ロードス島戦記
ろーどすとうせんき
概要
TRPGの『ロードス島戦記』、及びそのアニメ作品のこと(英語表記は“Record of Lodoss War”)。
元々は日本のゲーム製作集団『グループSNE』の水野良によって執筆されたリプレイ及び小説の事のみを指していたが、後に、TRPG、アニメ、コミック、コンピュータゲームなど多岐に渡ってメディアミックス作品が多数発表され、今ではそれらを全て含んだ、大きな世界観を共有する作品群の事を指す。
“ロードス島”は地中海ギリシャに実在する有名な観光地(英語でのローマ字表記は"Rhodes")であり、本作の舞台のロードス島(Lodoss)のモデルと勘違いされることが多いが、綴りが異なることから分かるように、実は一切関係ない。製作当時、製作者側もロードスという島が実在するとは知らなかったという。また、日本の歴史小説家である塩野七生の著作に『ロードス島攻防記』というものがあるが、やはり本項で解説する『ロードス島戦記』とは全く関連性が無い。こちらは史実のロードス島攻防戦に基づいた歴史小説である。
概要と歴史
『コンプティーク』(当時はパソコンゲーム雑誌だった。現在の姿は姉妹誌『コミックコンプ』と統合した後にパソコン関連の記事が廃れたもの)誌上で1986年9月号から掲載されたTRPGのリプレイ連載記事が始まりであり、ボードゲームがメインであるグループSNEが『ザ・ブラックオニキス』から始まった日本でのCRPGブームに乗じてTRPGを流行らせる為に執筆した『ダンジョンズ&ドラゴンズ(Dungeones & Dragons)』を紹介するための記事であった。
しかしこの時の連載記事の挿絵イラストを、当時の人気アニメータであった出渕裕が担当した事と、ゲーム中の紅一点のプレイヤーキャラであったディードリット(プレイヤーは山本弘)の人気に火が付いた事と相まって大変な好評を博した。
こうして人気が爆発したため、このリプレイ連載シリーズは登場キャラを変えながら第3部まで行われた。
リプレイの連載と同時並行しながら小説へのメディアミックス展開も行われ、執筆は同じ『グループSNE』のメンバーであった水野良が担当し、同時に詳細な世界の設定等も行われていった。
2017年1月に舞台化。
2019年8月1日に新作『ロードス島戦記 誓約の宝冠』が発売。
TRPGとしての『ロードス島戦記』
前述の通り、当初は『ダンジョンズ&ドラゴンズ(Dungeones & Dragons)』のルールをそのまま使ってプレイされていた。が、人気を受けてリプレイを単行本化しようとした際に問題が発生した。「D&Dを紹介する為の雑誌記事」として見逃されていた本作も、単行本化(商品化)するともなればD&Dの版権元の許諾を得る必要があった。
しかし当時D&Dの版権を持っていたのは、ゲーム業界で両者版権ゴロと見做されていたTSRと新和(邦訳版)だったため、最初期のリプレイは出版不可能となり、完全にお蔵入りしてしまった。
(この件はビホルダー/鈴木土下座衛門の顛末からある程度察することが可能。現在の版権はウィザーズ・オブ・ザ・コースト(WotC)とホビージャパンが保有し、TSR社および株式会社新和は現存していない)
そのため単行本は小説版のみで展開。リプレイ第三部からは自作のルールを用意し、第1、2部は新ルールでやり直す事でやっとリプレイの単行本化が実現した。
このルールをブラッシュアップしたのが『ロードス島戦記コンパニオン』(いわゆる旧版)『ロードス島RPG』(いわゆる新版、2018年版)である。なお『コンパニオン』はD&Dの影響が大きく残っている。
ゲームの世界観
ロードスという名の島がある。アレクラスト大陸の南に浮かぶ辺境の島だ。
大陸の住人の中には「呪われた島」と呼ぶ者もいる。混沌の領域が数多くあるがゆえに。妖魔や魔獣など忌まわしい生き物が数多く住むがゆえに。そして、破壊の女神として知られる一柱の女神の骸がこの地に眠っているとの伝説が残されているがゆえに。
(ロードス島戦記・5巻、冒頭より)
プレイヤーたちは「呪われた島・ロードス」を舞台に、かつての神話時代に遺された遺跡などを探索して、富と栄光を求める冒険者となる。そこでは主に、エルフ、ドワーフ、グラスランナー、そして人間たちが共存し。互いに助け合ったり、時には争ったりしながら暮らしている。太古の世界から存在した神々たちも、僅かではありながらも人々に影響を及ぼしており、それぞれに信者たちを集めて宗教という形で残っている。
