概要
アンペア (Ampere) とは、電流の量を表す単位の1つ。国際単位系における7つのSI基本単位の1つであり、MKS単位系の拡張であるMKSA単位系でも基本単位として登場する。アンペアの記号はAであると定められている。英語圏では時に "amp" と表記されるが、誤用である。
名称 | アンペア (Ampere) |
---|---|
記号 | A |
単位系 | 国際単位系 |
量 | 電流 |
現行定義 (概略) | 1秒間に電子624京1509兆6291億5265万個分の電荷を運ぶ電流 |
現行定義の発行日 | 2019年5月20日 |
依存するSI基本単位 | s |
依存されるSI基本単位 | 無し |
由来 | 真空中で間に働く力が2dyn/cmである、1cm間隔の電流の10分の1 |
定義
現行の定義
アンペアの定義は国際度量衡委員会によって定められている。4年に一度国際度量衡総会が行われ、必要があれば定義の見直しと改定が行われる。最新の定義は2018年11月16日に行われた第26回国際度量衡総会によって決議され、2019年5月20日より発行される以下の定義である。
- アンペア、記号Aは、電流のSI単位である。それはCと等しく、A sとも等しい表現で、秒の定義はΔνCsとし、電気素量eを1.602176634×10^-19と定める事によって決定される。
普段聞かないような用語の連続でかなり難しいが、各用語は以下のように対応している。
Cと等しく | 電荷の単位クーロンである。 |
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A sとも等しい表現 | A×sと等しい。これはクーロンの定義でもある。 |
秒の定義はΔνCsとし | 別のSI基本単位である秒の定義を引用している。 |
電気素量 | 電気量の物理定数。1個の電子の電荷と大きさは等しく符号が反対である。 |
e | アンペアの定義を他の単位の定義に使用する際に使う記号。電気素量の記号でもある。 |
つまり、厳密性を損なわずなるべく平易に言おうとすると、アンペアの定義は以下のようになる。
- アンペアは世界共通に使われる電流の単位である。記号はAとする。アンペアと秒を掛け算した単位A×sをまず定義する。これはクーロンという単位とし、記号はCである。秒の定義は摂動の無い基底状態のセシウム133原子の超微細構造遷移周波数を用いる。詳しくは秒の定義を参照せよ。定義より、アンペアはクーロンを秒で割ったものに等しい。従って、アンペアは1秒間に1クーロンの電気量を運んだ場合の電流である。電気量の基準は電気素量とする。これは符号が反対であるが電子の電荷と等しい量である為、1秒間に電子を624京1509兆6291億5265万個運んだ電流が1Aである。この定義を他で使う際の記号はeとする。
厳密性を省き、もっと簡単に言うとこのようになる。
- 電子を1秒間に624京1509兆6291億5265万個を運べる電流を1Aとする。
これでも難しく聞こえるかもしれないが、少なくともかつてのアンペアの定義よりはずっと具体的でシンプルである。電流の正体は自由電子の流れである事はよく知られているが、電子1個が持つ電気の量は決まっているので、電子が何個流れれば何アンペアであると定義するという、実は非常に簡単な定義である。なお、厳密には電気素量の符号はプラスであり、陽子又は陽電子の電荷符号と等しく、電子は大きさは一緒な物の電荷が反対である。ただし事実上電流として流れるのは電子に絞られ、また電子の流れと電流の流れは方向が反対であるという歴史的な事情と定義から、通常の文脈では電子を基準においてよい。
前回の定義
前回の定義は、1948年の第9回国際度量衡総会によって決議された以下のようなものである。
- アンペアは、無限に長く無限に小さい円形断面を有する2本の真っ直ぐな導体を、真空中で1m間隔で平行に配置し、それぞれに決まった電流を流した際、導体の間に1m当たり2×10^-7Nの力が働いた際の電流である。
かいつまんで言えば、導体に電流が流れると電磁誘導によって磁場が発生し、導線は互いに引き合うか反発するが、この引き合う力の大きさで電流の強さを定義しようとしたのがアンペアのかつての定義である。導線が互いに引き合うのを発見したは、アンペアの名前の由来であるアンドレ=マリ・アンペールであり、この法則はアンペールの力の法則と呼ばれている。
一方で、無限に長く無限に細い導線を配置するのは当然ながら不可能であり、完全に数学的である。これは定義が厳密にはこうせざるを得ないという事情がある為で、実際の測定では電流と質量を関連付けるキブル天秤による測定がその代替えとなっていた。
歴史
アンペアの定義は、そもそもアンペアという名称の決定や、定義によってアンペアの意味合いが微妙に異なる事、具体的な実物的定義と抽象的な概念的定義が入れ替わりで出てくるなど、複雑な経緯を辿っている。
1832年にカール・フリードリヒ・ガウスによる地磁気の測定により、電磁気は長さ・質量・時間の単位系と密接な関わりがある事が分かり、単位系に電磁気に関係する単位の組み込みが必要となった。その当時、単位として多用されていたのは、センチメートルとグラム、秒を基本単位とするCGS単位系であった。CGS単位系はまだ電磁気が含まれていなかった為、新しい単位を定義して組み込む試みがなされた。当時、電流を導線に流すと、導線同士に力が働くアンペールの力の法則は知られていた為、これを基に以下のような定義が1851年に出された。
- 電磁単位とは、真空中に1cm間隔で同じ大きさの電流が流れている時、両者の間に働く力が2dyn/cmである時の電流である。
この定義において "dyn" はダインという力の大きさの単位である。その大きさは1gの物体に1cm/s^2の加速度を与える力と定義される。現在では力の単位はニュートンなので、1dyn=10^-5Nである。また "emu" とは「電磁単位」という当時の電流の単位であるが、emuそのものは電磁単位を意味せず、固有の名称が与えられていなかった単位に付与される暫定的な略称である。
