アメリカ陸軍がUH-1の代替として要求し、シコルスキー社の手で1970年代より開発された中型多目的ヘリコプターである。
ベトナムでの戦訓
UH-1はベトナム戦争で初めて実戦投入され、非常に多くの実績を上げてヘリコプターの有効性を世界に知らしめた傑作機である。
だが、
・高温多湿な環境、特に熱帯地域でのパワー不足。
・被弾に弱く、場合によっては歩兵のマシンガンの一連射でも致命的な損傷に繋がる。
・ドアに機銃手を配置(「ドアガンナー」とも)すると乗降の邪魔になる。
しかし、機銃手が居ないと乗降時に敵を制圧できず、危険になる(これはUH-1Dである程度解決されたが、根本的にはまだ不足だった)
といった要改善点も多く寄せられた。
そこでアメリカ陸軍は、これらの戦訓を取り入れた新型ヘリコプターの開発を各メーカーに要求する。
時は1972年、さしものアメリカも戦争に疲れ果て、翌年にはベトナムから完全に撤退するという年である。
UH-1の後継機
もちろん、こういった改善点(要求仕様)を全て満たすには在来機の改良のみでは追いつかない。
新型機は全くの新型エンジンを備え、更に被弾に備えて双発とされていたからである。
当然ながら主要な動力・操縦系統には防弾措置が取られ、更にドアガナーには乗降の邪魔にならないよう、専用席が設けられた。
他にも輸送機で空輸する事も想定されており、C-130の貨物室に合わせて胴体サイズも決められた。
こうして完成したUH-60はライバル機であるボーイング・バートルのYUH-61を打ち負かし、制式採用が決定した。
1976年の事であった。
「黒い鷹」
なお、アメリカではヘリコプターの愛称に先住民族の部族名を使う事にしている。
UH-60の場合はやや変化球とも言える命名で、ソーク族酋長につけられたあだ名から取られた。(かなり手強かったようである)
輸送能力
兵員
採用されたUH-60は、乗員以外にも歩兵11名(アメリカでの1個分隊)が無理なく搭乗できる輸送力を持っている。
これはUH-1と同等だが、機体は格段に大きくなっている為、必要ならば更に人員を搭乗させる事もできる。
貨物
機外吊り下げなら105mm榴弾砲M102(現在は105mm榴弾砲M119に更新。もちろんこれも空輸可能)を運搬でき、現在では約4tまでの貨物が輸送可能となっている。
武装
本機は本格的な戦闘ヘリではないため、武装はすべて後付け・外付けである。
戦闘が想定されない時は何も搭載せず、(武装の重量分を輸送力などに振り分ける)
想定される時には下記のような武装を必要に応じて搭載する。
ドアガンナー(乗降時の制圧火力)
当初、武装にはドアガンナー用の7.62mm機銃M240が2門搭載されていた。
この機銃は信頼性が高くて軽量だが、現場の兵士からは火力に不満があったらしく、後に7.62mmガトリング砲M134や12.7mmガトリング砲GAU-19も搭載されている。
我が日本のUH-60JAではドアガンナー席に軽量な機関銃MINIMIを備えるほか、必要ならば乗降ドアを潰して12.7mm機銃M2の銃座を設ける事ができる。
(日本ではM240を採用していない為)
ESSS(External Stores Support System:外部搭載支援システム)
機外に兵器搭載用のスタブウィング(小翼)を追加し、戦闘任務の補助に使う事もできる。
その際は
・各種ガンポッド
といった兵器を搭載でき、他にも増槽(増加燃料タンク)を搭載して飛行距離を増やす使い方もできる。
なお、UH-60はミサイル照準能力を標準で持たない為、セミアクティブレーザー誘導型のAGM-114を運用する際には
・別途、AH-64やOH-58Dより照準レーザーを照射し、誘導してもらう
・地上の観測班より照準レーザーを照射し、誘導してもらう
等の工夫が必要。
(対戦車戦闘において)本来戦闘用でないUH-60まで出張る事はまず無いので、これはあくまで「あったら楽だろうな」という要求だったのだろう。
ただし特殊部隊用の機種には自力でミサイル攻撃可能なものが存在する(特殊部隊は任務が任務なので他の部隊の支援を受けられない事が多く、自力で攻撃できると何かと楽なのである)。
