「ごめん。君は大事な人だから。君を倒せば僕はもっと強くなれるかもしれない」
演:高槻純
変身する仮面ライダー
概要
清明院大学の大学院生。香川英行教授の香川研究室に所属している。仮面ライダータイガの変身者。
年齢25歳。童顔且つ学生という肩書上分かり難いが、実は真司(23歳)や蓮(24歳)より年上で、浅倉とはタメ。(演者が若いという訳でもなく、寧ろ当時29歳と役柄より年上である)
作中で読んでいる本はカフカの『変身』(仮面ライダーシリーズの『変身』の由来となった小説である)。
香川の企てに仲村創と共に協力、ミラーワールドを閉じようとしており、神崎優衣の命を狙う。
香川を『英雄』と慕っており、自らも英雄になる事に固執した。
その理由も「英雄になれば皆に好きになって貰えるかも知れないから」という承認欲求に近いものであり、優衣の抹殺も自らの正義に従って行動しているからではない。
人物
人当たりのいい好青年を演じられる反面、目的のためなら仲間すら平然と手に掛け、始末が終わるとその人物を悼んで涙を流すという極端な二面性を持ち合わせている。
その情緒不安定で主体性が希薄な性分を現すかの様に、会話では「~かも」「~かもしれない」と頻繁に仮定形を用いる。考えが読めないという意味では、単純に狂暴な浅倉威以上に不気味で危険な存在とも言え、真司からは(元々東條が佐野を襲った現場に居合わせた事も合わせて)佐野が行方不明になった新聞を見た際に浅倉ではなく東條の攻撃が致命傷になったと考え、「浅倉の方がまだ分かり易い」と言われる程。この事から、浅倉と同等かそれ以上に危険な人物とファンから評される事も少なくない。本人は北岡に「お前とか浅倉を見てると、この闘いに勝ち残った奴は最強かもしれないけど、最悪って気がするよ」と言われた際に「あんな奴と一緒にされたくないかも」と不快そうに言い返していたが、正直北岡の言っている事は正しく、どっちもどっちである。
問題の浅倉の方は、最初こそ、龍騎との戦闘中にファイナルベントのクリスタルブレイクを食らわせて自分に屈辱を与えイラつかせた東條を一番の獲物である北岡を差し置いて真っ先に潰そうと付け狙い、北岡本人にも東條の居場所を問い質す(目の前に居る怨敵を無視して別の人間を狙っている事になる)程敵意を向けており、これには北岡も驚いていたが、3度目の闘いで一方的に叩きのめした際、怖気付いて逃げようとした事から徐々に興味を無くしていき、『所詮は小物』とまで侮辱する程興味が失せた様で、インペラーを倒して(実際トドメを刺したのは王蛇であったが)自信が付いた東條が再戦を呼びかけてもやる気を見せず、東條が他のライダーを呼び寄せて纏めて始末しようとした際も「お前の遊びはあんまり面白くないな」と吐き捨て叩きのめしていた。
以上の様に、狂人ではあるが、自分なりのルールに則って動き時折まともな言動をする浅倉威と、一見無害な好青年だが、主体性が無く突然狂った言動を取る東條悟はファンからもよく比較される。
彼の狂った部分は香川からも懸念されており、桃井令子を襲った際は「自分の力を楽しんでいるのでは」と苦言を呈された他、目障りだという理由で龍騎(真司)を襲った際は「英雄になるという事は、人の命に鈍感になるということではない」と叱責されている。ただ真司には当初は余り興味が無かった様で「おい待ってくれ、ミラーワールドを閉じる方法って」と聞かれても無視して去っていた。
ただし真司を「あんまり頭良くない」とからかうなど、人間味のある一面もなくはない。
本編での活躍
