概説
梵名を「アーカーシャ・ガルバ【आकाशगर्भ/[Ākāśagarbha]】」、または「ガガナ・ガンジャ【गगनगञ्ज/[gaganagañja]】」といい、虚空蔵は「アーカーシャ・ガルバ」の漢訳にあたる。
その意味は「虚空(≒宇宙)の胎内(蔵)」とされている。
そこから転じ、「宇宙のように広大無辺の智慧と慈悲を持つ菩薩」とされる。
文殊菩薩・普賢菩薩・勢至菩薩と並ぶ“智慧の菩薩”で、救い求める者に応じて膨大な知識から最適の答えを導いてくださるという。
智慧の菩薩としては“閃き”を司る文殊に対し、身に付けた“知識”で人々を救うことを本分とする。
砕いて言うなら、パズルなどの直感力を得意とするのが文殊、クイズなど知識量が試される分野が得意なのが虚空蔵、と考えられる。
弘法大師こと空海がおこなった記憶力増進の修行「虚空蔵求聞持法」(こくうぞうぐもんじほう)でも知られる菩薩で、空海はこの修行を修めたことで虚空蔵菩薩から膨大な知識と強い験力を授かったとされている。
多くの菩薩には対になる存在(文殊に対する普賢、勢至に対する観世音菩薩)がいるものだが、虚空蔵菩薩に限っては該当する存在が見当たらない珍しい菩薩様でもある。これについては地蔵菩薩が対であったとする説がある。アーカーシャには「天」という意味もあり、少なくとも名称的には「地の蔵(クシティ・ガルバ)」という尊名を持つ地蔵と対となる。
東大寺の毘盧遮那仏像(奈良の大仏)の脇侍の片方は虚空蔵菩薩だが、もう一方の如意輪観音とは像容はほぼ同じながら(宝冠のデザインは異なる)、左右対称のポージングになっている。
(如意輪観音のほうは、東大寺創建時には通常モードの観音の像とされていたらしい)
五大虚空蔵菩薩
虚空蔵菩薩が持つ五つの智恵を擬人化したものとも、金剛界曼荼羅の五智如来の化身とも言われる五体の虚空蔵菩薩。
・法界(ほうかい)虚空蔵:方角は中央、身体は白色。大日如来に対応。
・金剛(こんごう)虚空蔵:方角は東方、身体は黄色。阿閦如来に対応。
・宝光(ほうこう)虚空蔵:方角は南方、身体は青色。宝生如来に対応。
・蓮華(れんげ)虚空蔵:方角は西方、身体は赤色。阿弥陀如来に対応。
・業用(ごうよう)虚空蔵:方角は北方、身体は黒紫色。不空成就如来に対応。
東寺観智院に残る五像では、法界虚空蔵が馬に、金剛虚空蔵が獅子に、宝光虚空蔵が象に、蓮華虚空蔵が金翅鳥に、業用虚空蔵が孔雀に乗る。
対応する五智如来とは騎獣が入れ替わっている(大日如来:獅子、阿閦如来:象、宝生如来:馬、阿弥陀如来:孔雀、不空成就如来:金翅鳥)。
鰻とのつながり
日本各地に、うなぎを虚空蔵菩薩の化身や使者とする伝説が伝わり、数十カ所の地域うなぎを食べる事を禁忌とするルールが伝わっている。虚空蔵菩薩を祀る地域の人は食べない、というルールや、守り本尊として担当する丑、寅の年生まれの人が食べない、というパターンもある。
御利益
学業成就、記憶力増進、頭脳明晰、商業繁栄、技芸向上、丑年・寅年の守り本尊
御真言
通常
オン バサラ アラタンノウ オン タラク ソワカ
求聞持法
ノウボウ アキャシャ ギャラバヤ オン アリキャ マリ ボリ ソワカ