科学特捜隊ベムラー
かがくとくそうたいべむらー
概要
TBSの予想を上回る大ヒットを記録した『ウルトラQ』に続く「モンスター・シリーズ」の第2弾として円谷プロが打ち出した企画のひとつ。
元々フジテレビ向けに企画されていた『WoO』が紆余曲折を経てTBS側に流れ、それをもとにして宇宙からやってきた正義の怪獣が活躍する特撮ヒーロー番組の企画となった。
の大ヒット後、円谷プロが次回作用に考えていた企画案の一つ。
企画書によると「常識を越えた事件を専門に扱う科学特捜隊」と彼らに協力する正体不明の宇宙人ベムラーが設定されている。
烏天狗に似た宇宙からやって来た正義の怪獣ベムラーが、事故で命を落とした科学特捜隊のサコミズ隊員と融合し、次々と現れる怪獣や侵略宇宙人と戦うというものだった。
しかし監督の円谷英二が「それじゃ怖いから、もっと優しい顔の怪獣に…いや、スーパーヒーローを主役にしよう」という意見を出し、関係者からも「敵怪獣との区別がつきにくい」「ヒーローとしてのキャラクター性が弱い」との指摘があったことで正義の怪獣路線は没となり、以後『レッドマン』を介して『ウルトラマン』へと変わっていった。
企画書に描かれたストーリー
国際科学警察機構日本支部に編成された科学特別機動捜査隊、通称科学特捜隊。
警察では手に負えない怪事件を調査し、外宇宙からの侵略から地球を防衛する重大な任務を負っていた。
警視庁から「お化け屋敷」と揶揄されるモダンなビルジングに建てられた本部には、最新の設備とスーパーメカが備わっていた。
しかしそんな彼らにも限界はある。絶体絶命のピンチに陥ったとき、どこからか神風のように現れる謎のモンスター、それがベムラーである。
主要登場人物
- ムラマツ
科学特捜隊隊長。40歳。統率力と決断力に優れる智将で、隊員たちの尊敬の的となっている。
厳しい態度で任務に臨む様から「お化け屋敷の鬼」の異名を持つが、プライベートでは心優しい人物。
小学5年生くらいの息子がいる。
- サコミズ
科学特捜隊の隊員。28歳。
墜落したセスナ機から無傷で生還した逸話から「不死身の男」の異名を持つ。
豪快で飄々とした性格で、肝心な時に行方をくらませてしまう。
- ホシノ
科学特捜隊の副隊長格。35歳。
「お化け屋敷の頭脳」の異名を持つ射撃の名手で、冗談や笑顔を前世に置いてきたようなおっかない顔が特徴。
- イデ
科学特捜隊隊員。25歳。
通信技師でありムラマツとともに本部から隊員に連絡を取る。
- アラシ
科学特捜隊隊員。25歳。
サコミズの相棒で「宇宙のオーソリティ」の異名を持つ。
予言の命中率は抜群といわれる天才だが、常に思考に集中しているためか少々マヌケな面がある。
- 由紀子/ユキ
サコミズの妹。
- ジム
科学特捜隊パリ本部の対極東連絡係長。
- 味方怪獣
(A案)ムラマツの息子が「宇宙人からもらった」と語る小動物がやがて巨大化能力を得て、科学特捜隊に協力する。
(B案)「日本のチベット」と称される東北地方の秘境で発見された原始怪獣に電子頭脳が埋め込まれ、科学特捜隊の戦力として運用される。
予定シナリオ
- 帰って来た男
アルプス上空をセスナで飛行していたサコミズは、謎の飛行物体と衝突し消息を絶った。
兄を失い悲しみに暮れる由紀子だったが、同僚から「銀座でサコミズに似た男を見た」と伝えられる。
そのころ町では道路上を走っていた自動車が対向車線を走る謎の車からヘッドライトを浴びせられ、運転手もろとも消失するという怪事件が相次いでいた。兄の行方を探して銀座をドライブする由紀子にも謎の幽霊自動車が迫る。そこに現れたのはベムラーだった。
- 原始島の怪物
アフリカ東方海上で操業中だった漁船「第三不知火丸」が沈没した。救出された漁師のアラキは「ふたつの光る目を見た」と証言する。ムラマツがアラキをイメージ投影テストに掛けたところ、第三不知火丸は巨大なウミヘビに襲われたことが判明する。
それから1週間後、日本近海に霧に包まれた不気味な無人島が出現する。島に迷い込んだ青年はウミガメの卵のようなものを見つけ持ち去るが、それは巨大ウミヘビの卵だった。
卵を取り戻すべく巨大ウミヘビが油壷に上陸する。
- 大誘拐
学校帰りの子供たちが集団で誘拐されるという事件が相次いでいた。
科学特捜隊が調査したところ、種の保存に失敗した宇宙人が子供たちを誘拐、洗脳して自分たちの星の住人に仕立て上げようとしていることが分かる。
- 緑の恐怖
「放射能の墓場」と称されるカロリン島で採集された植物が吸血植物となって人間に襲い掛かる。
サコミズは吸血植物に単身挑み、やがてベムラーとなって吸血植物と激闘を繰り広げる。
- 地球を売る男
とある核保有国のミサイル基地の指揮官が宇宙人に洗脳され、核ミサイルの発射ボタンを押してしまう。
