虎よ、虎よ!
とらよとらよ
『虎よ、虎よ!』(原題:Tiger! Tiger!)とは、アメリカの小説家アルフレッド・ベスターが1956年に発表したSF小説。
『アレクサンドル・デュマ』の小説『モンテ・クリスト伯』を下敷きに、誰もがテレポーテーションできる世界で、復讐を成し遂げようとする男の物語である。
原題の "Tiger! Tiger!" は、ウィリアム・ブレイクの詩「虎」 (The Tyger) の冒頭「虎よ! 虎よ! あかあかと燃える」 (Tyger, Tyger, burning bright) に由来する。
別題として『わが赴くは星の群』(わがおもむくはほしのむれ、原題:The Stars My Destination)もある。
ジョウント博士が解明した瞬間移動/テレポーテーションの体系化技術により、練習を重ねた一般人なら誰でも瞬間移動で何処にでも行けるようになった25世紀の未来社会。交通機関は存在意義が激変し、ジョウント盗賊を防ぐ工夫が行われ、太陽系は内惑星連合軍と外衛星同盟の間で戦争が勃発した混沌の世界にて…
難破した宇宙船ノーマッドの中で独りだけ生存していたガリヴァー・フォイルは、自分を見捨てた宇宙船ヴォーガへの復讐を誓う。彼の行動はやがて、ノーマッドの積荷を巡って太陽系全域を震撼させる大事件へと発展していく。
登場人物たちの名前はイギリスの都市から取られている。
- ガリヴァー・フォイル
主人公。商用宇宙船《ノーマッド》の唯一の生存者。遭難から171日後、通りかかった宇宙船《ヴォーガ》に見捨てられ、復讐を誓う。その後アステロイド・ベルトに棲む《科学人》たちによって捕らえられ、彼らの習慣に従って顔に「N♂MAD」と虎の刺青を入れられる。地球に帰還後は、復讐を成し遂げるために行動をしていくことになる。刺青は後に取り除かれるが、フォイルの感情が制御不能になると、皮膚の下に残った虎の刺青が浮かび上がる。
2部ではジョフリー・フォーマイルの偽名を使い、成り上がりの大富豪としてプレスタインに挑む。軍事用の身体改造手術を受けており、右上の奥歯にあるスイッチを押すことで主観時間を加速し高速戦闘が可能になっている。宇宙最強の異能者。
- プレスタイン(Presteign)
地球有数の財閥であるプレスタイン財閥の家長。洗脳と整形によってプレスタイン本人に似せた「ミスタ・プレスト」が店長を勤める高級デパートなどを経営している。この時代の多くの富裕層たち全般に言えるが、ジョウントで移動することを恥ずべきことだと思っており、自動車や馬車など既に時代遅れになった交通手段で移動することで社会的地位を示す。
- ロビン・ウェンズバリ(Robin Wednesbury)
思考を送信することはできるが、受信することはできない一方通行テレパスの黒人女性。ジョウントのリハビリ施設で働いている。 フォイルはジョウント能力を失ったフリをして近づき彼女はその嘘を見破るが、フォイルは彼女を誘拐し、脅迫して仲間に加える。フォイルがジョフリー・フォーマイルとして上流階級に紛れ込むのを助ける。
- ソール・ダーゲンハム(Saul Dagenham)
信用組織《ダーゲンハム・クーリア・インコーポレイテッド》の創設者である小柄な男。遺棄されたノーマッドの位置を明らかにするため、ガリヴァー・フォイルの捜索と尋問をプレスタインに依頼される。以前は物理学者だったが、事故にあい、放射能を発する身体になってしまったため、他人と一緒の部屋に長時間留まることを禁じられている。《ダーゲンハム・クーリア・インコーポレイテッド》は公称一億人の組織で、盗難、誘拐、監禁、尋問、スパイなどの任務を遂行する。組織の標語は「FFCC」または「Fun、Fantasy、Confusion、and Catastrophe(楽しみ、空想、混乱、破局)。
- ピーター・ヤン・ヨーヴィル(Peter Y'ang-Yeovil)
政府中央情報局の男。孟子の子孫を自称し流暢な北京語を話すこともできるが、外見的には全く中国人に見えないほどこの時代では人種間の混血が進んでいる。
- オリヴィア・プレスタイン(Olivia Presteign)
プレスタインのアルビノの娘。盲目であるためジョウントできない。可視光を見ることはできないが、赤外線スペクトルや磁力線などを電磁波として見ることができる体質の持ち主。フォイルとは運命的な出会いをする。
- ジスベラ・マックイーン(Jisbella( "Jiz")McQueen)
窃盗罪で捕まった赤毛の女性。誰もがテレポートできる世界において、女性を「保護」するために女性に課せられた制限に抵抗するために犯罪者ななった。地下刑務所グッフル・マーテルで5年間の「治療」に服していた。フォイルと地下洞窟の反響で会話できることを知り、彼に知識を授け、後に一緒に逃げ出す。
- 燃える男
ガリヴァー・フォイルが危機に陥ったり、復讐計画に迷いを感じたりする時、突如現れてガリヴァーを導く謎の存在。顔に「N♂MAD」という文字と虎の刺青があり、全身が炎に包まれている。
いわゆるプロローグ部分だけで一気にジョウント社会の顛末が語られ、ここだけで複数の挿話も含まれる程に革新的な設定が盛り込まれている。その上でガリヴァー・フォイルの復讐劇がスタートするため、読者にとっても世界観の理解がしやすい内容となっている。
本作の設定が後世のSF作品に与えた影響は非常に大きく、日本のクリエイター達も本作のアイディアに影響を受けまくっている。
- 有名な所では「奥歯に仕込まれたスイッチで加速装置が作動する」という『サイボーグ009』の元ネタ。「感情が高まると顔の手術跡が浮かび上がる」という描写も『仮面ライダー(漫画)』に流用されている。
- 『装甲騎兵ボトムズ』の、キリコ・キュービィーが何者かの陰謀で陥れられ、その黒幕を自力で解明していくうちに宇宙全体の秘密にたどり着くというプロットにも影響を与えている。
- 『仮面ライダーカブト』では瞬間移動技術にジョウントの名前が与えられている。クロックアップのみならず、宇宙最強男のドッペルゲンガーという展開も本作のオマージュかもしれない。
- 本作は小説だが、文字のサイズや配列が激変してインパクトを出したり、果てには挿絵カキモジになったりするタイポグラフィ表現が活用されている。同様の効果は『僕は友達が少ない』の原作小説等でも多用されて話題になっていた。
- アニメ『巌窟王』 元々は『虎よ、虎よ!』アニメ化するつもりだったが、著作権的に難しく断念。そこでモンテ・クリスト伯を独自解釈でアニメ化した作品となった。
- エドモン・ダンテス(Fate) Fate/GrandOrderに登場するモンテ・クリスト伯を元にしたキャラクター。超高速戦闘であったり、宝具名が『虎よ、煌々と燃え盛れ』など、戦闘スタイルに本作のオマージュ的な要素がある。
- SFゲームである『ゼノブレイド2』にて登場するミニゲームの名前に原題である『Tiger! Tiger!』が流用されている。他にも敵役の武器が加速能力であるなど、色々と影響を見て取れる。