概要
かぶと虫太郎による日本の漫画作品。人間界の裏側にある妖怪の国の王子である天狗の少年(=こてんぐ)『テン丸』が、自分の不注意から脱走を許し人間界に逃げ込んだ百八匹の犯罪妖怪を退治しようとする活躍を描く。
1982年から1984年まで講談社の『コミックボンボン』にて連載、またテレビアニメ化もされた。連載開始時のタイトルは『ベムベムハンター』だったが、テレビアニメ版のタイトルは『ベムベムハンターこてんぐテン丸』であり、原作のタイトルもアニメの放送開始に合わせてそれに統一されている。今日では原作版を指す際でも『~こてんぐテン丸』のタイトルを使用するのが一般的である。
物語が終盤に近付くにつれシリアスの度合いが増していったが、本質的にはギャグ寄りのコメディであり、1980年代という時代や初期のコミックボンボンの性質もあって他者の作品のパロディも多分に含む。アニメ版でも最終回は敵妖怪が金八先生+赤いきつねのパロディだった。
倒すべき敵の数が百八というのは多いようだが、いわゆる戦闘員的にごっそり倒されたり、逆に人間を人外化して使役する者もいたり、はたまた勝手に仲間割れして数を減らしたりするので、「残り何匹」という形で状況を把握することは不可能であり気にしなくてよい。
原作は大魔王ベムラーとの最終決戦まで描かれ完結しており、全3巻が刊行されたが、ラスト4話分は単行本に収録されていない(復刊活動も行われているが実現はしていない)。アニメ版に関しては後述する。
本作における妖怪
他の妖怪退治まんがと比べた際の本作固有の設定として、妖怪を異次元人としている点が挙げられる(原作第一話で主人公がその出身地を「妖怪の国」と呼ばれたのを「異次元の世界」と修正している)。そのため本作での妖怪は、霊的な存在というより肉体的、あるいは物理的な存在という色合いが強く、霊感の有無等に関係なく一般人にも視認できるし、「地獄」などの霊的な世界は作中に出てこない。なお原作初期は主人公の出身地を「妖怪国」とは言っておらず、主人公は敵を(自分自身は妖怪ではないようなニュアンスで)「妖怪」と呼び、第三者からも主人公は「天狗の子」悪者は「妖怪」と言い分けられていることから、本作での「妖怪」とはむこうの世界の悪党を意味するという設定だったのではないかと推察される。ただしアニメ版や原作後期は主人公の出身地を「妖怪国」とし、あちらの世界の住人はすべて妖怪と呼ぶかのようになっている。
また、主人公の衣装をはじめ外見的には時代がかった印象を受けるが、実はこちらの世界(人間世界)より進んだ文明を有しており、特に物理現象を言い表すのに熟語を多用することで文明度の高さが演出されていた。1980年代に流行った「見た感じ近世(江戸時代)風だが実は未来的な世界」というパターンのはしりと言える…はずだったが、このテイストはアニメ版ではいくぶん抑え気味だったようだ。一例をあげると、主人公の必殺技の一つ「神通力真空衝撃波」がアニメ版では「神通力かまいたち」となっている等。低年齢層にも理解しやすいように設定変更された可能性が感じられ、見様によっては早過ぎた作品だったと言えるかもしれない。
登場人物
主人公と相棒
CV:藤田淑子
原作での当初の名前はテン坊。天狗大王の子供。女の子の妖怪に騙されて凶悪妖怪たちの封印を解いてしまい、人間界に逃げた百八匹の妖怪を退治しに人間界に赴いた。人間界に来る前に、妖怪たちを逃がした罰として天狗大王に鼻を折られたため、一般的に言われる天狗と異なり鼻は低い。かなりの大食い。年齢は550歳だが、最終回にて小学校を卒業していないことが明らかになる。
クロ
CV:松島みのり
身の丈が人間の頭部くらいの小さな烏天狗。「人型になって服を着ている使い魔の烏」といったイメージ。テン丸と色違い(着物と袴が橙色で袖なし羽織が山吹色)の衣装を着る。「~でガス」と語尾につける訛った丁寧口調が基本だが、テン丸相手限定で稀にタメ口になる。
物語開始前からテン丸とコンビを組んでおり、百八匹の凶悪妖怪を逃がしてしまった時にも居合わせている。一応テン丸の見張り役という名目で妖怪退治に同行しているが、実態は単なる仲良しコンビ(そもそもクロが見張ってテン丸を御せるなら妖怪逃がしてない)。テン丸を親分と呼ぶものの上下関係は希薄で対等の相棒に近い。
飛べること以外これといった特殊能力はないが、百八匹の犯罪妖怪のリストを持っており、毎回登場妖怪の解説をしてくれる。また原作終盤ではロボット形態をとれるように改修されたひょうたんバイクの操縦者として戦闘に参加し、かなりの妖怪を倒している。
