概要
土星の衛星のうち最大のもの。太陽系の衛星全体でも、木星の衛星ガニメデに次ぐ第2位の大きさであり、地球の衛星である月はもとより、準惑星の冥王星や惑星である水星より大きい(ただし質量は水星の方が大きい)。
1655年、最初に発見された土星の衛星である。後述する探査機ホイヘンスは、このとき発見したオランダの天文学者の名にちなんでいる。
太陽系の天体の中では、金星、地球、火星とならんで一定量・濃度(気圧)の大気におおわれているという特徴があり、この点衛星としては唯一の存在(後述)。
寒い、しかし地球のような星
土星の太陽からの距離が約10天文単位、すなわち地球と太陽の距離の10倍ほど離れているため、タイタンも-180℃前後の極めて低温の世界であり、水は氷の岩盤となって地表面をおおっている。
タイタンの大気は大半が窒素(90%以上)、残りがメタン、水素その他から成る。気圧は地球の大気より高く、約1.5気圧。衛星としては最大級とはいえ火星よりも小さく(したがって重力も小さい)、太陽風をガードする磁気圏も持たないこの星がこれほど濃い大気を保てる理由は、まだ完全には解明されていない。
タイタンでは地球と同様、落下してきた隕石の多くがこの濃い大気との摩擦熱により、地表への衝突の前に消滅してしまう。したがってタイタンには、月、水星、小惑星など、地球以外の岩石型天体の定番風景ともいうべきクレーターの数が比較的少ない。(後述する液体メタンの侵食作用や内部エネルギーによる地殻変動で、衝突でできた地形がその後変化するという要因もある)
メタンの1気圧での融点は-183℃、沸点は-162℃である(別の言い方をすれば、メタンは-162℃で液化し、-183℃で凝固して氷となる)。タイタンの高緯度地帯(主に北極付近)では大量のメタンが液体となり、地球の湖や海のように、地表の低い部分に溜まっている。このように、タイタンは地表にまとまった量の液体が安定的に存在する、太陽系では数少ない天体でもある(他には地球があるのみ)。真空あるいは希薄な大気(低い気圧)のもとでは、融点に達した物質は液体の状態を保てず直接気化(昇華)する(地球でのドライアイスと同じ状況)ので、これもタイタンの濃い大気の恩恵といえる。
タイタンでは、ちょうど地球での水の循環のように、液体のメタンが蒸発して上昇し、上空で雲となり、雨として再び地上に降り注ぐ。2004年にタイタンを観測したカッシーニと、これから分離してタイタンに着陸したホイヘンスは、液体のメタンがつくる川、谷、三角州、海、湖などの地形、丸みをおびた氷の岩石が並ぶ河原のような風景を撮影した。低温の世界ではあるものの、太陽系の天体では火星(かつて液体の水が地表にあったと推測され、その名残の涸れ川、谷などの地形がある)とならんで、地球人にはなじみのある風景が広がる星のようである。
生命・生物の可能性
2020年現在、タイタンに生命・生物の存在は確認されていない。しかし、タイタンの地表に大量に存在する液体メタンが地球の海にあたる役割を果たし、その中で有機物が複雑に合成されて、地球の生物とは別の構造、独自の代謝・呼吸システムをもつ生命・生物が生成している可能性も指摘されている。
また、水は低温により氷の層となっているが、その地下の深い場所では内部の熱エネルギーにより融解し(地球のマグマに相当)、海になっていると推測されている。この内部海が地球の海と同様、生命を誕生させるゆりかごとなっている可能性もある(木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドゥスなどにも同様の状況が期待されている)。
これら2つの仮説の双方が的中すれば、タイタンは成立の基盤が異なる2通りの生命・生態系をもつ、おそらく太陽系で唯一の天体という事になる。
関連イラスト
本記事のメイン画像は、画像タイトルにあるようにどちらかというと古典的なイメージで、実際には、昼間のタイタンの空は黄色あるいはオレンジ色がかっていると思われる。また太陽の光度と雲の厚さからして、昼間の明るさは地球の天気の悪い日の夕方くらいと推測される。