概要
2025年1月5日から放送中の通算64作目に当たるNHK大河ドラマ。
制作発表は2023年4月27日に行われ、主演を大河ドラマおよびNHKドラマ初出演となる横浜流星、脚本を『おんな城主直虎』(2017年)以来となる森下佳子がそれぞれ務めることなどが、併せて発表された。2024年夏にクランクイン。
なお、本作で主演を務める横浜は2021年の「青天を衝け」で主演を務めた吉沢亮以来史上2人目の平成生まれの俳優となる。
ナレーションは綾瀬はるかが担当。初回で「九郎助稲荷」であることが明かされており、綾瀬本人も九郎助稲荷が花魁に化けた姿として顔出し出演している。
本作では江戸中期、18世紀後半の江戸を物語の舞台とし、「江戸のメディア王」とも言うべき快男児・”蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈に満ちた生涯、そして笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマが志向される。本作の制作決定により、2024年度放送予定の『光る君へ』に続いて、いわゆる「文化人」を主人公に据えた大河ドラマが2年連続で放送される格好となる。また生涯純粋な民間人で過ごした史実の人物が主人公になるのは1985年の『春の波濤』の川上貞奴以来、40年ぶりのことである(翌1986年の『いのち』は架空の人物)。
また、蔦重が生きた18世紀後半は、既に60作を超える大河ドラマ史上でも今まで取り扱われることの殆どなかった時期でもあり、同時に大河ドラマとしては異例となる「戦のない時代」でもある。
脚本の森下はこの点について、「(前略)「戦」がなくなった時代だからこそ、いかに生きるかどう生きるか、己の価値、地位、富の有無、誇りのありどころ、そんなものが新たな「戦」としておもむろに頭をもたげだした(後略)」と語っており、その中で繰り広げられる蔦重や彼にまつわる錦絵の作者たちの生み出した作品の数々、それにその周辺を取り巻く文化・事件・政治などといった様々な事象を通して、この時代に対して強い興味を抱いたこと、そしてそんな時代に自分が夢中になったように視聴者にも夢中になってもらえるドラマを目指せばいいんだなと考えていると、本作に対する意気込みを明らかにしている。
登場人物
重三郎と周囲の人々
演:横浜流星
主人公。江戸時代中期に活躍した日本のポップカルチャーの先駆けとなる版元(出版人)。
通称「蔦重(つたじゅう)」「重三(じゅうざ)」。
養父が営む駿河屋で働きつつ、貸本屋『つたや』を営む。
第一話冒頭で「親なし、金なし、家もなし」と語られたように、かつて親に捨てられて、今の駿河屋夫婦に引き取られた過去がある。
頭の回転が早いが、せっかちかつ無鉄砲でもあり、それゆえ養父の市右衛門からは「べらぼうめ!」と折檻されることも。
TSUTAYAの店長…ではない。
演:染谷将太
- 花の井
演:小芝風花
主人公・重三郎の幼馴染で伝説の遊女。のちの五代目・瀬川。
第二話では吉原復興に奔走しながら、他人にそのことを話そうとしない蔦重を訝しみながらも、朝顔の死から自分も「吉原をどうにかしたい」と決心し、源内の言動から未だに亡くなった想い人『瀬川菊之丞』のことを忘れられないと推理し、1日のみ断絶していた『瀬川』の名跡を名乗り、男装して彼の相手を務めた。
- 唐丸
演:渡邉斗翔
重三郎が拾った身寄りのない少年。
吉原関係者
- 駿河屋市右衛門
演:高橋克実
重三郎の育ての親。
吉原にやってきた客を遊女たちに案内する引手茶屋『駿河屋』の亭主。
- 次郎兵衛
演:中村蒼
駿河屋の長男であり、重三郎の義兄。
- 松葉屋
演:正名僕蔵
花の井が務める女郎屋の亭主。
- 扇屋
演:山路和弘
- 大文字屋市兵衛
演:伊藤淳史
女郎達を完全に見下しており、「女郎はどんどん死んだ方が入れ替わって客も喜ぶ」と発言するなど男尊女卑、劇中で語られる「忘八」(※)を体現した人物。