もののけ町の人々
ヨーコ(花井妖子)
CV:安田あきえ
本作のヒロイン。テン丸が人間界で初めて出会った美少女。両親はすでに亡くなっていて、祖母に育てられている。その境遇のせいか、とてもしっかりした性格で家事も得意。テン丸の人間界におけるガールフレンドのような存在で最大の理解者。第1話でテン丸に助けられてから、テン丸に好意を寄せている。テン丸にベタ惚れのニーナとは、テン丸を巡って対立する場面も多かった。立場上、テン丸と妖怪の争いに巻き込まれることも多々ある。きつねうどんが苦手で食べられないが、それゆえに妖怪の難を逃れたこともあった(食べた人間たちが妖怪に操られたため)。
何故かテン丸とニーナから初対面時に化け猫呼ばわりされたが、本人にケモノ成分は一切ない。
おばあちゃん
CV:鈴木れい子
妖子の祖母で古アパート「つぶれ荘」の管理人。高齢だが心身ともにとても元気で、相手を驚かすのが大好きという困った趣味を持つ。妖子と全く似ていないギョロリとした大きな眼に頬骨の張ったインパクトのある顔つきで、さらに普段は一つにまとめている髪を解いて垂らすことにより一層強烈な外見となる。この状態でいきなり現れて驚かすのが持ちネタ。
アニメ版では登場する場面が増え、テン丸を空室に寝泊まりさせているだけでなく、食事や入浴をさせたり替えの下着を準備したりと生活全般を支援していることが窺い知れるようになった。(原作後期もそれに準じている。)
がんばり入道(入間太)
CV:大竹宏
「つぶれ荘」の2階に住んでいる悪ガキトリオのリーダー格の少年。パワータイプの精悍な体格の少年で、音楽の授業中以外は常時マスク(今で言う布マスク)を付けている。
ぼろかっぱ(河口照三)
CV:千葉繁
悪ガキトリオの一人。あだ名のとおり、河童のような頭をした長身の少年。甲羅を模したイメージからか、原作二話までは常に(水泳の際にも!)ランドセルを背負っていた。三話以降はなくなっている。
油すまし(油井まさし)
CV:鈴木清信
悪ガキトリオの一人。スキンヘッドで小柄な少年、と言っても体格的にはテン丸と大差なく、頭部が上下に潰れた人間離れした形なので頭頂高でテン丸に負ける程度。トリオの知恵袋的な存在。非力だが優しい性格。
松坂先生
CV:舛田紀子/飯塚はる美
「もののけ小学校」の女教師。美人で優しい性格。テン丸やトリオはもちろんのこと、ヨーコら女生徒からも人気がある。
祖国以来の主人公の関係者
天狗大王
CV:柴田秀勝
テン丸の父で、彼の国の大王を務める大天狗。テン丸の妖怪退治は、凶悪妖怪を逃がした際に彼から強く叱咤され、それに反発する形で退治を申し出たことから始まっている(大王から命じられたわけではない)。
外見はいわゆる天狗らしい天狗で、原作第一話では前髪を伸ばしてオールバックにしていたが、再登場後はカットして真ん中分け、つまりテン丸と同じ髪型にしている。衣装も基本的にテン丸と同じだが、袖なし羽織に房が三対付いており、全面に紋様が入っている。
登場時には要所要所で体格が大きく描写されているが、実は作画上のディフォルメではなく、読者へのアピールを目的に自分の能力を使って大きくなっていることが奥さんから語られている(メタ発言)。
天狗ママ
CV:坪井章子
テン丸の母で天狗大王の妻。天女のような姿をした美女。体に付けている「チェンジリボン」という羽衣で人間態に変身し、時々人間界に来ることがある。
人間の基準では絶世の美女だが、テン丸曰く「天狗の世界ではいわゆる鼻ペチャでブスである」とのこと。
ニーナ
CV:TARAKO
王国内で天狗に次ぐ地位にある「竜神族」の王女にしてテン丸の許婚。ペット兼従者の竜(東洋龍)ルーズのみを伴い、テン丸に会いに人間界にやって来た。性格はわがまま。無鉄砲な行動のために、妖怪に襲われたこともあった。語尾に「~プリン」をつける話し方が特徴。テン丸にベタ惚れで、ヨーコをライバル視して対立することしばしば。
原作では、登場直後こそ無遠慮に場を掻き回すだけの存在だったものの、やがて自分は竜神とは別の種族だと内心察していることが明らかになり、終盤では彼女を軸にストーリーが展開する形になった。その正体は大妖怪ベムラーの妻リリアンの遺児。三千年前に妖怪たちが封じられる際、リリアンは自分が生んだ5個の卵を、温める者もなく腐ってしまうくらいならと自ら壊した。しかし1個だけ割れずに残り、それを保護した天狗大王(現大王でなく、三千年前に妖怪を封じたテン丸の祖父を指すと思われる)は当時子供がいなかった竜神族の王夫妻に託し、夫妻は長い年月をかけて卵を孵化させてニーナを誕生させたという経緯である。最終的にはベムラーが彼女の父だったのかそうでないのか、どちらとも取れる形で物語は終了した。
