ゴッドハンド株式会社
ごっどはんどかぶしきがいしゃ
発売以来、プラモデル愛好家たちの間で感動を呼んで来た高性能ニッパー、その名も『アルティメットニッパー』を製造販売する企業が新潟県のほぼ中央に位置する燕市に本社を置く『ゴッドハンド株式会社』である。
ニッパーだけではなく、様々な模型製作に必要な工具をユーザーの意見を取り入れながら日夜研究を重ね開発している。
ゴッドハンド株式会社は、1964年創業の工具メーカー『株式会社ツノダ』の子会社として2010年に燕市を本拠地として創業した。
創業当初は親会社である『株式会社ツノダ』の本社工場の敷地内に社屋があったが、現在は同じ燕市にある物流センターへと移転している。
親会社の『株式会社ツノダ』は、燕市吉田下中野に本社工場を置き、新潟県県央地域(所謂「燕三条地区」)を拠点に作業工具のペンチやニッパー、ケーブルカッター等を主力商品として全国向けに製造販売する老舗の工具メーカーである。
かつてツノダは燕市と隣接する三条市にも工場があったが、2023年5月に三条工場は撤廃、燕市内にある同社の複合施設『刃物技術研究所』へと移転している。
上記の理由から、頻繁に親会社のツノダを含めてゴッドハンド株式会社は「新潟県三条市にある企業」だと世間から誤解されてしまっている。
ゴッドハンド株式会社の設立当初の目的は、ネットショップで親会社である株式会社ツノダの製品をはじめとした工具を販売することであった。
ゴッドハンド株式会社の創業者で代表取締役の角田稔氏は2018年の『三条ものづくり学校』のインタビューでこう答えている。
「ゴッドハンドとは、職人の技術力を指しているものではありません。ウチの製品を使ったお客様が、『まるで神の手を持ったかのように』作業がはかどるものを作っていきたい。そんな想いでこの社名を考えました。」
新潟県の国道116号を走行していると燕市の広大な田園風景が広がる長閑な場所に突如現れる工業団地内の一角にある、そんな一企業の子会社として始まった小規模なメーカーが、取り敢えず最初に取り組んだ事が「とにかくニッパーの切れ味に拘って、刃を極限まで研ぎあげてみる」事であった。
そこから始まった『プラモデル専用の超精密な薄刃ニッパー』というコアな市場への参入により、ゴッドハンド株式会社の製品はその極限まで拘った性能からユーザー間でいつしか評判を呼び、あれよあれよと云う間に日本全国から多くのファンを獲得したのだ。
その起爆剤となったのが、「インフルエンサー」である「アルティメットニッパーのマスコットキャラクター」として生まれた『ニパ子』の存在である。
ゴッドハンド株式会社の工場に勤務する熟練した職人たちの確かな技術力、そして同社に勤務する広報担当社員の手により産み出された『ニパ子』という名の「架空のキャラクターというインフルエンサー」を使ったPR戦略の2つが噛み合ったからこそアルティメットニッパーの大ヒットが確立できたと言っても過言ではない。
その後も『ニパ子』は人気キャラクターとなり、やがて『project NIPAKO』と銘打って単独のキャラクターとしてのコンテンツ展開を開始し、フィギュア化やグッズの販売も行われた。
ところが、ゴッドハンド株式会社は2020年8月31日をもって『project NIPAKO』の全活動を終了させてしまった。
終了発表は、ニパ子がメインで活動していたTwitter上にて、ラスト10日前の2020年8月21日に行われ、突然の出来事に多くのファンや関係者らを戸惑わせた。
終了するその日は、日付が変わる午前0時へ向け、ニパ子の公式Twitterアカウントでは様々な事が起きていた。
まずは「さよなら」を意味する専用ハッシュタグ「#達者でなニパ子」がTwitterトレンド入りした。
朝の時点で7万ほどだったフォロワー数が怒濤の伸びをみせ、日付が変わる0時までに+3万人も増加し、やがて10万フォロワーを突破。
まさに「有終の美」という言葉どおりの終わりかたを迎えるのだと誰もが思っていた。
ところが、ニパ子の最後の挨拶とともに午前0時を迎えた途端に、アカウントが突然消滅したのだ。
もともとの発表でも、「アカウントは残して、今後はゴッドハンド株式会社の公式アカウントに移行」と伝えられていたため、終了発表が急だったということも影響し、見送ったファンたちの間では様々な憶測が流れた。
例えば、ニパ子の担当者から関係各社が聞いていた話として流れたのが「アカウント移行の際に年齢設定をミスって凍結された」というものである。
しかしこれは、公式発表ではなかったため「コンテンツ終了に絡んで何か(ゴッドハンド社内での揉め事)が起きたんじゃないか?」「凍結じゃなくてアカウントを削除したのでは?」という不安や臆測、さらには「ニパ子の担当者がゴッドハンドを退職した」という噂話まで拡散してしまい、最早Twitter上では噂が噂を呼ぶ「炎上騒ぎ」にまで発展していた。
そうして騒動から三日後、アカウントは『ニパ子』改め『ゴッドハンド公式』として復活した。
その際に、過去のニパ子のツイートは全て削除されており、更には10万人のフォロワーは残したままの状態であったが、逆に『ニパ子』のアカウント側からのフォローは数万人分のアカウントが全て外されていたのだった。
ちなみに「過去ツイートの全削除」については、『project NIPAKO』の終了とともに削除する旨が事前に伝えられてはいたのだが、Twitter上のみでの告知だったため、ツイートを削除したことで確認が全く取れない事態に陥り、一部始終を見ていた者達には誤解を与える結果になってしまった。
これによって『project NIPAKO』の終了直後は、完全に「炎上状態」にまで突入したのである。
そしてさらに数日後の2020年9月11日、今度は『ゴッドハンド公式』のアカウントより、「『究極!ニパ子ちゃん』に関する弊社方針のお知らせ」というものが発表された。
それによれば、ニパ子のキャラクターとしての商品展開やTwitterでの運用の終了などは既に決定した事項から全く方針が変わらないものの、「アルティメットニッパー、及びゴッドハンドが販売するプラモデル用工具のPRキャラクターとしては引き続き商品パッケージやオフィシャルサイトなどで使用される」との内容が告知された。
これにより、ニパ子の最後を見送った多くのファン達からは「おい!もう終わりじゃなかったのかよ!」といった具合で怒りとも呆れともつかない様な苛立ちの声が沸き上がり、結局は再炎上したのだった。
その後、ニパ子の産みの親であり、ニパ子の商品展開やメディアでの活動といったコンテンツの全てを管理していた担当社員が、ゴッドハンド株式会社を上記の『project NIPAKO』終了発表よりも少し前に既に退職していた事がマスコミの取材により判明した。
要するに、「利害の不一致により内輪揉めで管理担当者が居なくなってしまい、キャラクターとしての版権を会社が管理出来なくなってしまった」という、なんとも御粗末な結末であった。