脚本:井上敏樹 監督:中澤祥次郎
あらすじ
とあるバーでポーカーに興じる男女がいた。
女「フルハウス。私の勝ちね。」
男「悪いな、ストレートフラッシュだ。この勝負に勝ったら何でも言うことを聞く。そういう約束だったな。」
女は願いは何なのかを問う。男はウイスキーグラスを傾けながら呟いた。
男「ここの酒は不味い。もっと美味い酒が飲みたいもんだ。」
巨大スゴーミンと戦うゴーカイジャーは、これまで手に入れた大いなる力を駆使して今日も勝利する。
宇宙帝国ザンギャックの旗艦ギガントホースでは遅々として進まない地球侵略にワルズ・ギルがため息をついていた。
ワルズ「こう何度も負けると、なんかいっそ清々しい。」
バリゾーグ「殿下、お気を確かに。戦いはまだ終わっておりません。」
ガレオンに戻ろうとするゴーカイジャーの前に立ち塞がる赤い影。
ゴーカイジャーの手配書を手にする姿に、相手は賞金稼ぎと認識したルカやジョーは「あら、光栄じゃない」「俺らも一流って訳だ」と不敵に笑うが、マーベラスの顔は青ざめていた。
マーベラス「お前は…!」
その赤い男の名前は、宇宙一の賞金稼ぎキアイドー。これまで150もの賞金首を仕留め、手に入れた賞金の総額は1億ザギンにも上り、さらにマーベラスにも勝ったことがあるという。バリゾーグが海賊退治の為に呼び寄せた刺客だった。
マーベラスは忌まわしき過去を回想する。
かつて賞金首としてキアイドーに狙われ、その力の差に屈するマーベラス。だがキアイドーはとどめを刺さず、ため息をつきながら言った。
キアイドー「今のままでは退屈で死にそうだ。見ていろ。」
と、何を血迷ったか、キアイドーは自分の刀で自分の胸を刺し貫いた。
キアイドー「これでどうだ?この胸の傷が俺の弱点となった。ここを狙えば勝てるかもしれんぞ?面白い!久々に楽しくなってきたぞ!さあ、戦え!!フハハハハハ!!」
完全にイカれている。こんな奴に勝てる訳がない。
退屈を紛らすためだけに自傷行為をするという常軌を逸した戦闘狂ぶりに、今まで怖い物知らずだったマーベラスは初めて恐怖を覚えた。そしてその記憶は深々と心に刻み込まれたのだった。
(いや……今の俺はあの時とは違う。今なら……!)
自分に言い聞かせるようにマーベラスは変身。ゴーカイジャーはバイオマンとマスクマンにゴーカイチェンジするが、キアイドーにはまるで歯が立たない。だがキアイドーはやはりとどめを刺そうともせず、言い放つ。
キアイドー「逃げろ。見逃してやると言ってるんだ。消え失せろ。」
マーベラスは再び屈辱にまみれながら退却せざるを得なかった。
6人がそれぞれ傷の手当てをしていると、ナビィが突然お宝ナビゲートを始めた。
ナビィ「『メラメラメラーッと火の鳥が、邪悪な敵を打ち倒す。』こんなん出ました。」
伊狩鎧は「火の鳥」というワードから、それが鳥人戦隊ジェットマンの大いなる力ではないかと推察する。
マーベラス「よし、ジェットマンを探すぞ。」
一方、ギガントホースではワルズがキアイドーを詰問していた。
ワルズ「貴様!何故海賊共を逃がした?」
キアイドー「この俺から逃げたという噂が立てば、ますます賞金が上がるだろう。『豚は太らせてから食え』だ。」
所詮は金かと侮蔑の言葉を吐くワルズに、「この中の誰かが退屈を紛らせてくれるのか?」と問うキアイドーは船を後にした。
二手に分かれてジェットマンを探すゴーカイジャー。
ジョー・ルカ・ハカセの3人の前に、突然バイクが停まる。その男はルカにナンパをかける。
男「乗れよ。」
ルカ「ナンパ?あんたに私を誘う資格があるのかしら?」
男「あるさ。女はすべて、俺のものだ。」
ジョー「お前、おかしいんじゃないか?」
ジョーは男の肩に手をかけるが、