ロードス島の存在する世界は一般には「フォーセリア」と呼ばれ、ソード・ワールドの舞台アレクラスト大陸の、南に位置するロードス島もその一部である。しかしながら“島”と言ってもロードス島は大陸にも相当するほどの非常に大きな島であり、島内には実に様々な種族・民族が暮らしている。また国家群も多数存在しており、もはやロードス大陸と呼んだ方が相応しいほどの島である(具体的な面積などは不明だが、地球のグリーンランド程度の規模か?)。
ロードス島の形状がオーストラリア大陸にそっくり(タスマニア島まである)なのは、実在の地形から翻案して地図を作り世界設定を作るという、TRPGのあるあるテクニックだったりする。
登場する種族
『コンパニオン』では基本的にプレイヤーたちが選べるのは、エルフ、ドワーフ、ハーフエルフ、人間~の4つのみ。
他にもグラスランナーやダークエルフ、それにオークやゴブリンといった種族も存在するが、公式ルールではプレイヤーたちは選んではいけない事になっている…が、ことダークエルフに関してはこぞって皆がやりたがるため、事実上は有名無実化しているルールとなっている。
また文庫版リプレイ第2部ではストーリー上、グラスランナーのマールがプレイヤーキャラとして参加している。
あまり知られていないが“グラスランナー”は当初、ロードス島戦記には存在しなかった種族である。当初は前述の通り、『D&D』ベースでリプレイが行われていたので、登場していた「小さい人々」は当然ながら“ハーフリング”という設定であった。しかし前述の著作権問題のためリプレイ第三部発表後は最初からグラスランナーだった事にされた。
文庫版『ロードス島RPG』ではエキスパートルールからグラスランナー、ダークエルフを種族として選択可能。ただし両方ともかなり癖が強く、取り扱いの難しい劇物指定種族と説明されている。
(特にダークエルフの場合、マーモを裏切ってプレイヤー側についている等、特殊な理由付けが必要になる)
2018年版ロードス島戦記RPGでは人間、エルフ、ドワーフ、ハーフエルフ、グラスランナーの5種族が選べる。
登場する神々と宗教
最初のルール上に登場する神々は以下の6神。
ファリス | ロードス神話の主神とされ、正義と秩序を象徴する至高神。 |
---|---|
マイリー | 戦士や傭兵などに信仰される戦いの神。 |
チャ・ザ | 商人などに信仰される幸運と商売の神。 |
ラーダ | 魔術師などに信仰される知識と学問の神。 |
マーファ | 慈愛と癒しを司る創造と大地の女神。 |
ファラリス | ファリスと対をなす暗黒神。 |
上記のなかでファラリス神のみ、ルール上はプレイヤーは選択不可とされている。専ら敵役のダークエルフや魔術師が信奉する邪神扱いであり、プレイヤーたちに取っては討ち果たすべき障害となる神である。
ただしファラリスの本質は「(良くも悪くも)自由主義」であり善悪は関係無いため厳密に言えば邪神ではない(信者が「善行をしたい」と望めば力を貸してくれるし、自分の意志で「俺は法に従うぜ」と言えばそれを認めてくれる)。そのため続編『漂流伝説クリスタニア』ではプレイヤーに解禁されている(この辺りは同時期の『ファー・ローズ・トゥ・ロード』の「古テュール派」も同じ)。
こうなったのは世界設定的に、神話時代に闇の神々(必然的に邪神が多い)のリーダーとして光の神々と戦ったこと、ファラリス信者が悪事に手を染める傾向に有る事が原因と思われる。
D&D的に分類すると、ファリスは「秩序にして善」、ファラリスは「混沌にして中立」あたりだろう。そして破壊神カーディスこそが「混沌にして悪」な邪神である。
基本システム
『D&D』と大きく異なったのは、いわゆる「%ダイス・システム」を用いる点である。
つまりゲーム中の行為判定を全て何らかの「○○%以上で成功or失敗」と言う風に定義し、それに基づいてプレイヤーがダイスを振り、出た目がその目標値を下回れば成功とするシステムである。この場合、通常は10面体ダイスを2個同時に振り、あらかじめどちらが10の桁~1の桁と言う事も決めて置く。それぞれの出目が5と2だったなら、52と解釈して52%以下の行為は成功と判定する(一応、それ以前から『ルーンクエスト』等でも使われていたので、専門店等では「100面体ダイス」と言う物も販売されている)。