真司がミラーワールドの戦いを止める方法を模索する中、401号室で他の香川研究室のメンバーと共にタイガ候補の1人として初登場。
その後、龍騎との戦いを楽しむ王蛇に奇襲を仕掛けて瀕死に追いやったことで浅倉から狙われるようになる。
情報収集のために花鶏に潜り込むと戦いについて思い悩む真司に興味を持ち、独断でミラーワールドの情報を教えてしまう。この行為を仲村に咎められると神崎士郎への復讐に走ろうとする彼を疎ましく思ったのか、彼の変身するオルタナティブと龍騎の交戦の最中、オルタナティブを不意打ちして仲村を葬り去った。そして、驚きつつ憤る真司に「優衣を手にかけるのが嫌になった」と告げる一方、「仲村君には悪いことしたかも」と涙して彼を困惑させる。
流石に東條の人間性に不安を覚えた香川は、自身と家族の団欒の場に東條を招き、彼が人の心の機微を学べる様に取り計らう。
しかしその行為が裏目に出てしまい、香川の「(たとえ自分や身内が犠牲になっても)大勢の人間を助ける為なら数名の犠牲は止むを得ない」という思想を「いざという時、私情で機を逃したり、躊躇ってはいけない」ではなく「大切な人を犠牲にするのが英雄」だと歪んだ解釈をし始めてしまう。
香川への尊敬の念よりも手段を選ばず英雄になりたいという気持ちが勝ってしまった東條は、優衣を殺そうとする香川を背後から襲撃。
「何故」と問う香川に「ミラーワールドを閉じるのが嫌になった」「ライダーの戦いに勝ち残るのが真の英雄かなって」と言い放ち、ファイナルベントでトドメを刺した。
「先生は僕にとって一番大事な人でした。だから犠牲になって貰わないと。僕が英雄になる為に」
「ごめんなさい先生、ごめんなさい…」
香川の亡骸を抱え、上記の台詞を言いながら酔い痴れたかの様な笑みを浮かべつつ、大切な人を失った悲しみで涙するシーンは東條の歪みと不安定さが如実に現れていると言えるだろう。
尚、上述した香川の思想だが、先述の通り彼は妻子を蔑ろにするどころか危険が迫った際は本気で動揺する等、普遍的な家族愛を持ち合わせていた。いわば断腸の思いであり、「自分が志半ばで命を落とす事で家族を不幸にしてしまう=犠牲にするとしても立ち向かうのが英雄」というただ犠牲を強いるだけでなく自分自身も犠牲側に含めるという意味も含んでいた訳だが、東條には本音と建前が理解出来ておらず、「いざという時の為の心構え」を「成人の儀式」の様に解釈してしまったのである。
その後、香川を手にかけた事で自信がついたのか更に暴走、ゾルダと王蛇を相手に戦うも敗北して、気絶していたところを佐野満に保護される。
佐野としては打算的な行いだったが、面倒を見てくれる彼に「香川先生以外でこんなに優しくしてくれたの、君が初めてだし」と東條は心を開き、佐野の方も彼の境遇に同情したのか情が移ったのか、東條を友達と認識する様になっていた。(上記の発言から不遇な境遇・過去が示唆されているが、詳細は特に語られていない)
しかしその佐野も新しい大切な人=英雄になる為に殺すべき相手認定する暴走の結果、龍騎とのライダーバトルの最中に彼を裏切っては深手を負わせる。
実際にトドメを刺したのは王蛇であったが、そんな事実を知らぬ東條は、英雄に一歩近付いたと喜び、己の力量を確かめる為、浅倉を見つけ戦いを仕掛ける。
しかし浅倉は彼の異常性を理解した上で「佐野=インペラーを殺めたのは自分である」事を本人から語られ、目的を果たせていなかった事に東條は激しく動揺する。
「僕は…英雄になる為に…!」
英雄に届かなかった男(46話ネタバレ!!)