テレビアニメ版では登場後わずか4話で放送を終了したため、ヨーコにヒロインの座を奪われてしまった。
脱走犯人なかよし同盟
脱走した凶悪妖怪の集団。初期のコメディ色が強かった頃に登場した名称なのであまり緊張感がなく、シリアス度の増した後期にこの名が出てくると違和感を覚えるが…集団の実態はというと考え方や目的で統一されたわけでもない荒くれ者の集まりであり、宝物を取り合ったり身内の都合を優先させたりと仲間割れもしばしば。内紛を戒める意味で「なかよし」と付けたとでも解釈しておけばいいのかもしれない。
大妖怪ベムラー
脱走した凶悪妖怪たちのリーダー的存在。顔面に四つの目と腹部に巨大な口を持つ。百八匹の中でも大きな体躯で覆面と繋がった黒衣を常にまとっている。テン丸の攻撃の尽くを大したダメージもなく受け止める強靭さを持つが、「善のオーラ」には弱くこれを発する者が近づくと深刻な火傷を負う。
ニーナの実の母リリアンを妻とするが、ニーナの父かは明らかにならなかった(リリアンの言によると"違う")。リリアンがさらってきたニーナと、自分の娘かもしれないと聞いた上で対面するが、これを天狗大王側が仕組んだ謀略と判断し殺害を命じる。ニーナはリリアンの手で逃がされ、その後の最終決戦ではニーナの特攻を受けた直後に額の目にテン丸の剣を受けて斃された。死の間際、ニーナを巻き添えにしないよう土に埋めて保護した(天狗大王曰く「一生でただ一つの善行」)が、これが果たして最後の最後で見せた親らしさだったのかは判然としない。
ちなみにコミックボンボンでの初登場時の名前はキングベムだったが変更された経緯を持つ。主人公が妖怪の国の大王の息子なのに敵の長もキングを名乗っては話が面倒になるだろう故と推測されるが……差し替えられた名前が某ヒーロー番組の第一話でヒーローが追ってきた脱走犯怪獣の名前(であり、烏天狗に酷似したヒーローの没デザインの名前でもある)というのは……現在ピクシブ内には本作のベムラーを描いた作品はまだ無いようだが、投稿される際にはあちらのベムラーと区別できるタグをお願いしたい。なお、原作第一話の百八匹の凶悪妖怪が逃亡する場面には某宇宙恐竜や某宇宙人がまぎれている。(当時、モブシーンに他作品の有名キャラクターを描き込むのはよくあるお遊びだった)
魔女リリアン
ベムラーの妻。数名の手下を従える。スマートな美女で外見上人間との差異は無い(衣装は独特だが)。ただし興奮すると顔に鬼女然とした隈が現れる。テン丸攻略のためにニーナをさらった際に彼女が実の娘であることを知る。親としての情は深く、ベムラーから殺害を命じられたニーナを逃がそうとするが、反逆者として追手に殺されてしまう。
テレビアニメ
1983年5月26日から同年10月27日までフジテレビ系列局(ただし系列局によっては放送日時差し替え、さらには放送自体なかった系列局も存在)で放送された。
アニメーション制作は東映動画が担当。
原作は上述のように完結したが、アニメ版は様々な理由により結末までは描かれず中途半端に終わった。全19話+未放送1話があるもののDVD化はされていない。
シリーズディレクター(SD。いわゆる監督)は『魔法使いサリー』『デビルマン』『タイガーマスク』『ゲゲゲの鬼太郎(第1期・第2期)』などにて単話演出を勤め、のちに『キャンディ・キャンディ』『花の子ルンルン』で女児アニメにおいても辣腕を奮った設楽博。
プロデューサーは『狼少年ケン』『サイボーグ009(第1作)』『デビルマン』などを手掛け、のちに『とんがり帽子のメモル』『聖闘士星矢』『SLAM DUNK』など、黎明期から90年代まで数多くの東映テレビまんがを手掛け現代に至るまでの基礎を築いた籏野義文。
当時、東映動画の制作進行助手・演出助手であった佐藤順一、梅澤淳稔の両名を単話演出へと抜擢し、また同様に当時はまだ、いち原画担当者に過ぎなかった青山充を単話作監へと抜擢した作品である。(梅澤・青山の両名は15話担当としての同時デビュー、佐藤の演出担当は18話)
原作の天坊が使えなかったのも野口英世の手ん棒を想起する為、天丸へ変更になったと言われている。
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