汝、"神"を試すなかれ。
概要
アイテム番号:SCP-343
オブジェクトクラス:Safe
SCP財団が管理するSCPオブジェクトの一つ。
項目名は「"神"("God")」。
すがすがしいほどにド直球の項目名だが、説明冒頭からいきなりコレである。
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SCP-343は見た所人種不明の全知全能のように見える男性です。
SCP-343はプラハの街道を歩いているところを発見され、街道から消えて屋上に現れた所を目撃された後に引き留められました。
SCP-343は収容することが不可能ですが、彼の部屋に喜んで留まってくれています。
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「全知全能のように見える」って何だ、とつっこまずにはいられない。
またオブジェクトクラスがSafeにもかかわらず「収容することは不可能」であり、SCP-343の意思で収容されているという事は当然その逆も有り得る。
それってKeterって言わね?というのもつっこみポイントである。
そして、収容方法についてもおかしいポイントがある。
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SCP-343は、サイト17の最小限の警備がつけられた6.1m平方(20ft平方)の部屋に居住する。
要求されたものはどんなものでも支給せねばならず、毎日最低1人の職員が訪問しなければならない。
更なるセキュリティーや安全予防措置を追加する試みは、SCP-343の性質のため不可能であり不必要である。
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……全知全能なら自分でなんでも揃えられるんじゃないか?ともだちとか。
そもそも財団はいかなる手段を使っても異常存在の封じ込めを図り続けているのに、その試みが不可能だとしても「不必要」なのはおかしくないか?
補遺
ところでこの記事、全体の4分の3近くが「補遺」によって構成されている。
担当研究員と思われるベック博士による、最初の補遺。
そこでSCP-343は
- 自分が世界の創造者であると主張
- 部屋の壁を歩いて通り抜け、数秒後にハンバーガーを片手に帰還
- 殺風景な部屋を、古式英国風の高級家具に囲まれ、暖炉まで完備した空間に拡張
- 人々と話すことを大いに楽しみ、あらゆる話題に対する知識を有している様子を見せる
といった行動・言動を取った。
博士によると、SCP-343を訪問することはここのスタッフの日課になり、全てのスタッフが訪問の後多大なる幸福感を覚えると報告している。部屋を監視する警備員が、自らの職務を放棄するほどに。
そして財団は現状で「SCP-343は無害である」とし、全てのスタッフに接触の許可が与えられる。
しかしベック博士はおかしいと思ったらしく、このレポートを公開状態で固定した。
続く補遺2。
そこには、セキュリティクリアランスレベル4かそれ以上の者のみ閲覧可能という制限がかけられていた。
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文章343-1aについて、入手できるもしくは表面上存在する関連記録は存在せず、同様にベック博士やSCP-343と共にこれまで働いた████████████ ███████████博士の全ての記録も消失し、現在は一切存在していないものと思われる。
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いきなり「文章343-1a」なんてものが出てきた。
そしてもう一点。
「████████████ ███████████博士」とは一体誰なのか?
財団職員は両方の存在を「知らない」とする一方、ベック博士は「やる気のないセクションの士気を高めるため」として、より高頻度の職員の配置転換を要求した。要するに、SCP-343のもとへ更なる訪問者を案内する事を目的とした要求である。
この要求は「より良い職務満足度と低い死亡件数という他の地域にはない特性」を理由として承認されたが、一方でベック博士に対する調査はO5-█の命令によって現在凍結となっている。
さて「文章343-1a」についてだが、これは████████████ ███████████博士なる財団職員が使用していたネットワークドライブの日常点検により、████年██月██日に回収されたものである。
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"[データ欠落]…[データ削除済]現在、…[データ欠落]…や彼らの目的について、SCP-343の'訪問者'は質問されている…[データ欠落]…他のSCPに関する質問は今後…[データ欠落]…████████████ ███████████博士の指示…[データ欠落]"
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そして、定期点検の際に回収された文書がもう一つある。
それが「文章343-1b」。
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―――明らかに私の指示が消滅している。B―――博士、私はもうこれ以上は容認できない。―――私の全ての記録と要求は、上層部から全く注意されなくなった。私は明日SCP-343と対面する。署名 ████████████ ███████████博士
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結論
「で、結局何なのさ?」というと、SCP-343は「"神"」である。
「何言ってんだこいつ」となるかも知れないが、本当にわからないから仕方がない。
あの小さな魔女のような現実改変者なのかも知れない一方、本当に神かも知れない。それ以外の可能性もあるかも知れない。
それら全てを含め、「わからない」としか言いようがない。SCP-343が自称する名前以外、何ひとつ。
その、全知全能をうたう"神"から、彼の許を訪問した財団職員への「質問」。その詳細は明らかではない。
しかし世界の、下手をしたら宇宙の崩壊まであり得る数多の「SCPオブジェクト」に大なり小なり関与する彼らが、おそらく嬉々として口にするだろう「回答」。
それは、彼らが「確保・収容・保護」するものと等しく、本来であれば誰にも知られてはならない危険なものではないだろうか?