異変に気付いた某国政府の命令でミサイルは空中で爆破され事なきを得るが、将校はなおも宇宙人の手先のまま。しかも政府の追跡を振り切り日本に逃げ込んだらしいことが判明する。
パリ本部から特派員が派遣され科学特捜隊と協力、宇宙人とその手先となった将校と対決する。
「帰って来た男」は『ウルトラQ』の没シナリオ「幽霊自動車」のリメイクだが、ここから山田正弘によって改訂され「ベムラー誕生」へと至った。
- ベムラー誕生
国際科学特捜隊隊長キューラン博士の命により、科学特捜隊日本支部が発足する。
日本では富士山付近を走行していた超特急ひかり号が高熱を発する謎の物体に襲われ飴のように溶かされてしまうという怪事件が発生する。
ただちにパリ本部から日本に向けて最新鋭のVTOL機・JS1号で飛び立つ科学特捜隊だが、アラスカ上空で妨害電波に見舞われ通信不能に陥り、光芒を曳いて飛ぶ謎の物体に襲われる。
脱出を試みる科学特捜隊だが、脱出装置が起動せず特殊鋼索を使ってサコミズひとりだけが機外に脱出する。するとサコミズと光芒を曳いた物体が激突し大爆発を起こした。
村松隊長(なぜかこのシナリオのみ漢字表記)たち科学特捜隊は気が付くと北太平洋の無人島にいた。村松は「大きな手に助けられたような気がする」、アラシも「サコミズに呼ばれた気がした」と証言するがそのサコミズの姿はどこにもない。
墜落したJS1号の破片を回収し、日本で回収したひかり号の破片と共に分析すると、ひかり号を襲った物体はJS1号を襲った物体と同じもので、チッソイオン化熱線を使ったものだったことが判明する。
その頃科学特捜隊日本支部にはサコミズの妹・ユキが兄を心配して駆けつけた。兄の行方が判明するまでここにいたいというユキだったが、聞き入れられず大阪の実家に帰ることになった。
しかしユキの乗った新幹線があの光芒を曳いた物体に襲われる。そこに現れたのはなんとサコミズだった。
光芒を受け止め押し返そうとするサコミズ。やがてその姿はベムラーへと変貌する。ベムラーは見事光芒を押し返した。
これにより敵の光線の発射源の特定に成功。なんと宇宙空間から放たれていたことが判明する。さらに宇宙航空局に謎の光芒人間が現れ固形チッソが盗まれたことも判明する。
サコミズはニセのチッソイオン化熱線を使って光芒人間をおびき寄せようとするが、逆に光芒人間に捕まってしまった。
しかしこれによって光芒人間が地上の工場から熱線の発射を遠隔操作していたことが判明。科学特捜隊はユキと協力して工場を調査、光芒人間との対決の末謎の装置を破壊することに成功。工場にはサコミズも捕らえられていた。
サコミズはベムラーに変身して光芒人間と対決する。光芒人間の正体は宇宙人で、地球のチッソを狙っていた。しかしベムラーは光芒人間たちを撃退し、地球の平和を守った。
ここからさらに14本のストーリー案が生み出された。
この時点で『ウルトラQ』の怪獣の再登場などが検討され、前記の初期シナリオ案と統合されたりしている。
サブタイトル | 登場怪獣 | 特徴 |
---|---|---|
地球を売る商人 | 宇宙人シビラス | 人間を洗脳する能力を持つ。 |
反撃指令パゴス | パゴス | 『ウルトラQ』のパゴス。 |
散歩する土星 | 土星苔 | 地磁波を操る苔の群れ。 |
グリーン・モンス | グリーン・モンス | 歯朶状の吸血植物。 |
大誘拐 | ケムール人 | 『ウルトラQ』のケムール人。 |
ゲスラ上陸 | ゲスラ | 巨大な毛虫の怪獣。 |
ミステランドの怪物 | マンダス | 現代によみがえった恐竜。 |
シー・タランテラ | シー・タランテラ | 鉄を腐食させる糸を操る巨大グモ。 |
氷点下四十度の決戦 | トドゴン | 南極に棲む巨大なセイウチの怪獣。 |
凍る極光ライン | ペギラ | 『ウルトラQ』のペギラ。 |
宇宙獣人来襲 | スキラー | 宇宙胞子を操る。 |
黄金怪鳥スパード | スパード | 黄金に輝く巨大な鳥の怪獣。 |
怪竜ウラー | ウラー | 双頭の竜の怪獣。 |
宇宙船遭難 | トロ星人 | 特殊な円盤を操る「映像人間」。 |
オマージュなど
科学特捜隊レッドマン
『ベムラー』がヒーローとしてのキャラクター性に欠けるとして宇宙人ヒーローとして企画をたてなおしたもの。ヒーロー以外の大まかな設定は『ベムラー』時代と大差ない。
今でもウルトラシリーズは新作が作られる度に『レッドマン』というダミーコードが使われる。
のちに意外な形で共演することとなる。(後述)
ベムドラ
マット・フランクのアメコミ版『レッドマン』に登場。レッドマンから怪獣を守る正義の怪獣としてレッドマンと激突する。