概要
260馬力のレシプロエンジン、または420馬力のターボプロップエンジンを2発搭載(タービン・アイランダー)する小型汎用機。
旅客用として用いる場合、乗員を含めて最大10人まで乗せることが可能である。
この場合、乗員を1名とすることで副操縦士席にも乗客を乗せることがある。もちろんこの席は「特等席」であり、飛行機好きにはもちろんのことそれ以外でも絶景が味わえるということで人気の席である。
「汎用輸送機」を突き詰めた結果、
- 機内に通路はなく、ドアを開けて直接乗り込む
- ドアは自動車のように外開き式になっている
というように、飛行機というより車のようなスタイルになっている。
また、機体の価格を抑えるために車輪は引き込み機構のない固定式とし(低速で飛行する機体のためそれほど問題にならない)、エンジンの補機には汎用品を用いるなどのコスト削減も行われている。
ちなみにタイヤは前輪と主脚のもので同一品を採用しているが、これは機体のコスト削減だけではなくメンテナンス性の向上(同一のタイヤを使うために前輪と主脚で分ける必要がない)までも実現している。
さらに主脚の間隔は広く、着陸脚の配置は幅広の二等辺三角形に見える程になっている。このため横風時の踏ん張りにめっぽう強い。
また、軽量・細身の機体に大型の補助翼や尾翼を搭載しており、強力なSTOL性能や気象条件の厳しい中での安定した運航を実現している。
…一見すると無骨で変な機体だが、その実態は実用性を限界まで突き詰めた存在である。あるいは英国面がよい方向に作用した珍しい例といえるかもしれない。
日本では
日本では、かつて長崎航空(現在のオリエンタルエアブリッジ、ANA系列)新中央航空や琉球エアコミューター(JAL系列)が近距離路線向けに使用していた。(新中央航空の機体はドルニエ228に、RACの機体はDHC-8シリーズや小型ジェット機に置き換えられている)
新潟空港と佐渡空港を結ぶ路線で旭神航空が運行の後、新日本航空が使用していたが、同社は実質的に休止状態にある。
昭和後期以降、離島の空港でも滑走路の延長が行われ、1km未満の極短滑走路の空港においても、概ね1200~1500mの滑走路長が与えられた。これにより空港のジェット化が推進され、それが行えない空港でもDHC-8などより大型のプロペラ機が飛来可能になったのである。
しかし需要の少ない沖縄県の粟国・慶良間・波照間、長崎県の小値賀・上五島、新潟県の佐渡、北海道の礼文の各空港は滑走路長800mに据え置かれた。このうち大半の空港は高速船との競合に敗れ定期航路が消滅(波照間は2015年以降復活予定)したが、粟国のみは高速船が就航せずそれなりの需要があったため、アイランダー最後の聖地として就航が続いていた。
その粟国線をRACから引き継いだ(通年チャーター運航という形態だが)第一航空において、2015年春まで同機は国内定期航路(実質)にて就航していた。
しかし、かつて日本に就航したが生産終了し国内でも撤退となったものの製造会社を変えて再来日することとなったDHC-6ツインオッターを同社が導入したことで、ついにアイランダーは日本の空から消えることになったのである。最初の機体が長崎航空で飛んでから実に40年近く日本の空に小さく君臨していた。
トライランダー
毎回ちょっとずれたものを作るイギリスも、なかなかやるもんだ…と思ったら後日談があった。
アイランダーの輸送能力を強化するために、「トライランダー」という機体が開発されていたのである。
この機体はアイランダーのエンジンを3発化した機体であり、旅客機として使用した場合の定員は乗員乗客合わせて18名に増えている。
…ところで、こいつはさっき書いたとおり3発機である。
第三エンジンはどこに積んでいるのか、だって?
尾翼だよ。
DC-10などのように、第三エンジンを尾翼に取り付けるという奇っ怪なスタイルになっている。
このエンジンを確認するためにバックミラーも増設したとか。
ただしこの配置には意味がないわけではない。
元々“双発では出力が不安、でも4発にするには小さすぎる”というDC-10やトライスターの設計時にとられたこの方法は、STOL性が高い(つまり滑走路が短くて済む)という特徴がある。
またレシプロ3発機そのものは主に戦間期~第二次世界大戦前半期の軍用機にちらほら見られた。有名所としてユンカースJu52、サボイア・マルケッティSM.79が挙げられる。
これらの機種では、3発目のエンジンは機首に搭載されており、単発機と同じエンジン配置なのでこの方が自然……かと思いきや、太い胴体のためにあまり推力に貢献せず、返って乱流を起こして操縦性能を低下させるデメリットの方が大きかった。
なので、(機首にエンジンの取付ようがない)ジェット3発機で採用されたレイアウトを応用し、こうなったのはある意味自然と言える。
…………なんだけど、フツー、ここにエンジンを配置するとしたら、水平尾翼の構造材の負担を少なくするため、エンジンを逆回転にするかギアで逆転させるかしてエンジンに対してプロペラが後方に来る推進式配置にする方が無理がないなのだが、トライランダーは尾翼のエンジンも前向きな為、不自然さが増すことになっている。
発想的に英国面に挙げられがちだが、どちらかというとイギリスの航空エンジンの開発・生産能力がほぼ壊滅に近く、実際本機のエンジンもアメリカのライカミング製のエンジンである。この様な事情から、最終的にトライランダーの形態になったと思われる。
同じ要求をセスナが受けていれば、アメリカの力技で完全なプッシャー配置になっていただろう。