一方で、吉原以外の遊女を取り締まると、あぶれた遊女たちを吉原で面倒を見なければいけなくなるため、より一層吉原の財政が厳しくなる現実を蔦重に突きつけた。
- ※忘八: ( 仁義礼智忠信孝悌(てい)の八つの徳目を失った者の意から )① 放蕩にふけること。遊里で遊ぶこと。また、その者や、その者をののしることば。わんば。〔五雑俎‐人部四〕② 遊女屋。くるわ。また、女郎屋の主人。(『精選版 日本国語大辞典』より)
- 半次郎
演:六平直政
蔦重の貸本屋の近所にある「つるべ蕎麦」の店主。
無鉄砲な蔦重を見守るいい人。
- 朝顔
演:愛希れいか
「二文字屋」の花魁で、蔦重にとっては憧れの人。
かつていじめられていた蔦重に、「楽しいことを想像すること」の楽しさ・大切さを説いた恩人。また、幼少期の花の井は朝顔の禿だった。
心優しい性格で蔦重含む多くの人からも「朝顔姐さん」と慕われていたが、優しすぎるあまり病気の自分への差し入れを飢えている他の遊女に渡してしまい、そのまま症状が悪化し第一話で亡くなってしまう。
彼女の死を知った蔦重は身包み剥がれて転がされていた彼女の遺体に着物を被せて、慟哭するのだった。そして、吉原復興のために奮闘することを決意したのだった。
「親兄弟がいなくなっても、吉原に行けば腹一杯飯を食える、って誘われて女たちは来る。でも実際は、遊女たちはろくに飯も食えずに死んでいく」という煌びやかな吉原の窮状と暗黒面を視聴者に突きつけた。
重三郎と関わりがある本屋・版元
- 西村屋与八
演:西村まさ彦
演者の西村は2017年に放映されたNHKドラマ『眩(くらら)〜北斎の娘〜』で葛飾北斎・応為父娘と関わりが深い同名の西村屋与八を演じているが、本作の与八とは世代が違っていると思われる(応為が絵師デビューしたのは蔦重の没後であるため)。
演:片岡愛之助
蔦重と馴染みの本問屋の亭主。
吉原のガイドブックである『吉原細見』を出版している版元でもある。
蔦重から『吉原細見』の改良を提案されるも、ほぼほぼ彼に任せる形で作り上げさせる。
重三郎に見出される作家・浮世絵師
- 磯田湖龍斎
演:鉄拳
文人・学者
演:安田顕
「土用の丑」のキャッチコピーやエレキテルの修繕などで知られる江戸の文化人。
第一回ではまだ蔦重に身元を明かしておらず、クレジットでも「厠の男」表記。
なお、厠から出てくる直前に屁をこいていたが、演者の安田は地元北海道のローカル番組での「屁でさっぽろテレビ塔を登る」企画や「屁の音だけでベートーヴェンの『運命』を演奏する」企画など、屁にかかわる多彩なエピソードを持つため、「あの屁の音は『自前』か?」と一部のファンの間で話題になった。
第二話で『吉原細見』の序文を名コピーライターたる源内に書いて欲しいと切望する蔦重と再会する。
自らの正体を知らないまま「源内に会わせてくれ!」と頼み込む蔦重にいたずら心が沸き、「自分は源内先生の仲間の山師、『銭内(ぜにない)』だ」と偽り、新之助と共に吉原の案内を受ける。
しかし、吉原を「古臭い」「岡場所や宿場よりも優れているところがない」「料理も味はしない」と酷評。しかも、自身は世に知られる男色家である(※史実)ため、なかなか筆が進まなかった。しかし、自らの「松葉屋にも『瀬川』はいないのか」という言葉の真意を読み、亡くなった想い人である瀬川菊之丞に扮した花の井の姿に感銘を受け、一夜にして蔦重の推していた『どんな客でもきっと好みの女がいる』という吉原の長所を盛り込んだ序文の草稿を書き上げた。
- 平秩東作
演:木村了
源内の仲間である山師であり、狂歌などにも通じる文化人。
江戸幕府
徳川将軍家
演:眞島秀和
演:奥智哉
家治の嫡子。
- 一橋豊千代→徳川家斉
一橋治済の長男。のちの11代将軍。
実はこれまで大河ドラマに登場したことのない将軍であり、彼の登場をもって大河ドラマシリーズに歴代徳川将軍15名が全員登場したことになった。
