解説
Yak-1等のソ連製の新世代戦闘機は全て液冷エンジンを搭載していた。これは当局の方針という訳では無く、たまたま開発時のエンジン事情による物であった。しかし1941年夏になると優秀な空冷エンジン、シュベツォフASh-82(空冷星型複列14気筒1,330馬力)供給の目途がたったので、いくつかの設計局に対しこれを搭載した新型機の開発が命令された。
しかしLaGG(ラボーチキン、ゴルブーノフ、グドコフの3人による設計局OKB-301)はその中に含まれていなかった。命令とは言うものの、予め設計局に意向を打診しているもので、当時のラボーチキンは空冷化による抵抗の増大や機体幅の拡大を嫌い、あまり気乗りしなかったのである。本命はクリモフVK-105と同系列のクリモフVK-107(液冷V型12気筒1650馬力)エンジンであり、改良を施したLaGG-3に載せる予定であった。
しかし、VK-107は1942年に完成していたのに生産現場に新しいエンジンを受け入れる余裕がなく、量産開始はドイツ軍のBf109のエンジンがDB605(液冷倒立V型12気筒1775馬力)に更新された1944年以降までずれ込んだ。
その間もLaGG-3は生産ロットごとに改良されていったが、ついに第153工場の生産ラインをYak-7へと置き換える命令が下されてしまった。これをよしとしないラボーチキンは、空冷化LaGG-3による生き残りに掛け、設計を開始した。
液冷V型エンジンから空冷星型エンジンへの挿げ替えには、取り付け部の改造以外にも、重心や推力中心、補機類の取付け位置などの変更が必要となる。これらを解決した試作機は1941年12月、初飛行にこぎつけた。速度、上昇力共に大幅に向上したが、相変わらず離着陸で事故が頻発し、他にも不具合が残っていた。この為スターリンがラボーチキンを呼びつけ直々に改善をせまったという。
空冷LaGG-3はLaGG-5として量産が開始された。1942年6月からソ連軍に引き渡されたLaGG-5は、8月に実戦テストに送られた。
実戦参加
LaGGの3人は1941年から既にソロ活動となっていたため、LaGG-5は1942年9月からラボーチキンの名を冠してLa-5となり、スターリングラード攻防戦に投入された。これまでのソ連軍の全ての機体を凌いでいたが、ドイツ機相手にはまだ能力不足であった。
改良が進められ、La-5Fを経たLa-5FNはBf109Gと互角の性能となった。
後継機への切り替え
La-5の1944年型として改良が施されたものがLa-7と新たにナンバリングされ、生産が始まっている。La-5全タイプの生産は1944年末に終了、総生産数は9,920機である。
各種派生形
La-5
最初の生産型。生産性を高める為、エンジンより後ろは殆どLaGG-3と同一であった。試作型では備えられていなかった、主翼前縁の隙間翼が新たに備えられている。高出力空冷エンジンであるシュベツォフASh-82を搭載した事により、アンダーパワーが幾分改善されている。しかしながら、このエンジンは冷却不足でシリンダーヘッドが過熱する問題があり、エンジンの全力運転に制限がかけられていた。
La-5F
発動機をシュベツォフASh-82F(空冷星型複列14気筒1700馬力)に換装した。過熱問題の解消により運転制限も解除された。外翼の燃料タンクの削除や防弾鋼板の減厚による軽量化も行われた。最高速度は高度6,200mで590km/hと10km/h向上している。
La-5FN
発動機を燃料直噴式のシュベツォフASh-82FN(空冷星型複列14気筒1850馬力)に換装。主翼の桁が金属製となった事などにより重量が軽減され、軽快な操縦性を得た。
1943年3月に生産が開始され、クルスク戦以降、大量に配備された。
La-5UTI
La-5Fを複座とした練習機。
La-5TK
ターボ・チャージャー付きASh-82FNエンジンを搭載したモデル。生産数ごく少数。
性能諸元
各種形式 | La-5 | La-5F | La-5FN | La-5UTI |
---|---|---|---|---|
全高(m) | 2.54 | ← | ← | ← |
全幅(m) | 9.80 | ← | ← | ← |
全長(m) | 8.67 | ← | ← | ← |
発動機 | シュベツォフ ASh-82/1,330馬力 | シュベツォフ ASh-82F/1,700馬力 | シュベツォフ ASh-82FN/1,850馬力 | シュベツォフ ASh-82F/1,700馬力 |
最大速度(km/h) | 580 | 590 | 648 | 600 |
航続距離(km) | 1,190 | 760 | 1,000 | 720 |
全備重量(kg) | 3,230 | 3,200 | 3,168 | 3,210 |
上昇限度(m) | 9,500 | 9,550 | 11,000 | 10,000 |
武装 | ShVAK20mm機関砲×2 | ← | ← | ? |
爆弾 | 小型爆弾またはRS-82ロケット弾×6 | ← | ← | ? |