概要
カンブリア紀の終わり頃に生息していた謎の多い動物。
バージェス動物群の一つとして、当初発見された標本は上図のような「甲殻類のような前半身」と「魚に似ている後半身」の奇怪な姿だったので、まぁ泳ぐエビのようなものということで、そのラテン語ネクトカリスと命名された。
後に、比較的いい標本の発見その他研究の発達により前半身は「タコとかイカのカラストンビのようなものが残っただけ」であるという事実が発覚。その見た目がイカそっくり(ただし触手は2本だけ)だったことから頭足類に分類し直された。(メイン画像参照)
基本はのちのイカやタコ系と同じ「頭胴部」に腕(2本だけど)と鰭を持ち、絶対あんた「たっこちゅー」とかいうだろみたいな、でかい漏斗とされる器官をもつ。
これの発見により、頭足類さんは、「もともと殻かぶり(アンモナイトとか)だったのがだんだん殻脱いで進化」説から、「元々ヌードだったのが、殻着てみたりまた脱いだり」説になった。
確かに、現存するタコの一種にアオイガイというのがいるのでまああり得なくはない話ではあるが…。
しかしこの説には致命的な問題が複数ある。
- ネクトカリスの系譜の頭足類が他に知られていない(一応ツリモンストゥルムというよく似た生物が石炭紀にいたが、漏斗がなく頭足類とは考えられていない)
- 他の殻が無い軟体動物は退化した殻が体内に残っているが、ネクトカリスにはどこにも見られない(まだ甲があるイカの祖先からさらに分かれた、タコやコウモリダコに近い特徴。ネクトカリスの祖先はどんな生物だったのか…?)
- ほぼ同時期に、より腹足類に近い特徴を持つオウムガイの近縁種がいる。そして腹足類の方がネクトカリスよりも前の時代から生息していた
- 眼の構造が現在のイカタコに近く、同時期の他の軟体動物と明らかに異なる
こうしたことから、ネクトカリスはいわばオーパーツのような生物として扱われている。
果たしてネクトカリスは本当に頭足類だったのか?
ネクトカリスとは一体何者だったのだろうか?
全ての謎が解けるまで、まだかなり時間がかかりそうである。
近年では…
そもそも頭足類という説自体、ただ単に有名な説であるだけであまり支持されていない。なんかイカっぽい姿、はいいのだが謎生物に戻ってしまった。
しかし2022年には、毛顎動物、すなわちヤムシの仲間とする説が提唱された(第6回国際古生物学集会 (IPC6)での発表であり、2024年現在でも論文が未出版のため非正式ではあるが)。カンブリア紀にはアミスクウィアやティモレベスティアなどの毛顎動物が存在していたことがわかっており、彼らとの類似点が指摘されている。
この説では「漏斗」は毛顎動物の顎、「触手」前述2種が頭部にもつ触角のようなものであるとされる。
上から順に「謎の生物」「頭足類」「毛顎動物」としての復元。毛顎動物として復元すると漏斗がなくなるが、全体的なフォルムが大きく変わるわけではないのでご安心を。
↓ティモレベスティア。2024年1月上旬に発見。