概要
本来の用途は塗料や接着剤を適切な粘り気に薄めるために使用する有機溶剤(paint-thinner)。
しかし、薄め液としての成分(主に芳香族化合物)を故意に吸引すると違法薬物のような依存性を持つ一時的な快楽感と、体がこれらを体外へと出せる形にする際に生ずる生成物やその副生成物による脳細胞の死滅がおこり、やがて脳を侵されたことによる精神障害や身体障害を生じ廃人となったり死に至る。
そのため吸引や吸引目的での流通を防ぐことと、本来の用途である溶剤としての使用時の事故や労働災害防止のため、劇物に指定されており流通や使用に制限が設けられている。また用途上ガソリンの様に気化しやすく容易く引火し事故につながるため為、危険物としても指定されている。
他の違法薬物と異なり、産業や一般生活用品にも必要な物質であるため流通に制限を設け、更に業務では管理者を配置し労働災害や労働事故防止を義務付けている。
人体内での挙動
軽症の場合、頭痛や吐き気、嘔吐といった症状が表れる。プラモデルの組み立て・塗装や油性ペンの使用、爪にマニキュアを塗る、接着剤で何か接着するといった際に説明書に「換気をよくしろ」と注意書きがあるのはこれを予防するため。また、「故意に吸引するな」とあるのは後述する依存症状や重篤な中毒症状を防ぐため。
故意に吸引するなど高濃度になるとシンナーが親油性であるため脳へ有害物が行かないようにする壁である血液脳関門を通り抜けてしまい、脳に入り麻酔作用によって酩酊のような状態になる。また水に非常に溶けづらいため汗や尿としてそのまま排出することができない。そのため代謝を行い排出できる形に変化させる。その際に生成される代謝生成物や副生成物が細胞に対し毒性を持つため長期にわたり吸引を続けていると脳細胞が死滅して萎縮する。そのため毒性による症状が強く現れだして妄想や意識障害、幻覚といった精神症状に加え、筋肉の劣化、骨や歯の脆化といった身体への症状も現れる。そして最後には突然の意識消失や死亡にいたる。
かつては規制も甘かったこともあり安価で手に入ったため、ヤンキー・暴走族といった不良が薬物としてよく吸っていた(隠語に「アンパン」などと呼ばれた)ため社会問題となり、規制強化の一因となった。中にはシンナー遊びを経由して覚醒剤などの違法薬物に溺れていった者も少なくなく、上記のように廃人状態となった者、失明などの一生残る障害を負った者もいる。
法による規則
産業の必需品でありながら依存性を持つ有毒物であるため、故意に吸引したり、故意に吸引することを知りながら販売したり譲渡した場合、刑事罰の対象となる。
また、産業の場では事故や労災防止のために労働安全衛生法により取り扱い主任者の配置や、労働者の定期健診、事故対策など管理を義務付けている。