その後もライダーバトルで劣勢を繰り返していた東條。
そんな中、交戦相手であったゾルダ=北岡秀一の言葉が東條に刺さる。
「なぁ、お前さぁ、絶対英雄になれない条件が、一つあるんだけど…教えてやろうか?」
「英雄ってのはさぁ…英雄になろうとした瞬間に失格なのよ。お前、いきなりアウトって訳」
東條は逆上するも、北岡は隙を突いて逃走。
承認欲求に固執し、恩師も友も手にかけ、自身の唯一の支えとも言える行動目的を揺さぶられた東條は、「次に何をすれば良いか分からなくなった」とかつての拠点であった401号室でミラーワールドに関わる資料をストーブに焚べて燃やす等、暴走の一途を辿る。
そして生き残っているライダー達を一ヶ所に呼び出し、自身は全員が変身してミラーワールドに飛び込んだ後に出現。彼等がミラーワールド突入に用いた車にガソリンを撒き、近場の出入り口を破壊する事で時間切れによる仮面ライダーの総殺害を図る。
「ライダーなんて、最低な奴ばっっかりだよ! あんな奴等に、何言われても、気にする必要無かったかも…」
そんな総殺害を見抜かれていたかは不明だが、東條はミラーワールドに遅れて突入したところゾルダに不意討ち及びファイナルベントを躱され、挙げ句、王蛇に素手で一方的に嬲られ一連の企みを阻止される。最終的には、ゾルダがベノスネーカーの攻撃を王蛇に誘導し怯んだ隙を突いて命辛々逃げ出した。
しかし、東條はそれで終わらなかった。
敗北の可能性も見越していた彼は、浅倉に別件の成り行きで引き渡していた車に運転キーを回すと爆発する細工を仕掛けていた。結果浅倉は爆発を直に受け、車中で炎に包まれる事になる。
撤退後、爆発の光景を夢想し、一層英雄へ近付いたと語る東條。
香川の幻影と語り合いながら、先程のライダーバトルで満身創痍の身体を引き摺り宛てもなく街を彷徨っていたところ、信号待ちをしているとある父子に、香川教授とその幼き息子の姿を重ねる。
しかし父子が信号を渡る最中、暴走したトラックが道路に突入。
教授の面影を追ってか、彼に残っていた人間的な良心が働いたのか、東條は父子が轢かれそうになったところを間一髪で庇い重傷を負う。
自分を心配する人だかりの中、薄れ行く意識の中で彼は思いを馳せるばかりだった。
脳裏に過ぎるのは、彼を動揺させるきっかけとなった北岡の言葉。
「じゃあ……どうやって……英雄になるのかな。
香川先生………次は僕………誰……を」
12月23日、午後3時10分頃。
東京都豊島区北千川五丁目の区道で、東條は力尽き命を落とす。
彼の行動は、翌日の新聞の片隅に『親子を救った英雄』として讃えられた。
しかし既に亡き東條は、それを知る由も無かった…。
更に最終回の新世界においては、自転車に乗りながらガス欠になった真司のスクーターにぶつかって直ぐに謝罪し立ち去る様子が見られた(尚「あ、ごめんね。大丈夫だよね?」と軽く言ってさっさといなくなった為、まるで悪いと思っていない模様。前の世界線と比べればまだ理解出来る軽薄さだが)。
劇場版
DC版でのみ冒頭で既に脱落していることが示唆されている。
TV版では存命だったオーディンも脱落している為、そのオーディンの後に登場したタイガ(東條)はTV版とは違う末路を迎えたと思われるが詳細は不明。
香川と仲村も、そもそもこの世界では存在したのか定かではない。
TVSP
インペラーと共にTV本編に先駆け終盤にて変身後のみ登場。
ライダーバトルの障害となる龍騎達を排除する為に仮面ライダーベルデ達と徒党を組んでいたことがうかがえる。
まだキャラ設定が定まっていなかったのか本編では絶対に言わなさそうな「来いよ…!」という挑発が印象的。
クレジット上では『???』となっているが、演者はテレビシリーズと同じ高槻氏と思われる。
PS版
こちらもテレビシリーズに先駆けての登場となる。
CVは共にテレビ版と同じくオリジナルキャストであるが、上記とはまた異なり、『ミラーワールドは僕が閉じる』、『勇気さえあれば、誰でも英雄になれる!』などの本編に準じたセリフが聞けるのだが、本編と比べてやけに快活でヒロイックな雰囲気で喋るのが特徴。反面戦闘前には「お前か!」と喜んでいる様子でデストバイザーを相手に向けるなどやや好戦的であり、いずれもテレビシリーズの彼とは異なる雰囲気を醸し出している。ちなみに、カードギャラリーモードではTVSPの「来いよ…!」のセリフも聞ける。
