蛮勇引力
ばんゆういんりょく
犬は、鎖につながれることで生きのびる道を選んだ
狼は、奴隷になれぬがゆえに絶滅に向かっている
蛮勇引力とはかつて山口貴由がヤングアニマルにて連載していたサイバーパンク漫画である。冷厳なる管理社会が敷かれた架空の首都「神都」を舞台に、侠客然とした漢(おとこ)たちが人間の尊厳を守る戦いを繰り広げる熱血漫画であり、山口作品のテーマである「支配への抵抗」を突き詰めた内容となっている。
山口作品の中でもとりわけアクの強い作品であり、全4巻(愛蔵版は上下巻)と短いながらも、バイオレンスで骨太なストーリーが展開されており、ある種異様なまでのテンションの高さを誇っている。作品世界を象徴する冷たく洗練されたメカニックデザインと、それに相反するようにアナログで無骨な主人公達のキャラクター造型も独特な雰囲気を演出しており、哲学無き科学が人間性を宿した文明文化を駆逐する諸行無常がこれでもかと描き抜かれている。
登場人物達は江戸時代初期の一大事件「由比正雪の乱」に携わった者達を名前のモデルにしており、この物語が「体制に反発する者達の戦い」であることを強調している。
その一方、冒頭の詩で示した通り正雪らの抵抗は絶対的な正義の行いではなく、せっかくパンデミックから生き延びる道を見つけた人類を絶滅に向かわせる文字通りの「蛮勇」「蛮行」でもあることも示唆されている。外連味と勢いで美化されているが、主人公たちの行いは所詮手前勝手なテロリズムに過ぎないと冷や水を浴びせるかのごとく、戦いを終えた神都が悲惨な末路を迎えることが作品終盤で語られている。
その上、後の作品「エグゾスカル零」にて他の山口作品との繋がりが設定された際、「覚悟のススメ」で崩壊した世界がようやく復興を始めたところを正雪が再びぶち壊しにしたことで、覚悟が地獄のような世界で蘇ることになった遠因を作ってしまったと明言されている。
連載がもっと続いていた場合は、外宇宙からやって来て地球に寄生しようとしているエネルギー生命体である神機力(宇宙怪獣)に対し、正雪という地球の化身(地球怪獣)がぶつかり合った結果全てが滅ぶという構想が愛蔵版下巻に収録された作者のインタビューにて語られている。
何事かを成し遂げた男の魂は不死であり、何者かになろうとする若者の胸にそれは宿る
支配者達は便利という名の仮面を付けて、ゆりかごから墓場に至る人の暮らしのあらゆる場面で、その財産を何重にもしぼりとる社会をつくりあげた
奴らが勝手に決めたものを自ら望んでほしいものと思い込み、奴隷であることも気付かないまま、ただ一度の人生を文明の檻の中で生きてゆく
覚めるに値しない世の中だ
鷹よ、おまえの欲しいものはおまえだけがつかみ取れる何かだ
狼よ、花や鳥や風と月と共に生きよ
20世紀末に出現した流行性特異感冒「E-ウイルス」による人類絶滅を防ぐため、徳川惑星率いる徳川神機力産業は超エネルギー「神機力」を利用し、人の手を介さず衣食住全てをハイテク機器によって運営する安全都市「神都」を築き上げた。神都市民はかつて無いほどの平和で豊かな暮らしを手に入れたが、その平和は神機力を受け入れない浪人者(失業者)を非人道的手段で虐殺・隔離することによって成り立つハリボテの平和だった。
西暦2051年、その神都に1人の浪人者・由比正雪が現れる。胸に「敬人尊野蛮」・背中に護国吽龍を掲げる正雪は、神機力を人類の精神を蝕むものとして真っ向から否定し、徳川神機力産業の差し向けるロボット兵器を己の身体一つで次々と破壊していく。
正雪の「蛮勇」は、やがて神都中の浪人者を巻き込んだ巨大なうねりへと成長していく。
由比正雪
「肩書、所得、出身校、マイホーム、家柄、名声、そんなもの全て捨て去ったところに男の値打ちがある!」
「勘。」
神機力という新エネルギー産業で日本を支配せんとする徳川惑星にたった一人で戦いを挑むために「神都」に乗り込んだ浪人者。胸に入れ墨で刻んだ「敬人尊野蛮」の言葉をモットーに、蛮勇の猛るままに管理社会と戦いを繰り広げる男である。
