概要
ダフニスとクロエ(Daphnis et Chloé)とは、フランスの作曲家モーリス・ラヴェルの作曲によるバレエ音楽、およびそれを基にした管弦楽のための組曲である。
古代ギリシャの詩人ロンゴスの作と伝えられる恋愛物語《ダフニスとクロエ》を基にした全3部から成る作品で、ロシア・バレエ団のセルゲイ・ディアギレフからの依頼を受けて作曲している。
ただ、作曲した当初はラヴェルとロシア・バレエ団との間で意見の食い違いを生じており、ラヴェルはこの作品を「古代趣味よりも私の夢想するギリシャに従うことを主眼とする音楽による広大なフレスコ画であり、18世紀のフランスの画家たちが想像し、描いたものに近い」(『自伝的素描』より)とするのに対し、ロシア・バレエ団は「赤と黒を基調に、機知に富むアテネの古代舞踊のイメージを復元し、ダイナミックに表現するもの」と求めていた。
両者は時間をかけて議論と修正を重ね、依頼を受けてから3年後の1912年に作品は完成を見た。
曲の構成
第1部
- 序奏~宗教的な踊り
- 全員の踊り
- ドルコンのグロテスクな踊り
- ダフニスの優しく軽やかな踊り
- リュセイニョンの踊り
- 夜想曲
物語は、古代ギリシアの神聖な森のはずれにある牧場、晴れた日の午後の情景から始まる。
序奏に続いて現れたダフニスとクロエが、ニンフの洞窟の前にあるパン(羊牧神)の神の岩の近くで、羊飼いの若者や娘たちと共に踊りを踊る(全員の踊り)。
牛飼いドルコンの〈グロテスクな踊り〉に〈優しく軽やかな踊り〉で勝ったダフニスはクロエの口づけを得るが、そこに突如として海賊ブルアクシスが現れ、クロエをさらっていく。
命を得て動くことが出来るようになったダフニスは、ニンフと共にパンの神に救いを求めて祈る。
第2部
- 間奏曲
- 戦いの踊り
- クロエの哀願の踊り
夜の海岸の岩場の陰で、海賊たちの祝宴が開かれる。
酒を呑み、ご馳走を平らげ、歌い踊って大騒ぎする海賊たちの〈戦いの踊り〉の最中、クロエは隙を見て逃げ出そうとするが失敗に終わる。
海賊たちの首領であるブルアクシスはクロエを気に入って口説こうとするが、クロエは哀願して拒もうとする(クロエの哀願の踊り)。
それが失敗しそうになる矢先、山の上からパンの神が突然姿を現し、天変地異を引き起こして海賊たちを脅す。
肝を潰した海賊たちは命からがら逃げだしていき、後に残されたクロエの頭上には、パンの神の救いの印である光り輝く花冠が載せられる。
第3部
- 夜明け
- 無言劇
- 全員の踊り
川のせせらぎ、鳥のさえずりと共に次第に明るんでいく情景の中、ダフニスとクロエは再会する(夜明け)。
再会に感激する2人に、老羊飼いラモンは「パンの神がかつての自身の愛の思い出ゆえにクロエを救い出した」と語り、それを聞いた2人はその愛の物語を演ずる(無言劇)。
その無言劇はやがて賑やかな〈全員の踊り〉へと発展し、熱狂的な歓喜を伴いながらクライマックスを迎える。
組曲への編曲
作曲者のラヴェルは完成したバレエ音楽から一部分を抜粋し、管弦楽用に「第1組曲」「第2組曲」としてまとめ上げた。
「第1組曲」は、第1部の「夜想曲」から第2部の「戦いの踊り」までを繋いでまとめたもので、「第2組曲」は第3部の「夜明け」「無言劇」「全員の踊り」をほぼそのままの形で仕上げたものとなっている。
この内の「第2組曲」は、ラヴェルの管弦楽作品の中でもとりわけ優れた作品のひとつとして、「ボレロ」、「ラ・ヴァルス」らと共にコンサートに欠かせない重要なレパートリーとなっている。
またオーケストラでの演奏以外に、吹奏楽の世界においても編曲版が数多く取り上げられており、その緻密で魅惑的な曲構成や高度な技巧を要する難度の高さから、管弦楽作品のアレンジでありながら吹奏楽オリジナル作品にも勝らぬとも劣らない人気を博している。
吹奏楽コンクールの自由曲ランキングにおいても常に上位を占める「第2組曲」は、その知名度の高さから「ダフクロ」なる略称まで付けられている。
関連イラスト
関連動画
第1組曲
ハーグ・レジデンティ管弦楽団(Het Residentie Orkest)
第2組曲(管弦楽版)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(Berliner Philharmoniker)
フランス放送フィルハーモニー管弦楽団(Orchestre Philharmonique de Radio France)
ボストン交響楽団(The Boston Symphony Orchestra)
第2組曲(吹奏楽編曲版)
尚美アドバンスド・ウインドオーケストラ(SHOBI Advanced Wind Orchestra)
関連タグ
涼宮ハルヒの憂鬱 - 第27話「射手座の日」にて、第2組曲の「夜明け」がBGMとして挿入されている。
響け!ユーフォニアム - 原作小説の第2巻「響け!ユーフォニアム2 北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏」に第2組曲の吹奏楽編曲版が登場。
主要登場人物の鎧塚みぞれ、傘木希美の中学3年生の時の吹奏楽コンクール自由曲として、
および吹奏楽コンクール関西大会における「三強」の一角、秀塔大学附属高校吹奏楽部のコンクール自由曲として演奏される。
ダフニスとクロエ(ムジカート) - 「taktop.」の登場人物。ダフニスとクロエを宿しているムジカート。
外部リンク
参考文献
- 秋山紀夫「吹奏楽曲プログラム・ノート」 株式会社ミュージックエイト 2003年6月18日発行 405ページ
- 増田宏三(解説) ポケットスコア《ダフニスとクロエ》第2組曲 日本楽譜出版社 1999年4月1日発行