それなのに上層部はその危険性を指摘するどころか、従来のプロトコルを無視して「SCP-343は無害である」とし続けている。"神"がそのように望めば、担当職員はおろかO5ですらそう認識し、調査を凍結する事など造作もないだろう。
████████████ ███████████博士はその危険性に気づき、SCP-343と対面。
しかしそこで"神"の手により、存在をまるごと抹消されたのである。
ネットワークドライブに断片化した2つの文書だけを残して。
「文章343-1b」の記述をもって、本記事は終了する。
そこに残った疑問はただ一つ。
──全知全能の"神"が、わざわざSCPオブジェクトとして財団に居座り、求め続けるものは何なのか?
それは文字通り、「神のみぞ知る」である。
余談
オブジェクトナンバーが3ケタである事からもわかるように、この作品はSCP財団初期に投稿されたものである。
一神教がメジャーな外国では「神」を題材とした大仰な描写の裏に透ける気味悪さがウケたらしいが、宗教ごった煮の我が国では当初「何言ってんだこいつ」的な扱いで、記事の短さもあいまって当初あまり良い反応ではなかったという。
またSCP財団では本家にせよ支部にせよ、全能感あふるる「ぼくのかんがえたさいきょうのもんすたー」が投稿されるたび、低評価を喰らって消えるのが通例だった。
しかしあまりにもひどい作品については「恥の壁」として晒し上げられた上、記事内で終了(処刑)される「Decommissioned」にされたものもある。
指定を受けた作品はアーカイブ化されており、現在でも閲覧する事が出来るが、SCP-343のパクリ……もとい表面だけ影響を受けたようなSCPオブジェクトが結構な頻度で登場。
大物感を出す為の恥ずかしい描写がこれでもかこれでもかと続いており、反面教師としての役目を遺憾なく果たしている。
SCP-6666
その後2021年、本家で開催された「SCP-6000コンテスト」において、惜しくも2位となった作品に、再び"神"が登場する。
なおあくまでも当該作品内での設定であって、あくまでも一つの解であることに触れた上で、簡単に記述する。
SCP-6666「魔性のヘクトールと恐怖のティターニア(The Demon Hector and the Dread Titania)」。
作者はdjkaktus氏。かのSCP-001にて提言を行い、壮大な世界設定や過去に発表された複数のSCPオブジェクトが関与する、重厚な内容の記事を数多く発表している。
著名なのはSCP-1730(サイト-13に何が起こったか?)、SCP-3000(アナンタシェーシャ)など。
SCP-6666は、アマゾン熱帯雨林に存在する、巨大な植物型実体……要するに、すげーでかい木である。地上ではなく地中の空洞にさかさまに生えており、そこに満ちた未知の毒霧を吸うと死んでしまう。
防護服をつけていれば近づく事は可能なのだが、全体的に枯れている中にも成長している根っこがあり、近づくあらゆる物体・生命体に対して攻撃してくる。
その親玉だろうか、六つ目で耳も口も鼻もない、傷と火傷だらけの巨人実体、通称「SCP-6666-A」の存在が確認されている。残念ながら現状意思疎通は出来ていない。
このオブジェクトに対し、財団では様々なアプローチから正体を突き止めようとした。
そのアプローチには、既知のSCPオブジェクト達へのインタビューも含まれていた。
SCP-073こと「カイン」は、SCP-1000こと「ビッグフット」、別名「夜闇の子」にまつわる数多のSCPオブジェクトについて語り、当時の自分は人間と距離を置いていたが、自分と同じ時代に生きていた「誇大妄想の気があるが、本物の魔法を使いこなす魔術師」について示唆する。
「誇大妄想」でふと思いついたインタビュアーが携帯端末で写真を見せると、カインは驚きつつも苦笑して肯定。その名を明かした上で「彼の方が詳しい」としてインタビューを行うようにアドバイスした。
「秘術師メトシェラ」。
かつて古代ダエーバイト文明のマリドラウグ家で宰相をつとめた男。
ダエーワの女王から血の魔術で寿命を引き延ばす方法を学び、齢数十万歳を数え、歴史の端々に様々な名と顔で登場した男。
それこそが、SCP-343だった。
SCP-343はアルト・クレフ博士によるインタビューであっさり正体に言及され、毒気を抜かれる。
そして「カインに素性を知られていたのが鬱陶しい」と文句を言いつつも、彼の本名が「マテュー」であり、出自や故郷、当時の支配者だった「空の王者」アポリオン王家、そして幼い日に目にした「六つ目の怪物」と、それがもたらした破滅を語った。
その中でクレフ博士が「夜闇の子」と口にした瞬間、SCP-343は激しく動転。医療スタッフを必要とするほどに苦悶を見せたがすぐに回復し、それに対する恐怖を強く示した。
カインと違い、長く生きる中で歳月と共に忘れた事も多いとするSCP-343だったが、「夜闇の子」を忘れる事など出来なかった。何故なら……
当作品は非常に長く、また複数のオブジェクトや世界が登場して物語を形成している。
その為詳細は割愛するが、思いがけずSCP-073とSCP-343が顔写真つきで登場している事もあり、一見の価値がある。