またこのゲームを特徴付ける「集中力」と呼ばれるシステムがあり、プレイヤー・キャラクターたちは何かピンチに陥った時に、この“集中力”を使う事を宣言すれば“火事場の馬鹿力”的な行為を行う事が可能となる。いわゆる一般的なRPGに於ける「クリティカル」をプレイヤーの任意で引き寄せる事が出来るシステムと考えても差し支え無いが、ゲーム内時間で1日辺りそのキャラクターのレベル回数分という制限が付く。さらに行為判定に失敗した時にも、この“集中力”によって損害を軽減したり無効化する事も可能である。尚、どの程度の効果が期待出来るかはGM(ゲームマスター)の裁量に委ねられる。
新版は上記に加えてスキル制を導入しており、例えば剣のスキルを持っていれば剣の攻撃の成功率+○○%、というように職業だけでなくどのスキルが得意不得意化を細かく調整できるようになっている。
『ソード・ワールド』『クリスタニア』との関連性
『ソード・ワールド』(いわゆる無印のみ)、『漂流伝説クリスタニア』は本作である『ロードス島戦記』を下敷きに作られた公式スピンオフ作品と言っても良い位置付けである。
ソードワールドはロードス島の隣にある大陸が舞台、クリスタニアは海の彼方(更に未来)が舞台である。
主に世界の創作は「グループSNE」のメンバーであった水野良が担当。その後も水野良が執筆し続けた小説の『ロードス島戦記・シリーズ』は好評を博し、その作品の中で語られるフォーセリアの世界は、やがて一大ファンタジー世界観となって完成する事になった。この「フォーセリア」の設定をそのままに引き継ぎ、より洗練されたTRPGとして発表されたものが『ソード・ワールドRPG』である。
したがって地名や国家、神話や伝説の英雄たちなどは基本的にそのまま相互間関係にあると言える。また後に、ソード・ワールドRPGのルールを用いて『ロードス島戦記』の世界をプレイするための互換用TRPGルールも発表された(『ソード・ワールドRPG ロードス島ワールドガイド』)。
主なシリーズ一覧
TRPG
旧版
- ロードス島戦記 コンパニオン
- ロードス島戦記 コンパニオン2
- ロードス島戦記 コンパニオン3
新版
- ロードス島RPG ベーシックルール
- ロードス島RPG エキスパートルール
新版以降
- ソード・ワールドRPG ロードス島ワールドガイド(『ソード・ワールドRPG』のルールでプレイするための物。チート、もとい英雄的行為ができる「超英雄ポイント」が導入された)
- ロードス島戦記RPG(2018年版。新版をベースに「超英雄ポイント」の逆輸入など微調整が加えられている)
PCソフト
- ロードス島戦記 -灰色の魔女-
- ロードス島戦記II -五色の魔竜-
この他にも「ロードス島戦記 福神漬」と銘打たれたファンディスクが発売された。
コンシュマーソフト
- ロードス島戦記(PCエンジン)
- ロードス島戦記2(PCエンジン)
- ロードス島戦記 英雄戦争(メガCD)
- ロードス島戦記(SFC)
- ロードス島戦記 -英雄騎士伝- GB(GB)
- ロードス島戦記 邪神降臨(DC)
小説
- ロードス島戦記 灰色の魔女
- ロードス島戦記2 炎の魔神
- ロードス島戦記3 火竜山の魔竜(上)
- ロードス島戦記4 火竜山の魔竜(下)
- ロードス島戦記5 王たちの聖戦
- ロードス島戦記6 ロードスの聖騎士(上)
- ロードス島戦記7 ロードスの聖騎士(下)
- ハイエルフの森 ディードリット物語
- 黒衣の騎士
- 新ロードス島戦記序章 暗黒の島の領主
- 新ロードス島戦記序章 炎を継ぐ者
- 新ロードス島戦記1 闇の森の魔獣
- 新ロードス島戦記2 新生の魔帝国
- 新ロードス島戦記3 黒翼の邪竜
- 新ロードス島戦記4 運命の魔船
- 新ロードス島戦記5 終末の邪教(上)
- 新ロードス島戦記6 終末の邪教(下)
アニメ
- ロードス島戦記(OVA版/全12話)
- ロードス島戦記 -英雄騎士伝-(TVアニメ/全27話)
- ようこそロードス島へ!(『英雄騎士伝』の後に放送されたミニアニメ。パロディ四コマ漫画が原作)
- ロードス島戦記(劇場版/30分作品)
ファンタジーシーンに与えた影響
最大の功罪はディードリットの影響であろう。これ以降のアジア圏におけるファンタジー作品でエルフが登場した場合はすべて、『ロバの様に横にピンと張った長い耳』という描写にほぼ固定化されたイメージとなった(『エルフ耳』の項も参照)。
ただし、伝承における妖精としてのエルフも尖った特徴的な耳を持っており、指輪物語のエルフもまた尖った耳を有している。
ロードス以降の変化というのは、出渕裕が尖っているだけでなくアンテナのように長くデザインしたという点にある。