これは、企画段階では真司のライバルキャラの予定だったことが関係していると思われ、タイガの正統派デザイン、演者が元ウルトラマンだった事を考えると逆にこっちの方がしっくり来ないでもない。まぁ、一度公式企画で正義側に回って違和感振り撒いていた同期がいるから尚更である。また、PS版はTVSP放送から2ヶ月後に発売されており、おおまかなセリフは本編を思われるものだったことを踏まえると、この頃には着々と本編における東條のキャラが出来上がってきていたとも考えられる(下記の余談も参照)。
HERO SAGA版
HERO_SAGAより連載されていた「IFの世界」という小説では英雄になる為にナイトとリュウガの戦いに割って入り、リュウガと戦闘を繰り広げる。
互角の戦いを演じたが、リュウガがサバイブ化してからは瞬殺された模様。
また、後に東條の敵討ちに来た香川一味の仲村創の台詞からしてこの世界では珍しく東條と仲村は仲が良かった様子。
余談
本編での初登場回のサブタイは『タイガ登場』だが、奇しくも『タイガ東條』と読めたりする。第35話では誰がタイガに変身していたかまでは伏せられていたのでサブタイがある種の回答にもなっている(意図したものかまでは不明だが)。
インタビューによれば、オーディションを受けた当時悪役側に興味があった為か、子供っぽい喋り方を意識していた事も相まって、ダークサイドに引っ張られた現在の東條のキャラに繋がっていったという。
役作りにあたり、監督(誰かは明言されていないが、恐らく石田秀範氏)からは「凄く素朴で純粋な感じの青年で、人が良いからこそ騙される、洗脳されていくタイプ」(原文ママ)だと聞かされたという。高槻氏本人としては東條にも信念があり、「英雄」という言葉に突き動かされていると評した。
尚、役作りに迷っている矢先にプレイステーション版の収録があったらしく、メディアによってキャラクター性が違うのはこの為だと思われる。
(出典:『東映ヒーローMAX 2002 Vol.2』(辰巳出版・2002年12月10日)P14より))
また高槻氏は東條はサイコパスでも愛を受けなかったわけでもなく、むしろ純粋で当たり前に愛を受けて育った青年であると考えているとのこと。
曰く、「悟というのは地方から出てきた純粋な人間で、だからこそ宗教とかそういうものにはまってしまうと、自分がこうと思ったらそれがいちばんで、他の考えを受け付けない。彼は、正しいと思った香川教授の言葉を盲信してしまったんでしょうね。悟は愛に飢えている人間だとよく言われるんですが、僕は逆に、愛を当たり前のように与えられているから、それこそ愛一杯で育つ子供が持つ無邪気な残酷さをそのまま持っていたんじゃないかな、と考えています。」
(出典:『ファンタスティックコレクション 仮面ライダー龍騎』(朝日ソノラマ・2003年6月34日)
現実にもマルチ商法や新興宗教にハマってしまう若者が多くいることを考えると、東條のような狂気に走る人間は現実離れしたサイコパスではなく、むしろとても身近な存在なのかもしれない。
初心者諸氏は『仮面ライダー』になった時点で「英雄願望は叶っているのでは?」と思われるかもしれないが、この世界の『仮面ライダー』はヒーロー等ではなく、在り方次第で『ヒーロー』にも『エゴイスト』にもなり得てしまう存在なのでタイガになれたからといって『英雄』になれた訳ではない(東條は後者である)。
また、彼の最期は北岡の英雄論を準えると同時に彼の恩師であり彼が引導を渡した香川の「多数を助ける為に少数を犠牲にする」という英雄論も準えているものだった。
先述した様に変身前の状態で人助けをした事で晴れて『英雄』になったのにも拘らず、当の東條はどうやって英雄になるのかも最後まで理解出来ないまま死んで逝くのは余りにも皮肉が効いた末路だと言える。おまけに退場回のサブタイトルは『タイガは英雄』となっている。
尚、彼を演じた高槻純氏はウルトラマンネオスにて、ネオスに変身する主人公カグラ・ゲンキを演じている。
仮面ライダー龍騎放送以前に、彼は既に英雄だった訳である。
関連タグ
戸塚:RIDER_TIME_龍騎でのタイガの変身者。