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概要

元素記号はAt。ハロゲン元素の1種である。ドミトリ・メンデレーエフが最初に周期表を発表した際、未発見のハロゲン元素としてヨウ素の下に置かれ、エカヨウ素と仮称された。1940年に加速器を用いて初めて合成され、名前はギリシャ語の「不安定」を意味する "αστατος" (アクタトス) から命名された。

不安定性

アスタチンはその名が意味する通り、全ての同位体が放射性であり、かつ半減期がどれも短い不安定な元素である。最も半減期の長い同位体はアスタチン210の8.1時間であり、1時間以上の半減期を持つ同位体はこれを含め5種類しか存在しない。アスタチンより短い半減期の同位体しか存在しない元素はフランシウムノーベリウム以降 (一部を除く) に限られる。
アスタチンは、未だに目に見える量が合成された事のない最も軽い元素である。目に見える大きさが合成された事がない元素はアスタチンを除くとフェルミウム以降に限られるが、アスタチンはそれらより16年以上昔に発見されている。アスタチンは半減期の長い同位体を合成するにはエネルギーを絞らないといけない制約があり、これは核融合反応の確率を下げてしまう。それ故にアスタチンはなかなか大量合成に至らない。一度に合成できるアスタチンの量はせいぜい90ng程度である。

天然での存在

アスタチンの一部の同位体は、天然に存在するウラン及びトリウムの同位体の崩壊で生成する為、一応天然に存在する元素として数えられる。しかしながらアスタチンに至る崩壊系列は確率の低い分岐を辿らないといけない上に、アスタチン自体の半減期が短いため、その量は極めて微量であり、実質的にゼロとみなされる。半減期1.5秒のアスタチン218と、半減期56秒のアスタチン219が天然で発見されている。アスタチン215とアスタチン217も理論上は崩壊系列にある為存在するが、前者は半減期が100ナノ秒と極めて短く、後者はそもそも最初のネプツニウム237が極めて微量にしか存在しないため、いまだに発見されていない。
アスタチンの存在量は、恐らく天然に存在する元素の中で最も少ないと推定される。地表から16kmに存在するアスタチンの全量は4ng程度と推定され、これは次に少ないとされるフランシウムの30gと比較してもとてつもない微量である。

歴史

ドミトリ・メンデレーエフが元素の周期表を発表した際、ヨウ素の下には空白が置かれていた。ニールス・ボーアによって原子物理学が発展すると、ヨウ素の下には5番目のハロゲン元素が実際に存在する可能性が高い事が示され、ヨウ素の1つ下を意味する「エカヨウ素」と仮称された。

エカヨウ素の探索は、その極端な希少性からいくつかの誤った発見報告を辿っている。
最初にエカヨウ素の発見が主張されたのは1931年で、フレッド・アリソンらが発見を主張し、アリソンが所属する大学の所在地であるアメリカ合衆国のアラバマ州に因んで「アラバミン (Alabamin・Ab)」と名付けた。この発見の主張は1934年に反証され撤回された。
1937年には現在のバングラデシュのダッカで、ラジェンドララル・デによってトリウム系列のポロニウム210崩壊物として発見を主張し、ダッカに因んで「ダキン (Dakin)」と名付けた。しかしながら、ダキンはハロゲンの性質を示しておらず、またトリウム崩壊物ではアスタチンは出現しない為、これは撤回された。現在でもダキンが実際には何であったかは判明していない。
1936年には、ルーマニアのホリア・フルベイによって85番元素のX線スペクトルを観測したと主張し、1939年に正式に論文にまとめて発表した。1944年には、新元素の名前をルーマニア語の「憧れ」を意味する "dor" (接尾辞を付ければ「ドリン (Dorine)」となる。) を名前の候補にしていたと残されており、これは第二次世界大戦が始まった事から、平和に対する憧れという意味だろうと推測されている。しかしながら、この発見は最終的には認められなかった。X線スペクトルはあまりに微弱して決め手にかけており、またフルベイは87番元素 (現在のフランシウム) でも誤った報告をしていた為、恐らくは他の研究者に発見を軽視されたのが理由である。
1940年、スイスのウォルター・マインダーはポロニウム218の崩壊物から85番元素の発表を主張し、スイスのラテン語表記に因み「ヘルヴェティウム (Helvetium)」と名付けたが、実験の際現には成功しなかった。マインダーは1942年にもイギリスのアリス・リー・スミスと共同で今度はポロニウム216の崩壊物から「アングロ・ヘルヴェティウム (Anglo-Helvetium)」を発見したと主張したが、やはりこれも再現ができなかった。

結局真にエカヨウ素を発見したのは、デール・R・コーソン、ケネス・ロス・マッケンジー、エミリオ・セグレの3人であった。3人は自然界からエカヨウ素を発見する代わりに、ビスマスにα線を照射して人工的に85番元素を生み出したのである。しかしながら、この発見はすぐには認められなかった。当時は目に見えない量しか単離できない物質を元素の発見と見なす事、崩壊系列で発見とみなす事には抵抗があったのである。1943年に崩壊系列にアスタチンが出現する事を証明した事で、この発見は正式に認められる事となった。3人が命名したアスタチンという名は、ハロゲン元素のそれまでの接尾辞を継承する命名となった。

性質

アスタチンは大量の合成ができていない事や、合成時に不純物が混ざる事、アスタチンの崩壊エネルギーが大きく化学結合が破壊される事から、性質はほぼ限定的にしかわかっていない。これほど軽い元素で不明な点が多い元素も珍しい。性質の探求は半減期が7.8時間と2番目に安定なアスタチン211 (中性子数126の魔法核であるのがその理由) を対象に調べているが、皮肉にもその安定性の裏返しで崩壊エネルギーが大きい事が性質探究を阻んでいる。

融点は302℃、沸点は337℃と推定されており、単体アスタチンは常温常圧で恐らく固体である。しかしながら仮に大量に合成できたとしても、その崩壊熱は自らを気化させる程大きい為、外観は推定するしかない。これまでのハロゲンの性質からすれば、恐らく単体アスタチンは黒色の固体である。ハロゲンに共通の二原子分子での結晶を取るかは論争があり、単原子が面心立方構造を構成するという予測もある。アスタチンが非金属・半金属・金属のいずれかであるかも不明であり、通常は非金属か半金属とみなされているが、単原子による理論計算では金属という予測が立てられている。

化学的な性質もほとんど判明していないが、限定的に判明している限りでは凡そ他のハロゲンと似た性質を取る。ただしヨウ化水素と銀の反応は直ちにヨウ化銀の沈殿を生ずるのに対し、アスタチン化水素と銀の反応ではアスタチン化銀が限定的にしか生じないなど、法則から外れた性質も示されている。

用途

アスタチン211は限定的ながらビスマス209にα線を照射して合成できる事、崩壊エネルギーが大きい事から、アスタチンは医学的用途が検討されている。アスタチンはヨウ素と性質が似ており、ヨウ素よりも限定的であるが甲状腺に集中しやすい。またアスタチンは既に医学的に使用されているヨウ素131と異なり、高エネルギーのβ線を放出しない為、正常組織に余計なダメージを与えずにがん細胞にダメージを与える高い選択性が可能となっている事から注目されている。
しかしながら、アスタチンは合成と分離に手間がかかり、半減期も短い事、何より化合物を構成しても崩壊エネルギーが化合物を破壊してしまう事から、現段階では動物実験すら限定的な状態である。

関連項目

元素

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