解説
口・唇・顎の三点を動かさずにしゃべり、あたかも脇に抱えた人形がしゃべっているように見せかける芸能の一種。
腹で話す術、と書いて腹話術だが、勿論本当に腹部で音を出しているわけではない。またく上記三点を動かさないだけであり、唇を軽く(「イ」の音を出す程度に)閉じ、声帯から声を漏らすことで、人形が喋っているように見せるのである。
破裂音との戦い
「口を閉じる」という大原則の上で、「バ」「パ」「マ」の破裂音(唇を振るえさせることで出す音)は最大の壁とされており、一般的に出すことは不可能とされてきた。熟練した腹話術師でも出すことは難しく、ほとんどの場合は破裂音を含まない別の言葉で、セリフを賄っている。
しかし、腹話術師いっこく堂氏が、独学でその方法を開発。普段の会話とまったく遜色のない破裂音を、舌を唇の代わりに振動させるというテクニックを用いて出すことに成功した。体得に4年という年月を要したものの、この技術は日本の腹話術の歴史においても革命といえる出来事といえよう。
歴史
西洋のおいては、紀元前5世紀のギリシャにその原形を操れる人間がいたことが記録されており、また聖書にも腹話術師と思しき人物が登場しているという。
この頃の腹話術は、いわゆる宗教的なパフォーマンスであり、お告げや信託を腹話術で人形などにしゃべらせることで、神秘性を高める手段としていた。
しかし、中世ヨーロッパになって魔女狩りが横行しはじめると、腹話術も魔術の一種としてやり玉に挙げられるようになってしまう。
それから18世紀後半になって、ようやく演芸の一つとして進化を遂げていき、19世紀から20世紀前半にかけて大きく発展を遂げていくことになる。
日本では、江戸時代にあった『八人芸』という人形芸の演目の一つがその源流であるとされているが、からくりを用いたものであり正当な腹話術とな違うらしい。
本格的な腹話術は、第二次世界大戦後の復興期から経済成長期に発達し、花島三郎・川上のぼるらなど、寄席などの大衆芸能の場から本格的な研究がなされ、現在に至っている。