曖昧さ回避
- 兆(ちょう):漢字文化圏における数の単位の一つ。兆がいくつを示すかは時代や地域により異なる。本記事で解説。
- 兆(ちょう、きざ-し):物事が起こる前触れ。起こりそうな気配。「兆候」「前兆」。
概要
兆がいくつを示すかは時代や地域により異なる。
前提
漢字文化圏における数の数え方には大きく分けて3~4種類が存在する。登場した時代が古い順に並べると、
- 下数:10倍ごとに位取りの名称を定める数え方(例:万の10倍が億、億の10倍が兆)。この場合、「兆」は10⁶(1 000 000)となる。
- 上数:それまでに登場した位取りの名称を使い果たすごとに新たな位取りの名称を追加していく数え方(例:万の万倍が億、億の億倍が兆、兆の兆倍が京)。この場合、「兆」は10¹⁶(10 000 000 000 000 000)となる。ただし実際には数学書で用いられたのみで実用された事はないとされる。
- 中数:万倍、あるいは万倍の万倍ごとに新たな位取りの名称を追加していく数え方。前者は「万進」、後者は「万万進」と呼ばれる。
- 万進:万の万倍が億、億の万倍が兆となる。この場合、「兆」は10¹²(1 000 000 000 000)となる。
- 万万進:万の万倍が億、億の万倍が万億、万億の万倍が兆となる。この場合、「兆」は上数と同じく10¹⁶(10 000 000 000 000 000)となる。
これを踏まえて述べると、現在「兆」が意味する数は、万進法に則った10¹²と、下数に則った10⁶の2通りである。
万進法の「兆」(1兆=10¹²)が用いられる地域
主に日本と、その影響を受けた韓国、台湾などにおいて用いられる。
日本では江戸時代初期に出版された算術書『塵劫記』において大きな数の表現を万進法に統一した形で記述していた。この『塵劫記』が江戸時代を通じて算術書のベストセラー・ロングセラーとして定着した結果、命数法においても万進法が浸透、統一されたのである。
その後、明治から昭和にかけて日本は台湾や朝鮮半島を領有、当地していたが、これに伴い両地域でも日本と同様に万進法に基づく数え方が定着したのだった。
下数の「兆」(1兆=10⁶)が用いられる地域
主に中国大陸とベトナムにおいて用いられるが、いずれも純粋な下数としての用法ではなく、千進法に下数の単位を当てはめた用法となっている。
中国大陸では日本と異なり近代まで万万進と万進が混用されどちらかに統一されるというような事がなかった。そのためいずれの数え方でも用いる「万」や「億」はともかく、「兆」以上の単位についてはどのような数を表すのか混乱が生じていたのである。そのような中、近代化によって西欧からメートル法の単位を導入するに当たって「メガ(100万)」の語を下数で10⁶を表す「兆」で訳す事となり、より混乱が生じる事となった。
現代の中国大陸ではそのような事情から命数法としては万万進が定着し、10¹²を表す語が「万億(万亿)」、メガ(10⁶)を表す語が「兆」で浸透している。なお前述の通り同じ中国語圏でも台湾では万進法が採用されている関係でメガ(10⁶)を「百万(百萬)」、テラ(10¹²)を「兆」と表現するため、これはこれで混乱のもとになっている。
ベトナムでは中数が定着しなかったのか、下数に基づく数え方が長らく定着していた。後にフランスの植民地になるなど西欧式の千進法がベトナムでも採用される事となったが、この際million(s)(ミリオン、10⁶)の訳語として「triệu(兆)」、milliard(ミリヤール、10⁹)の訳語として「tỷ(秭)」と、下数で相当する単位が当てられている。もっとも秭以上の単位は使われておらず、例えばbillion(ビリオン、10¹²)は「nghìn tỷ(𠦳秭※)」、billiard(ビリヤール、10¹⁵)は「triệu tỷ(兆秭)」のように、一種の「秭進法」のような表現となっている。
※「𠦳」は千を表すベトナム語固有語彙「nghìn」を表現するために作られたチュノム