敵であれば容赦なく殺す残忍さと、義理人情を重んじる暖かさを併せ持った曲者であり、その人柄は圧政に苦しむ者達の心を惹き付けてやまない。
ハイパーテクノロジーを磨き抜かれたドス一本で打ち破る戦闘力の持ち主であり、その生き様は侠客といって差し支えない。
金井半兵衛
神都に住む浪人者(失業者・ホームレスの意)の少年。無銭飲食やスリでその日を凌ぐ生活を送っていたが、由比正雪との出会いを切掛に彼の仲間になった。チンピラ然としているが、本作随一の良識人である。
響銀狐
「いいよ」
浪人者の未亡人。神都の体制に夫を殺された恨みから、夜な夜な役人を殺して歩く復讐鬼となった。言動は荒んでいるが、根っこは一本筋が通った女傑である。正雪と出会ったことで彼の仲間となり、後に丸橋忠弥と結ばれることになる。
丸橋忠弥
「一発やらせろ」
神都からつまはじきにされた者達で構成された自治地区である「やすらぎ」のボス。命がけでメルトダウンを停止させる特攻部隊、「原子力決死隊」の元隊員であり、有事の際にはパワードスーツである多重防護服「和」を着込んで戦いにおもむく戦士である。
やすらぎに落ち延びた正雪と意気投合し、共に徳川惑星に戦いを挑むこととなった。
筋骨隆々の超人であり、男気がそのまま人になったかのような豪快な人物。正雪曰く「男という名の生き物の最後の一匹」
比良部貝蔵
やすらぎに住む大人の玩具屋。かつて正雪が人生の礎を学んだ職人集団:張孔堂の生き残りであり、正雪の後見人として彼に叱咤激励を飛ばすことになる。
小柄な醜男だが瞳に炎を宿した漢であり、正雪に勝るとも劣らぬ腕前の戦士である。
徳川惑星
「失業者は社会の不平不満分子、いわば犯罪予備軍なり!」
新エネルギー「神機力」を開発した徳川神機力産業の総帥。財政界の巨魁にして日本を影から支配する権力者である。生まれながらに体内で強力な電流を生成することが出来る超人であり、神機力とは彼の生体電流を機械増幅したものである。
進化したウィルスによる人類滅亡を阻止すべく、神機力によるハイパーテクノロジーで構成した超管理社会「神都」を作り上げ、人類と神機力の融合を推し進めようとしている。が、それは同時に人から人間性と尊厳を奪い去る行為でもある。
独善的で傲慢な輩であり、自らの所行も「人への愛故の行い」といって憚らない。
松平伊豆守
徳川惑星が開発させた機械仕掛けの政治家。神機力の粋を集めて生み出された自立思考ロボットであり、神都都知事として由比正雪ら浪人者と血で血を洗う戦いに身を投じることとなる。神機力と人間の融合を推し進める徳川神機産業の走狗であり、彼もまた徳川惑星が布いたシステムの歯車に過ぎない。中曽根総理に忠誠の証として、自分の命であるコアユニットを預けている。
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※山口貴由先生の『蛮勇引力』の二次創作です。多分原作未読だとわけわかめ。 ※しかも松平伊豆×中曽根まりとかいう謎カプ。 ※伊豆←まりっぽいけど、まりに伊豆の記憶データが転送されたという解釈なので伊豆の思考も入っている。 ※時期としてはラスト近辺、伊豆も惑星も倒されて神機力全停止寸前。まりも本当は多分死んでる。 ※まり一人称のつもりだけど、まりの口調が原作と大幅に違う。そもそもまりがそんな純粋でもない。 ※タイトルはスペクタクルP氏のボカロ曲より。 ()の部分は、伊豆モノローグです。 今まで嵌ったのがメジャーCP中心だったので、マイナーCPの沼に嵌るという体験をさせて頂きました。 主人公サイドの2組は公式だと思うのですが、伊豆まりはきっと、原作も想定していないと思います(苦笑)。 しかし、書いておきながらですが伊豆まりはちょっと恋愛とは違う気がする。 神機力ロボ同士だからこそ芽生えた信頼関係とか、憧憬に萌えたのかもしれません。 神機力ロボは、躰は100%機械ですが感情を持った存在です。 もう、既に人への道を一歩歩み出した存在なのかもしれません。1,078文字pixiv小説作品