概要
学名はSomniosus pacificus。
オデンザメではなくオンデンザメ(隠田鮫)。
ちなみに英名では「Pacific sleeper shark」、太平洋の眠りザメという(ネムリブカというサメもいるが特に関係はない)。
生態
ツノザメ目は小型なものが多く、大半は数十cm~1m程度、大柄なヨロイザメなどでも1.5mを越えるくらい。そんな中でコイツの大きさは少なくとも4m以上という恵体であり、同属のニシオンデンザメやミナミオンデンザメと並びツノザメ目では最大種の一角、リュウグウノツカイやカグラザメ、コギクザメと並び立つ、深海に現れる種では最大級。
ただしリュウグウノツカイはリボンのように細長く薄い形態なのに対し、ずんぐりむっくりで数百kg以上に成長するオンデンザメの体格は圧倒的ボリュームである。
大型種の宿命か、かつてはあのメガロドンの生き残りではないかと騒がれたこともあったようだが、残念ながらまったくの無関係であろうと見られている。
そもそもコイツはツノザメ目オンデンザメ科、メガロドンはネズミザメ目オトドゥス科で根本から違うため、分類はむしろホホジロザメ(ネズミザメ目ネズミザメ科)に近いからだ。
共通するのは大型種ということだけ。
温帯域では深海に生息するが、鉛直移動をすることが分かっており、夜間は200mよりも浅い海域に現れるとされる。また、冷帯域では海面付近まで移動する。
筋肉は水分70%、脂質10%と、脂質は近縁のユメザメ等と比べても多い。
加えて、大量の脂質を蓄え浮力を得る巨大な肝臓や、ヒレも小さくて早く泳ぐには向かないことから高速遊泳はまずできないといわれており、JAMSTECの研究でも時速3km程度で移動していることが報告された。これは同属のニシオンデンザメと並び世界で最も泳ぎの遅い魚とされている。
なお深海性の魚類には三脚魚ことナガヅエエソとかシンカイエソのような底生魚も多く、必ずしも高速遊泳する必要はない。というか早く泳げたところでエネルギーが無駄になる方が多いのだ。
本種は容積の大きい口腔、狭い口幅から硬骨魚類やスルメイカ類、ミズダコなどを吸引するように食べるとされる。
また解剖調査ではアザラシやオットセイなどの肉片が確認されているが、動きの鈍さからおよそ自力で捕食できそうにはないので、これらに関しては腐肉を食べている可能性が指摘されている。ちなみに近縁のニシオンデンザメは1859年に「胃袋から人の足が見つかった」と報告されているものの、こちらも水死体を食べたからだと推測されている。
サメの仲間でも有数の巨体は「まさか人食いザメなのか?」という印象を抱かせるところだが、とりあえずは安全なようだ。
成魚まで成長すれば4mを越え、深海域での生態系の頂点に立つため、漁業によって本種を混獲することがある人以外に基本的に天敵は存在しない。
ただし成熟前の段階ではカグラザメやコギクザメといった他の大型板鰓類との生存競争が存在するのでそういう意味で敵はいる。
まあ厳しい自然界で生きる以上、いかに生態系のトップであろうと「生まれながらに敵なしの存在」というやつはまずいないのだが……。
実は盲目
オンデンザメの目には大型のカイアシ類が寄生しており、その影響で視力は失われている事が多い。しかし嗅覚が非常に発達しており、数キロ先でも感知できるほどの高性能。
そもそも深海暮らしでは視力に頼る必要もないのでまったく問題ないらしい。
人との関わり
駿河湾での深海延縄漁で混獲されるものは肝臓が利用されている。オンデンザメの水揚げがある焼津市では漁港の食堂で本種の筋肉を用いた「オンデンザメ定食」を発売し好評を博したこともあるそうだが、積極的に利用されてはいない。
その他、北海道の定置網で混獲されることも有る。
漁獲もまれで、大型個体も多いことから水族館への搬入は難しく、国外ではモントレーベイ水族館とアラスカ水族館、国内ではおたる水族館、魚津水族館、仙台うみの杜水族館、沼津港深海水族館が搬入に成功しているが長期飼育には至っていない。
飼育記録は1999年におたる水族館の展示水槽と北海道大学の研究施設で記録された3週間が最大。
アラスカ水族館ではオンデンザメの身体機能や生態について継続的な調査を行っている。