解説
伝承によると金峯山で修行中の役小角が苦しむ人々を救うため顕現させたという。
世の人々を救いたいという彼の前にまず釈迦如来が現われたが、今の世の荒々しい人々を教化できないと小角は感じた。
次に千手観音、さらに弥勒菩薩が現われるも、慈悲深い仏菩薩のことを乱れた世の人々を受け入れないと嘆いた。
次に現われたのは、明王の如き憤怒の相を持つ蔵王権現であった。小角はこの荒ぶる仏神こそ乱世にふさわしい本尊として選んだ。
鬼神の如き容貌のこの仏神は、実は先に小角の前に現われた三人の仏菩薩を本地仏(本体)とする権現(化身)である。
更に神仏習合の思想から、神道においては広国押武金日皇命(ひろくにおしたけかなひのみこと)いわゆる安閑天皇と同一と説かれ、大己貴命(大国主)、少彦名命、国常立尊、日本武尊、金山毘古命などとも習合し同一視された。
その為、蔵王権現を祭っている神社では、主に上記の五柱の神々らを祭神とするようになった。
ただ、伝承は存在するが史実の役小角と蔵王権現に結びつきがあったのかどうかは、歴史学的には是非の断言はできない(しかし、挿話の一部が非合理だからといって全てを否定するのは学問的な文献批判とされないため、そうした伝承や神話などは史実であるかどうかはさておき「真実」と見做される)。