男「触るんじゃねぇ。俺は納豆と男が大嫌いなんだ。」
そう言うやいなやジョーを殴り飛ばし、
男「こいつは貰っとくぜ。」
落としたモバイレーツを奪って、男はバイクで走り去ってしまう。
一方、マーベラス・アイム・鎧の3人の前にもその男が現れた。ルカからの連絡で先刻の出来事を知ったマーベラスは、男の前に立ちはだかる。
マーベラス「お前か、ジョー達を襲ったのは」
男「欲しけりゃ、腕ずくで来な。」
マーベラスがパンチを放つが、男は軽々と翻弄する。
鎧「あのー、マーベラスさん、何をやってるんですか?」
アイム「何って……!」
マーベラスとアイムの目には確かにそこにいる男の姿が見えていたが、なぜか鎧には見えていなかった。
男は拳を片手で受け止めるとこう言った。
男「今のレッドはこんなものか。落ちたもんだな!俺の知ってるレッドはもっとパンチに魂がこもってたぜ、こんな風にな!」
その男の強烈なパンチを食らったマーベラスは立ち上がれない。男はマーベラスが落としたモバイレーツを拾うとこう言った。
男「これ以上ジェットマンを探すな。いいな?」
マーベラス「なんなんだ、お前は!?」
男「結城…凱だ。」
そして男は再びバイクで走り去っていった。
ガレオンに戻った6人。鎧はジェットマンについて話をする。
鎧「実は、ジェットマンにはいくつか謎があるんです。
その一つが、消えたブラックコンドルの件で…その人の名前が、『結城凱』。
でも、何で俺にだけ見えなかったんだろう?一体何がどうなってるんだ?」
その夜マーベラスは一人、頭の中に渦巻く恐怖感と苛立ちを振り払おうとサーベルを振り回していた。
「おいおいどうした?こんな夜中に。」
声をかけたのは凱だった。マーベラスはモバイレーツを返すように詰め寄るが、
凱「ダメだ。自分でもわかってるはずだ。今のお前に戦う資格はない。
偉そうに海賊なんて名乗ってる癖に、お前ビビッてるだろ。まったく情けない奴だ。」
凱の一言にムキになるマーベラス。
凱「ったく、ガキだな。自分の弱さと向き合えないとはな。今のお前じゃあ、ジェットマンの大いなる力を使いこなせやしねぇがな。」
立ち去る凱を追いかけるマーベラス。だが凱の姿はとある墓地の中で消えてしまった。そこでマーベラスが目にしたものは「結城凱」と書かれた墓石だった。下には『Black wing sleeping here forever』と書かれている。
「どういうことだ……!?」と愕然となるマーベラスの元へ、仲間達がやって来た。
鎧「やっぱり、死んでいたんですね。」
鎧は墓に供えられたマッカランのボトル・煙草・カップ麺・野菜の籠などを一瞥して5人に言った。
鎧「きっと、他のジェットマンの皆さんからですよ。毎日のように来てるんですね、ここに。
わかりました。何故結城凱さんが、ジェットマンを探すのを邪魔したのか。
結城凱さんと、他のジェットマンの皆さんは今も強い絆で結ばれている。だからこそ凱さんは、他の4人を戦いに巻き込みたくないんですよ。普通の暮らしをしている仲間たちを。」
とある高架下。凱はキアイドーと対峙していた。
キアイドー「ほう。俺と遊んでくれるというのか?」
凱「ああ、楽しませてやるぜ。泣くほどな。」
キアイドー「貴様が何者でも構わん。ただ、強くあってくれればな。見せてみろ!」
ゴーミンと戦う凱は、駆け付けたゴーカイジャーの前でブラックコンドルに変身した。久々に手応えを感じる相手に喜ぶキアイドー。
ジョー「死んでもなお戦っている。他のジェットマンを守るために。」
ジョーの一言と、ブラックコンドルの姿に意を決するマーベラス。
マーベラス「お前の相手は俺たちだ。」
その瞳には、かつて怯えていた姿はなかった。
凱「お前、ようやく恐怖を乗り越えたようだな。」
