその同盟国であるイタリア、日本を徹底期に風刺(味方によってはこき下ろしてるようにも見える)してるが、一応ここで注意しておきたいのが戦時中はアメリカだけでなくどこの国も同じようなことはやっているので(日本で作られたプロパカンダ映画の撮影技術がその後の特撮でも生かされたという話なんかは結構有名である)、視聴する際は現在とは価値観も考え方も違うことを前提条件として視聴してほしい。
また、ディズニーはこの作品の他にも「ドナルドの襲撃部隊」(原題はCommando Duck)など、今作ると国際問題待ったなしの映画(簡単に言うとアメリカ軍人のドナルドが日本を攻撃して占領するというもの。ちなみにこの作品は、本作とは違い、日本でもポニー版のビデオ『ドナルド・ダックのドタバタ50年』で収録されたこともあるが、流石にマズかったのか、バンダイで再販された際には削除されている)を大量に制作しているが、こうした露骨な風刺、プロパカンダを作った背景にはディズニーの苦労もあったとされる。国家全体が戦争の為に団結するのはアメリカでさえ例外ではなく、そういった事情もあってメディアという形で協力を強いられていた背景や、当時のディズニー社は資金面で大変な困難に直面していて、会社の存続のためになりふり構っていられない状況であった。実際各国が戦時体制になってしまい、ドイツ、イタリア、日本といった敵国の市場で全く商売ができなくなったばかりか、連合国側でさえイギリスなどは民間企業が国内市場から得た収益を凍結してしまっていた。
ただし社長であるウォルト・ディズニーは、初期こそ政治とは一定の距離を置いて映画を制作していたが、第二次世界大戦が始まるとこうした政治色の強いプロパカンダを推進したと言われている。彼は白人至上主義的な考えが強かった訳ではないが、太平洋戦争のプロパカンダ映画における日本人に対する扱いはかなり酷いもので、映画を見ると露骨に猿っぽい姿で描かれているがこれは軍や政府からの要請ではなくウォルトが自らの信念に基づいて制作したものであると言われている(もっとも、当時の欧米人のイメージする日本人なんて大体こんなもんだが)。上述した通り「総統の顔」をはじめとするこうしたプロパカンダはウォルトの人種差別思想が強い物も多くディズニーからも黒歴史扱いされている(近年はポリコレや多様性が叫ばれるようになっているから尚更だろう)。
一応擁護しておくと、「総統の顔」で自由の女神の影がナチス式敬礼をしてるように見えるのは「油断しているとアメリカもこうなりかねない」「アメリカもドイツも思想が違うだけでやってることは同じ」的なメッセージも込められていると一説には言われている(断言されている訳ではない)。
実は、この作品は1942年のアカデミー短編アニメ賞受賞作品でもある。だが、その後、ディズニーの短編アニメは、MGM制作の人気作品であったトムとジェリーの大躍進によって、本作以降も『理性と感情』(原題はReason and Emotion)『グーフィーのアメリカンフットボール教室』(原題はHow to Play Football)『ドナルドの罪つぐない』(原題はDonald's Crime)など、数多くの短編アニメがアカデミー賞短編アニメ賞にノミネートされるも、1943年以降はトムとジェリーの作品(「勝利は我に」「ネズミ取り必勝法」など。特に前者はこの話と同じく戦争が題材になっているプロパカンダ作品(但し、この話とは違い、「勝利は我に」の場合は、現在でも(日本を含めて)DVDで収録されている)という点で共通している)がアカデミー賞短編アニメ賞を受賞する機会が多くなり、1953年に『プカドン交響楽』(原題はToot, Whistle, Plunk and Boom)が受賞されるまで、ディズニーの短編アニメがアカデミー短編アニメ賞を受賞されない時期が続いてしまった。