- 大崎
演:映美くらら
家斉の乳母。家斉の将軍就任後、大奥で絶大な権力を持ったといわれる。
徳川御三卿
演:生田斗真
御三卿の一つ一橋家二代目当主。初代当主宗尹(吉宗の三男)の四男で家斉の父。演者ゆえか視聴者からはこの人の再来かそれ以上になるのではと言われている。
第二話で長男・豊千代が産まれ、盛大な宴席を設ける。同じ御三卿で宴に出席した治察や重好と共に「我らのなすべきことは、子を成すこと」「万が一ということがあっては大変」と口にしつつも、どこか不気味な笑みを浮かべている。
- 宝蓮院
演:花總まり
御三卿の一つ田安家の初代田安宗武の正室・近衛氏。定信の養母となる。
- 田安治察
演:入江甚儀
田安家二代目当主。宗武の五男で定信の兄(史実では異母兄)。
- 田安賢丸→松平定信
演:寺田心→[[]]
宗武の七男。本作では治察の同母弟だが、史実では母は宗武側室の山村氏。久松松平家を継ぎ陸奥白河藩主となる。意次の政敵。家治や治済と同じく吉宗の孫にあたる。
第二話では豊千代誕生を祝う一橋家の宴席に兄・治察や清水重好と共に出席。「傀儡師にでもなろうか」と戯言を口にする治済に「その体の血筋をなんと心得る」「武家はあくまで文武に励むべし」と激しく非難し、そのまま退席してしまった。
BOOKOFFの店員…ではない。
演:落合モトキ
家重の次男で家治の異母弟。御三卿の一つ清水家の初代となる。
幕閣・幕臣
演:渡辺謙
老中として徳川家重・家治父子の治政において実権を握る。重商主義的な政策を取り幕府財政の再建に乗り出す。吉原の窮状を自身の屋敷まで押しかけ直談判してきた重三郎の覚悟を汲み取ったのか、厳しくも道理のある助言を与えた。
貨幣経済確立と困窮する武家・百姓が年貢米を買い叩かれるのを防ぐため、流通している貨幣の統一を試み銀貨の鋳造に力を入れているが、特に首座の武元から強く反対されている。
演:宮沢氷魚
意次の嫡男。若年寄となり父・意次からも将来を期待されていたが・・
演:中村隼人
池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』の主人公として知られる人物だが、青年時代は風来坊で「本所の銕(てつ)」と呼ばれ放蕩の限りを尽くしたとされる。なお、演者の隼人はTV版『鬼平』で三代目平蔵を演じた萬屋錦之介の大甥(錦之介の次兄・四代目中村時蔵の次男である二代目中村錦之助の長男)に当たる。
演:矢本悠馬
ある出来事を起こしたことで世間から「佐野大明神」と呼ばれることになる人物。
- 松平武元
演:石坂浩二
老中首座。足軽の家から急速に出世し、武士でありながら商業を重視する意次と対立する。
立派な眉毛の持ち主であり、意次からは「白眉毛」と悪態をつかれている。
その他
演:綾瀬はるか
吉原内に存在する稲荷神社の御祭神。本作のナレーションも務める。
吉原関係者たちからは「願いを叶えてくださる神様」として親しまれているようで、第一話冒頭の大火事では、花の井の御付の幼女「さくら」と「あやめ」が「神様が焼けちゃう」「願い事が叶わなくなっちゃう」となんとか運び出そうとその場から動こうとしない事態に発展した。また、幼少期の蔦重も悪童たちに天罰が下ることを願ってお参りしていた。
ナレーションのみならず、綾瀬はるか本人が演じる遊女に化けた人型形態も披露。その際は、吉原と江戸市中の位置関係を説明するためにスマホを操作してみせた。(電子機器を使用した大河登場人物としては、おそらく二例目。一人目はこの方)
余談
- 上記の通り意次が自身の屋敷に押しかけ直談判してきた重三郎に対して助言しているが、史実における重三郎と意次は直接的な接点はないという見解が主流であり、この場面は本作独自の解釈といえる。
- 初回から身ぐるみを剥がれて裸にされた女性の死体が映された(さすがに引きの画だが)ため、「NHKこんなんやって大丈夫か?」と放送コードを心配する声が相次いだ。