また、コロンビアでは攻撃装備を追加したAH-60L「アルピア」が対地攻撃にも使用しているという。(この場合、正確には強襲ヘリと言ったほうが正しいだろうか)
単純な搭載量はAH-64以上で、専門の攻撃ヘリコプターよりも半分程度の価格で販売できることから、近年では武装ヘリコプターとしても積極的に売り込む姿勢を見せている。
海軍型「シーホーク」
海軍でもSH-60対潜哨戒ヘリコプターとして採用されている。
軍艦の狭い甲板にも着艦できるようにするため、尾輪がテイルブームの根元へ移動しているのが大きな違い。
派生型
UH-60シリーズは現在も発展の最中にあり、各種改良型や特化型が開発されている。
下記にその一例を紹介する。
UH-60L/M
UH-60の改良型。どちらもエンジンを換装し、飛行制御技術を発展させている。
L型はA型の、M型はL型の改良型。
CH-60E
アメリカ海兵隊にUH-1Nの後継として提案された艦上型。
だが、海兵隊は小型で小回りの効くUH-1を気に入っていたらしく、結局は直系の改良型であるUH-1Yヴェノムを採用してしまった。
HH-60E/G「ペイブホーク」
UH-60を基にした救難機。
ただの救難任務だけでなく、戦闘中の救難(戦闘救難任務)にも対応するため、プローブ&ドローグ式空中給油受油装置のような、特に目立った改修が行われている。
後に特殊作戦用輸送機MH-60にも発展しており、シリーズ中でも特に危険な任務に従事している。
MH-60A/L/K/M
夜間低空侵入の為に電子機器が改良され、L型の一部からは空中給油装置が取り付けられるようになった。中には支援用に武装を強化した機もある。(ESSS仕様)
これらは全て陸軍の第160特殊作戦航空連隊(通称「ナイトストーカーズ」)で運用されているが、その実態は謎のベールで覆われている。
VH-60N「ホワイトホーク」「プレジデントホーク」
アメリカ海兵隊の運用する、政府高官専用輸送機。
旧式化著しいVH-3の後継として採用されたが、乗り心地はVH-3までは及ばない模様。
(おそらく低い天井のせい)
輸送機での空輸も出来るので、外遊などの際にはよく活躍している。
ステルス・ホーク(仮称。型番など詳細は一切不明)
2011年5月2日、パキスタンのアボッターバードにて決行されたウサマ・ビン・ラディン暗殺作戦「ネプチューン・スピア」において、事故で墜落した機。
作戦には事故機を含めて4機が参加していたとされ、幸い墜落でも乗組員・住民とも死傷者は出なかったものの、ただでさえ軍事機密の塊である機体をそのままにはできず、そのまま爆破された。が、テイルブームだけは燃え残り、中でもテールローターはどの派生型と似てもいない、全くの未知だったため、注目を集めることとなった。(しかも壊れているので余計にわからない)
詳細は今なお不明。残骸はパキスタンが回収したようだが、アメリカへは返還されていない模様。今は中国への譲渡が危惧されているという。
日本において
航空自衛隊、海上自衛隊、陸上自衛隊の3軍全てが運用している。
UH-60J
UH-60Jに限らず、日本ではETS(External Tank System)を使って燃料搭載量を増やしているのが特徴。
UH-60JA
本家のUH-60に相当する、陸上自衛隊向けの汎用ヘリコプター。
ドアガンナー用にMINIMIが装備されており、乗降ドアの機能を殺せば12.7mm機銃M2の銃座を設けることも可能。
本来はUH-1の後継となる筈だったが、価格がその3倍と高価なので、現在のところは両方が配備されている。
まとめ
現在、UH-60(と派生機)は世界の軍・政府機関において広く用いられている。
殆どの場合は陸軍の兵員輸送機として使われているが、中には傷病者を後送する為に医療設備を設置した機(UH-60Q,S-70A-L1など)、または捜索救難機(HH-60G,S-70-27など)がある。
UH-60はUH-1よりも数段高価だが、それだけ高まった能力により、世界中で必要とされているのである。