翼獅子(ダンジョン飯)
よくじし
ダンジョン飯に登場するキャラクターの一体であり、同世界に古代から存在していた超存在・悪魔の現在における姿。
狂乱の魔術師に力を与え、ダンジョン飯の舞台である島に『迷宮』を作らせた存在で、名前の通り翼の生えた雄ライオンの姿をしている。
7巻から名前だけが登場し、その後本作のキーキャラクターとして登場。
迷宮の主である狂乱の魔術師・シスルによって封印され、その強大な力を迷宮の運営にのみ利用されている状態にあり、敵を同じくするライオスたちと奇妙な共闘関係を築くことになる。
諸悪の根源にしてすべての元凶とも言える存在だが、そうなった経緯には本人にとっても色々不本意な事情が絡んでおり、ライオスたちにとっては冒険を手助けしてくれる存在でもあった。
元々は黄金の国の守護獣として崇められていた為、当初は封印された聖獣のような描写もされていた。「狂乱の魔術師を打ち倒す者の出現」や「その為には翼獅子の力を借りる必要がある」との予言を残した伝説も残っている。
頭部だけの状態でも、翼の部分を手のような形で使うことが可能で、自身が封印されている本から頭部と翼を出現させることで移動したり、ライオスが閉じ込められた樹をこじ開けたりしている。
基本的には紳士的で穏やかな性格をしており、永い間人間との交渉を続けてきた為、どのような状況でも理知的な言動をとる。
一方でフランクさも持ち合わせており、初登場時にはライオスに「お前はバカなのか?」とツッコむなど、どこか人間臭いコミカルな表情や行動が特徴的。
他人を理由なく悪戯に苛もうとする悪意は一切なく、一方的な搾取より「Win-Winの関係の方が皆ハッピーじゃないか」との考えにも一切嘘は無い。
とは言え、そこは悪魔。自身唯一の目的である「現迷宮から解放され自由になる事」と「人間の欲望を味わい続ける事」の為には手段を選ばず、口八丁手八丁であくまで互いの利になるように話を進め納得させつつ、自分にとって都合の良い方向に持っていく狡猾さも持ち合わせる。
初登場時の段階から、偏った真実を吹き込むような言動や行動が目立ち、どことなくうさん臭く怪しげな雰囲気を漂わせていた。
親記事たる「悪魔」の経緯も参照。
千年以上前の「黄金の国」において、迷宮遺跡に隠された翼獅子の像の中に、さらに書物として封印されていたが、平和繫栄を望むデルガルのためにシスルが見つけ解放。
彼の願いである「誰も老いる事も死ぬ事も無い恒久平和の国」を叶えるべく、国全体を地下迷宮「黄金郷」へと作り変える事に助力した。
当初はそれなりに関係は良好だったが、望まぬ状況が頻発する黄金郷社会に苛立ち暴君と化していったシスルと齟齬が生じ始め、遂には頭部と体に分けられ魔書に封印されてしまう。
以降はそんな現状を打破しようと、夢を介して黄金郷の住人たちを導き、ライオスたちとはケン助を通して接触。シスルの私宅で発見された書物をマルシルが解呪した事により、頭部だけでライオスたちと交流し、彼らのシスル打倒にアドバイザーとして尽力するようになる。
しかしライオスとの戦いの末、シスルが無力になった瞬間の隙を突き、「ずっとお前の欲望を食う機会を待っていた」と千年に渡って熟成された彼の欲望を取り出し、彼の前でこれ見よがしに食って見せ廃人にした。
長年自分勝手にこき使われてきた仕返しもあったのだろうが、その際の振る舞いや表情はまさに悪魔。
次なる獲物として、以前から目をつけていたのはマルシルとライオスの二人。直後ダンジョンを封じにきた「カナリア隊」に襲われ追い詰められたマルシルに本の封印を解かせ、彼女を新たな「迷宮の主」に昇格させる。
実はシスルと大差ない願いを抱いていた彼女を懐柔し、共に魔物の大軍を率い、迷宮と外界の境界を破壊。世界と迷宮を一つに混ぜる形で、マルシルの願いと自身の悲願を果たそうとする。
その後追いついた仲間達の説得でマルシルは頭を冷やし、本人達の提案で迷宮の主をライオスへ移譲。超存在としての余裕か、わざわざライオス達の話し合いが終わるまで待つ律儀さも見せた。
ライオスは当然即「翼獅子の無力化」を願うが、「本当の願いはそうじゃないだろう」と逆に説き伏せ、彼の魔物好きが「自分と妹を理不尽に虐げてきた人間への嫌悪」にあると看破。トドメとしてマルシルを一人にしないと言われ、ライオスと人魔の存在を入れ替える形で、彼の悲願であった「俺の考えた理想のモンスター」へと変貌させる。
逆に自身は「迷宮の主ライオス」の存在を得て、遂に自分自身の意志だけで力を振るえるようになり、念願の迷宮外へと足を踏み出した。
同時に世界中の時を止め、全人類を自分の世界に取り込み幸福な夢を見せ続ける事で、誰もが満ち足り味わう欲望が減ることもない「永遠の食卓」へ遂に王手をかけ、理性なき獣として襲ってきた魔物ライオスも難なく倒す。
「……お前、何を食べた?」
が、突如自分の中から「食べたい」という、全ての行動原理であった情動が急速に無くなっていく異常事態に悪魔は気づく。
実は悪魔の目的を知ったライオスは、「理想のモンスター」の特徴に「欲望を消化する」という能力を後から書き加えていた。「悪魔がぞっこんになる『欲望』とはどんな味なのか知りたい」と思ったが故であり、皮肉にも悪魔はライオスの欲望を叶えたことによって、存在し得ない筈だった自らの天敵を生み出してしまったのだ。
その事に気づき血相を変え彼の内世界へ侵入する「翼獅子」だったが、精神での戦いに優劣はなく、最期は敗れ、欲望を食い尽くされてしまう。
「悪魔という個」で居続ける理由を失った彼はカタチを保てなくなり、元の魔力へと還っていった。最後に「今一番の願いが叶わなくなる」というライオスへ仕返しの呪いと、「食べる欲と必要」から逃れられない全生命への皮肉を残して。
その後、蘇生中"食欲"を糧に現世へ帰ろうとするファリンの魂の前に登場。呆れ交じりの激励と共に彼女を見送った。
翼獅子(悪魔)の正体こそ明かされたものの、作中では異次元からやってきた存在や、悪魔が消えた後にどうなるか、などの全ての情報が明かされた訳ではなく、また、翼獅子のキャラクターについても少々解釈の余地がある。
一方で、悪魔自身に悪意はないと劇中で断言されており、欲望を食う為に欲望を叶える存在とは、裏返せばあらゆる人間の願いを叶える存在でもある。
これは、ある種の人間の救済でもあり、作中でも翼獅子から救い出された人間たちは、当初は翼獅子の手から救われた事を若干残念がる姿を見せた。その傾向は迷宮の主だった者たちにはさらに顕著で、あまりの喪失感から絶望と悲嘆に暮れる者も少なくない。