曖昧さ回避
- 物質量の単位の一つ(mol)。本項ではこちらを解説。
- カードゲーム「バロックナイトイクリプス」に登場する小動物。
- 「ガンダムビルドダイバーズ」の登場キャラクター。→ モル(GBD)
- ゲーム「テイルズオブヴェスペリア」に登場するキャラクターの愛称。→ リタ・モルディオ
- 大高忍の漫画「マギ」に登場するキャラクターの愛称。→ モルジアナ
- 「神羅万象チョコ ~七天の覇者~」に登場するキャラクターの略称。→ 空雷翔姫モルガン
- 「マグマ大使」の登場キャラクター。→ モル(マグマ大使)
- コロコロコミック版「ウルトラマン80」に登場するキャラクター。ウルトラ三勇士の一人。
- アニメ黄金バットの登場キャラクター。
概要
モル (Mole) とは、物質量の量を表す単位の1つ。国際単位系における7つのSI基本単位の1つでもあり、1954年にSI基本単位が定められた後に新たにSI基本単位として加わった唯一の単位である。モルの記号はmolであると定められている。また、モルで量を表そうとする要素粒子の物質量を示す記号はn、モルと関連付けられて定義されるアボガドロ定数の記号はNAである。
名称 | モル (Mole) |
---|---|
記号 | mol |
単位系 | 国際単位系 |
量 | 物質量 |
現行定義 (概略) | 正確に6.022140857×10^23個の要素粒子の数 |
現行定義の発行日 | 2019年5月20日 |
依存するSI基本単位 | 無し |
依存されるSI基本単位 | 無し |
由来 | 水素の原子量を1とする物質量 |
定義
現行の定義
モルの定義は国際度量衡委員会によって定められている。4年に一度国際度量衡総会が行われ、必要があれば定義の見直しと改定が行われる。最新の定義は2018年11月16日に行われた第26回国際度量衡総会によって決議され、2019年5月20日より発行される以下の定義である。
- モル、記号molは、物質量のSI単位である。1molは正確に要素粒子6.02214076×10^23個を含む。この数値はmol^-1と等しい表現でアボガドロ定数NAの固定された数値であり、アボガドロ数と呼ばれる。物質量、記号nは、指定された要素粒子の数の尺度である。要素粒子は原子、分子、イオン、電子、他の任意の粒子又は特定の粒子群であって良い。
モルの定義は、少なくとも他のSI基本単位よりは簡単な表現で表される。モルは6.02214076×10^23個の何らかの粒子を1molと数える単位であると述べている。「ダースとは12個の構成要素を1ダースとする単位である。構成要素は鉛筆、卵、チョコレート、その他何でも良いし、複数個を1つの容器にまとめた物で数えても良い。」と言うのと同じである。
そして、モルの定義では同時にアボガドロ定数も定義されている。アボガドロ定数は1molの物質の中に含まれる要素粒子の総数を示し、アボガドロ数とも呼ばれる。このわずかな名称の違いは、歴史的にアボガドロ数と呼ばれていたものが、1969年にモルと関連付けられる際にアボガドロ定数と改名された事に由来する。
モルの定義は、どの基本単位からも依存せず定義され、またどの基本単位にも依存されない。この関係性は基本単位では唯一である。
前回の定義
前回の定義は、1971年の第14回国際度量衡総会によって決議された以下のようなものである。定義をより厳密にする為、1980年に補則が加えられた。
- 1. モルは、0.012kgの炭素12に含まれる原子の数と同じ数の要素粒子を含む系の物質量である。
- 2. モルを用いる時には要素粒子を指定する必要があるが、それは原子、分子、イオン、電子、他の粒子又はこれらの粒子の集合体であって良い。
- 補足: この定義の中で、炭素12は結合しておらず、静止しており、基底状態にあるものを基準とする事が想定されている。
かつて物質量の単位は原子量を基準にしており、その対象は歴史上何度か変更されたが、最後に登場したのがこの12グラムの炭素12原子の個数を基準とする定義である。対して現行の定義は何らかの原子量を基準とせず、単純に個数の単位としてモルを定義している。炭素12とモル、及びそれにかかわる単位の関係性や数値の不確かさは、定義の変更で若干変化する。例えば炭素12のモル質量やモル質量定数は、前回の定義では定義値であるが、現行の定義では不確かさを持つ値となる。一方で統一原子質量単位は炭素12に依存する定義に変更が無い為、前回と現行に差はない。
歴史
モルの定義は、原子量に関連する歴史と絡み合っている。
原子量の概念を最初に発表したのは、原子論を唱えたジョン・ドルトンによるもので、1805年に水素の原子量を1として他の元素の相対原子量を表す最初の表を作成した。同じような考えはイェンス・ベルセリウスも持っており、1818年には酸素を原子量の基準とする事を提案した。酸素は水素と異なり、大部分の元素、特に金属と化合する点で都合がよかった。ベルセリウスは酸素の原子量を100と定義していた。またこの頃には、原子量の単位としてグラム原子やグラム分子という名前が存在した。