- その死体役を演じたのは遊女「朝顔」を演じた愛希れいか(元宝塚歌劇団月組トップ娘役)と現役AV女優の吉高寧々、藤かんな、与田りんの3人であり、後者に関してはAV女優が大河ドラマに出演するのは史上初の事態となる。
- 吉高曰く撮影には7時間もかかったようで、その間他の女優が自身の上に乗ってもなおずっとうつ伏せで我慢して待機していた愛希のプロ根性に驚かされたという。
- また、本作にはインティマシー・コーディネーターが帯同しており、撮影中は前貼りをつけることはもちろん、体を起こすたびに裸が見えないように数人のスタッフで囲いを作るなどの配慮が徹底されていた。
- とはいえ、完全に他キャストと分けられていた訳ではなく、出演者である子役の1人が横浜に対し「流星さん、いくら貰ったらこの裸の役やる?」と無知ゆえにかなり残酷な質問をぶつけていたようでさすがの吉高もそれを理解していてもなお「結構ショックだった」らしいが、横浜は「わからないなー。でもお芝居だったらどんな役でもちゃんとやるよね。」と返答しており、子役を諭しつつも死体役を演じた4人を尊重していたため、吉高も感動したそう。
関連タグ
本作と比較されることの多い作品
大河ドラマ
- 徳川家康、葵徳川三代、どうする家康:1983年と2000年と2023年の大河ドラマ。初代将軍徳川家康を主人公として家康が実現した「戦のない時代」への過程が描かれた。「葵」では家康没後の徳川秀忠や徳川家光の時代についても描かれている。
- 八代将軍吉宗:1995年の大河ドラマ。本作と同様に江戸中期を舞台としているが、その範囲は本作開始時よりも40年〜50年ぐらい前である。
民放ドラマ
- 暴れん坊将軍、大岡越前:前者はテレビ朝日、後者はTBSで放送された時代劇。こちらも舞台は本作開始時よりも40年〜50年ぐらい前である。さらに前者の続編で『べらぼう』が放送開始する前日の2025年1月4日にテレ朝で放送されたスペシャル時代劇は本作開始時よりも約30年ぐらい前が舞台になっている。こちらに登場する小次郎(田安宗武)・小五郎(一橋宗尹)・徳川宗春は家治の治世初期まで存命しているが、本作開始時には故人となっている。また、賢丸を演じる寺田心が若き日の伊藤若冲役で、平秩東作を演じる木村了が大岡忠相の同族の忠光役でそれぞれ出演していた。
- 大奥:2024年にフジテレビで放送された時代劇で家治が主人公。『べらぼう』で平賀源内を演じる安田顕が悪役としての田沼意次を演じた。
漫画・アニメ
- 大奥(よしながふみ):よしながふみ作のパラレル時代劇漫画。2023年よりNHKにて放送されている同作の実写ドラマ版の脚本を、本作と同じく森下佳子が手掛けており、このうち同年秋期に放送された第2期は、本作とも舞台となる時代が同じ。
- 風雲児たち:みなもと太郎作の歴史ギャグ漫画。同作のうち江戸中後期が舞台である「田沼時代編」を原作とした単発のドラマが、2018年の正月にNHKにて放送された。
- 鬼滅の刃・遊郭編:吾峠呼世晴作のダークファンタジー漫画。『べらぼう』放送のおよそ3年前の2021年12月~2022年2月にかけてフジテレビ系列でアニメ版が放送された。こちらも吉原遊郭が舞台となっており(ただし、時代設定は大正時代)、吉原の貧困や格差が事件の発端の1つとなったことから、視聴者の中には本作を思い返した者も多かった模様。また、『べらぼう』では第1話冒頭で吉原が明和の大火で焼けるシーンがあるが、本作でも敵との戦いで吉原の街が火の海と化し、最後は街そのものが跡形もなく吹っ飛んで瓦礫の山と化してしまった。
- 銀魂・吉原炎上篇:空知英秋作の時代劇アクションコメディ漫画。吉原遊郭をモデルとした吉原桃源郷が舞台であり、主人公と行動を共にする少年など共通点も多い。「吉原炎上」というワードが出てきた際真っ先にこちらを連想したファンも続出した。