しかしながら電磁単位が定義された当時、CGS単位系は不便で扱いにくく、センチメートルとグラムの代わりにメートルとキログラムを基本単位とするMKS単位系へと移行する時代へとなっていた。理由は、人間が日常的に扱う長さや質量はセンチメートルやグラムスケールの物よりメートルやキログラムスケールの物が多い事、当時の測定技術ではセンチメートルやグラムスケールで厳密な科学的測定を行うのが難しすぎた為である。
そこで、MKS単位系に "実用的な" 電流の単位を組み込む事が提案された。新しい単位は電磁力学への貢献を称えてアンドレ=マリ・アンペールから「アンペア (Ampere)」と名付けられた。アンペアは実用単位という位置づけであり、それに対して先述の定義から導かれる絶対単位 (absolute unit) である電磁単位は「アブアンペア (Abampere・記号abA)」と命名された。アンペアを組み込んだMKS単位系はMKSA単位系と呼ばれる。また、後の時代で一般化CGS電磁単位系と呼ばれる、電磁気の性質を正確に組み込んだ単位系では、アブアンペアはジャン=バティスト・ビオに因んで「ビオ (Biot・記号Bi)」とも呼ばれる。アブアンペアに対するアンペアの大きさは10分の1、即ち1abA=10Aである。
1881年、フランスのパリで開催された第1回国際電気博覧会では、当時の電磁力学の単位について国際的な統一基準と定義が話し合われた。この時決定されたのは、電流の単位アンペア、電圧の単位ボルト、そして電気抵抗値の値オームである。この定義は、1893年にアメリカ合衆国のシカゴで開催された国際電気会議の際に発表された。
しかしながら、この統一基準はすぐには正式には定義として認められなかった。オームの定義の決定時に不備が存在し、CGS単位系で求まるオームと、1893年の定義で求まるオームにはズレがあったのである。オームの提案された定義は、断面積1mm^2で高さが106cmの水銀柱で電気抵抗値を求める物であった。しかしながら実際に採択されたのは106.3cmと3mmの長さのズレがあり、結果的に0.28%の誤差が生じてしまった。オームの法則により、アンペア・ボルト・オームは単純に関連付けられると分かっているにもかかわらず、1893年の定義ではそれが関連付かないとなってしまい、これは不都合である。結局、1893年の定義で求まる単位を「国際単位」、CGS単位系で求まる単位を「絶対単位」と区別し、1908年にイギリスのロンドンで開催された万国電気単位会議でアンペアとオームについては定義を維持する事が採択された。この定義に基づくアンペアは「国際アンペア (International ampere)」と呼ばれる。
時代が下り、1948年の第9回国際度量衡総会は、他の電磁力学に関連する単位と共にアンペアを以下のように定義した。
- アンペアは、無限に長く無限に小さい円形断面を有する2本の真っ直ぐな導体を、真空中で1m間隔で平行に配置し、それぞれに決まった電流を流した際、導体の間に1m当たり2×10^-7Nの力が働いた際の電流である。
これは先述した前回の定義の事であるが、これは最初に電磁単位が定義された際の定義と基本は変わっていない。ただし電磁単位の定義で導かれる大きさは10Aであるので、1Aに直す為に引き合う力の大きさを変えている。2×10^-7Nという中途半端な力の大きさは、力の大きさがダインで定義されていた頃の名残である。この定義で算出されるアンペアは、国際アンペアと区別する場合には絶対アンペアと呼ばれるが、国際アンペアと絶対アンペアには1国際アンペア=0.99985絶対アンペアと言う僅かな大きさの差がある。
現行の定義でも、想定されているのは絶対アンペアである。ただし、電磁単位から数えて、抽象的概念的な定義、具体的物質的な定義、抽象的概念的な定義と来てまた具体的物質的な定義となった。
- アンペア、記号Aは、電流のSI単位である。それはCと等しく、A sとも等しい表現で、秒の定義はΔνCsとし、電気素量eを1.602176634×10^-19と定める事によって決定される。
アンペアの大きさ
他のSI単位と同じく、アンペアにもSI接頭辞を付けて大きさを表せる。
接頭辞 | 大きさ | 例 |
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1YA | 10^24A | 34.789YA: プランク電流 |
1ZA | 10^21A | 0.1ZA: 宇宙ひも |
1EA | 10^18A | 3EA: 活動銀河3C 303のジェット |
1PA | 10^15A | 1PA: 中性子星PSR J0537-6910の磁気圏 |
1TA | 10^12A | 1TA: 太陽の光球 |
1GA | 10^9A | 3GA: 太陽圏電流シート |
1MA | 10^6A | 1MA: 地球磁気圏 |
1kA | 10^3A | 1kA: 電車の力行時に流れる電流 |
1hA | 10^2A | 5hA: 電気溶接 |
1daA | 10^1A | 5daA: シビレエイ |
1dA | 10^-1A | 5.8dA: LHCの陽子線電流 |
1cA | 10^-2A | 3cA: 人間が感電死する恐れのある電流 |
1mA | 10^-3A | 1mA: 人体が電流を感じる最小値 |
1μA | 10^-6A | 10μA: クォーツ時計 |
1nA | 10^-9A | 5nA: 室温下でのシリコンダイオードの逆電流 |
1pA | 10^-12A | 1pA: 生体中におけるシングルカルシウムイオンチャネル |
1fA | 10^-15A | 3fA: DRAMメモリセルのリーク電流 |
1aA | 10^-18A | |
1zA | 10^-21A | 160zA: 1秒間に電子1個を運べる電流 |
1yA | 10^-24A |