シャルル・ジェラール、アンリ・ヴィクトル・ルニョー、スタニズラオ・カニッツァーロらの研究によるベルセリウスの研究への指示により、1860年にドイツで開催された化学に関する国際会議のカールスルーエ会議により、再び水素の原子量を1とする相対原子量が定義された。ただし当時の測定精度では、酸素の原子量を16であるというのと同等の水準であった。またこの頃に、ドイツ語で分子を意味する "Molekül" から "Mole" という用語が作られた。この時代のモルの定義は以下の通りとなる。
- モルとは、0.032kgの酸素分子を1molとする物質量である。
しかしながら分析化学の進歩により、1913年頃から、原子には質量数の異なる同位体が存在する事が判明した。酸素の原子量は16と定義されてきたが、他に17や18も存在し、天然の酸素分子を定義とするモルは、16・17・18が混ざった物を定義に使用している状態である事が判明した。物理学の分野では、これでは不都合なので、酸素16を基準とする以下の定義に変更された。
- モルとは、0.016kgの酸素16を1molとする物質量である。
しかしながら、化学の分野では従来の酸素分子を基準とするモルが使用された為、物理学と化学で異なるモルが使用されるという不都合な状態が生じた。そこで1960年の国際純粋・応用物理学連合と国際純正・応用化学連合は協議を行い、基準を酸素から炭素12に変更する事で合意した。炭素の同位体には12・13・14が存在するが、12と13は99:1と比較的量が多いのに対し、14はほとんど無視できる程しか存在しない事が、3種類が混ざっている酸素より都合がよかったためである。
- モルとは、0.012kgの炭素16を1molとする物質量である。
1971年、第14回国際度量衡総会は、モルの定義を若干変更し、これが前回の定義となった。また、モルをSI基本単位として新たに導入する事を決定した。これは1954年にSI基本単位が制定された後、唯一後になって追加されたものである。同時に、単なる数の単位であったアボガドロ数がアボガドロ定数へと改名され、モルと関連付けられた。
モルの大きさ
他のSI単位と同じく、モルにもSI接頭辞を付けて大きさを表す事が出来る。
接頭辞 | 大きさ | |
---|---|---|
1Ymol | 10^24mol | 220Ymol: 地球の原子の総数 |
1Zmol | 10^21mol | 76Zmol: 地球の水分子の総数 |
1Emol | 10^18mol | 176Emol: 地球の空気に含まれる原子の総数 |
1Pmol | 10^15mol | |
1Tmol | 10^12mol | |
1Gmol | 10^9mol | |
1Mmol | 10^6mol | 8Mmol: 地球の細菌の数 |
1kmol | 10^3mol | 12kmol: 人体の原子の総数 |
1hmol | 10^2mol | 1.8hmol: 10kgダンベルに含まれる鉄原子の数 |
1damol | 10^1mol | 1damol: コップ1杯の水に含まれる水分子の数 |
1dmol | 10^-1mol | 8dmol: 観測可能な宇宙の恒星の数 |
1cmol | 10^-2mol | 4.5cmol: 1リットルの気体に含まれる粒子の数 |
1mmol | 10^-3mol | 3.3mmol: 地球の砂粒の数 |
1μmol | 10^-6mol | 17μmol: 地球の昆虫の数 |
1nmol | 10^-9mol | 8nmol: 地球のアリの数 |
1pmol | 10^-12mol | 5pmol: 地球の木の数 |
1fmol | 10^-15mol | 13fmol: 地球の人間の数 |
1amol | 10^-18mol | |
1zmol | 10^-21mol | |
1ymol | 10^-24mol | 1.66ymol: 1個の要素粒子 |
その他
1971年にモルをSI基本単位に追加する前後から、特に物理学者の間ではモルがSI基本単位である事を批判する声が若干存在する。これは、定義上モルは単なる個数を表す単位である事が関係している。国際単位系は単位の統一だけでなく、1つの量に複数の単位を割り当てないとする一貫性が重視されている。個数は無次元量 (単位に寄らない数値) であり、そこに追加の単位を入れる事は一貫性に反する。また、物質量は質量との関係性がある為、モルは質量かその組立単位で表されるべきという指摘もある。
しかしながら、ドルトンの法則、定比例の法則、理想気体の状態方程式といった、質量だけでは法則を定義できない科学法則がある事から、モルは現在でもSI基本単位として存在している。