概要
大乗仏教においては神仏が、他の姿をとって地上に出現する、という考えがある。
上座部仏教に伝承される『ジャータカ』にもシビ王の徳を試し、生命の平等を伝えるために鷲と鵠(白鳥)の姿となって現われる帝釈天の説話が納められている。この話は他の仏教説話でも語られ、鷹と鳩の組み合わせのバージョンもある。
シビ王物語と共通する構造の物語は『マハーバーラタ』でも語られる(こちらはシビ族の王ウシーナラが主人公でインドラが鷲に、アグニが鳩になる)。
大乗仏教での「仏菩薩の現われ(化身)」の概念はヒンドゥー教におけるアヴァターラ(維持神ヴィシュヌの10化身が代表的)と共通するものとなった。
すなわち、高位の超常的存在が化身として衆生のあいだで生まれ、教化・救済のために活動する、という世界観である。
大乗の伝統での一例としてチベット仏教においては歴代ダライ・ラマは十一面千手観音の生まれ変わりとされる。
中国においても、天台宗の開祖・智ギは『法華経』の注釈書『法華文句』において、『法華経』に登場する名月天子は月天子で勢至菩薩の化身、普光天子は明星天子で虚空蔵菩薩の化身、宝光天子は日天子で観世音菩薩の化身である、と記した。
唐の時代には三皇五帝の伏羲が観音・日天の、女媧が勢至・月天の化身とされた。
中国や朝鮮を介して仏教が伝来すると「自国に伝わる神々は仏菩薩の化身である」という観念は日本においても展開されることになった。
「権現」とは「かりに現われる」という意味で、その本質が仏教の尊格である事を示す。
「権」の字は同じ文脈で「権類」「権化神」という語にも使われている。これは神々の分類を示すものであり、尊格の化身などではない、迷える衆生そのものとしての神々を意味する「実類」と対となるワードである。
本地垂迹説に基づき、主に日本神話の神々や神格化された人物(人神)に対して「権現」号が用いられた。両者のケースとも異なる独自の信仰対象として感得された蔵王権現も大己貴命、少彦名命、国常立尊、日本武尊 、金山毘古命等と習合し、ここでも「神仏習合」の構図が完成する。
「熊野三所権現」「日光三社権現」のように、祭神そのものだけでなく祀る寺社をそのまま指す語としても用いられていた。神田神社を「神田明神」と呼ぶようなケースである。
「権現」の例
飯綱権現:大日如来、勝軍地蔵本地説のほか不動明王、歓喜天、迦楼羅天、荼枳尼天、宇賀弁財天の「五体合相」ともされる天狗形の権現。
金毘羅権現:十一面観音、毘沙門天、不動明王を本地とする水の神。
熊野権現:阿弥陀如来の垂迹家津美御子を中心とする三所あるいは十二所権現。念仏信仰との縁が深く一遍、法然、親鸞とのエピソードを持つ。
蔵王権現:修験道系権現の代表格。釈迦如来、千手観音、弥勒菩薩が末法の世で教化するに相応しい荒々しい化身として現われたとされる。
実道権現:十一面観音の化身天満大自在天神として神格化された菅原道真の呼称。江戸期から呼ばれ始めた。
清瀧権現:善女龍王と同体とされる真言宗醍醐派総本山・醍醐寺の守護神。
天妃媽祖大権現:観音菩薩とも習合する道教の仙女・媽祖。青森県下北郡大間町の大間稲荷神社で現在も祀られる。
東照大権現:薬師如来の化身とされる「神君」としての徳川家康の呼称。
三鬼大権現:厳島に祀られている三柱の鬼神。天狗を従え神通力で衆生を救うとされる。伊藤博文も篤く信仰したという。
pixivでは
戦国BASARAシリーズの徳川家康の公式肩書き「東照権現」から、この作品での家康のイラストにもこのタグがついている。
また、さまざまなタグ名にも用いられている。