マーベラス「自分に勝つ力。自分の壁を打ち破る力。死をも乗り越える意志の力!」
凱「わかったみたいだな、大いなる力が。さっさとあいつを倒してこい!」
マーベラスとジョーは凱からモバイレーツを受け取り、変身してキアイドーと戦う。
凱「ジェットマンで決めろ!ゴーカイジャー!」
5人はジェットマンにゴーカイチェンジ。かつてラディゲにも喰らわせた等身大ジェットフェニックスで、遂にキアイドーを倒した。
戦いを終えて…
凱「やったな。ったく、世話焼かせやがって。」
マーベラス「結城凱……」
凱「何も言うな。ケツが痒くなるからな。」
眩しいほど輝く青い空を眺めて、凱は言った。
凱「綺麗な空だ。目に沁みやがる。わかってるな?お前らが守る番だ。あの空を。」
マーベラス「海賊にそんなことを任せていいのか?」
凱はニヤリと笑みを浮かべて一言、「あばよ」と呟く。マーベラスが振り返ると、その姿はもうなかった。
マーベラス「結城凱……確かに受け取ったぜ、ジェットマンの大いなる力。」
女「どうだった?地上のお酒は。」
凱「ああ、美味かったぜ。最高にな。」
再びポーカー勝負をする凱と女。
女「ストレートフラッシュ。今度こそ私の勝ちね。」
凱「悪いな、ロイヤルストレートフラッシュだ。あんた神様のくせに弱すぎだぜ。」
女「ねぇ、1曲聴かせてくれない?」
粋な計らいをしてくれた女神に感謝するように、凱はサックスを演奏するのだった。
解説
『海賊戦隊ゴーカイジャー』第28話で、『鳥人戦隊ジェットマン』のレジェンド回。
脚本を担当した井上敏樹は、戦隊シリーズにおいては『未来戦隊タイムレンジャー』case file 22「桃色の誘惑」以来11年ぶりの参加となった。
客演回ではゲストにばかり注目が集まるのだが、マーベラスとジョーの信頼関係にも注目してほしい。
若松俊秀
実に20年ぶりとなる出演で、当初は結城凱のイメージを大切にしたいという意向から出演しないつもりでいたが、現在も仕事上で付き合いの長い
井上敏樹が脚本を担当するということで、出演を決意した。
賞金稼ぎキアイドー
今回の敵は宇宙で名を馳せる賞金稼ぎのキアイドー(声:杉田智和)。
詳しいことは個別記事を参照するとして、彼の癖のあるキャラクターは井上脚本の真骨頂である。
ゴーカイチェンジ&大いなる力
後期必殺技のスーパーエレクトロンを放ったが、キアイドーには跳ね返されてしまった。
原典では、6人目の戦士の原型とも呼べるマグネ戦士が登場。
印を結ぶメディテーションからオーラパワーを放ったが、これもキアイドーには通用しなかった。
精神集中が必要であるため、失敗したのはレッドが雑念に囚われていたためだと言われる。
なお、井上敏樹は『マスクマン』を何本か執筆しており、その中にはX1マスクが登場した『復活!謎のX1マスク』もある。
性別と配色が同一なのはレッドのみ。
漫画版のみだが、6人目ポジションのグリーンイーグルが登場。
ジェットマンの大いなる力
- ゴーカイジェットフェニックス
5人が合体し、巨大な火の鳥となって敵に体当たりする。
第50話ではゴーカイオーが必殺技としてゴーカイジェットフェニックスを放ち、等身大・巨大ともに使える技となった。
オリジナルは『ジェットマン』第50話「それぞれの死闘」。
ラディゲとの決戦で使用された大技で、劇中でも「ジェットマンの真の力」と言っている。
名前の元となっているのは、戦闘機イカロスハーケンの必殺技ジェットフェニックスから。
余談
- この話が放送された2011年9月4日に『仮面ライダーフォーゼ』が放送開始した。
- 9月には、ジェットマン→アバレンジャー→ライブマン→オーレンジャーとレジェンド回が続いたことから、ファンからは「レジェンド月間」と呼ばれる。