概要
『暴食の魔女』ダフネによって世界に産み落とされた『魔獣』。
その中でも『白鯨』、『黒蛇』と並び『三大魔獣』と呼ばれ、400年もの長い年月世界を苦しめ、恐れられた魔獣の一翼である。
初登場は第4章『聖域と強欲の魔女』編。
その特徴から、読者からはリゼロに登場するキャラクターを含めたあらゆる存在の中でトップクラスのトラウマを植え付けた存在として語られる。
この魔獣が登場する回は書籍、漫画、アニメを含め、全体的に閲覧注意。
生態
他の魔獣と同様、眉間に一本角が生えている点以外は、一般的な兎から連想される通りの見た目。赤い眼に長い耳、白い体毛に丸みを帯びたフォルムとかわいらしい見た目をしている。
そのサイズも『大兎』という名に反して小さく、スバルの握りこぶし程度と手乗りサイズであり、むしろ普通の兎よりも小さいくらいである。
どう見ても無害な兎にしか見えないが、その食性は草食ではなく完全な肉食性。
小さいながら口には獲物を容易く引き裂くほど鋭い前歯があり、噛まれて仕舞えば指の一本など簡単に食いちぎられてしまうほど危険。
しかし、危険とは言っても普通の兎よりも小さいくらいなので力は弱く、ほぼ一般人のスバルですら蹴っ飛ばすくらいで簡単に倒せてしまう。
このため、単体の実力で言えば『白鯨』の方がよっぽど上である。
『大兎』の真に厄介な所は「常に群れで出現する」点にある。それも10羽とか100羽とかの規模ではない。
100,000羽程の尋常でない数で一気に押し寄せてくるのである。
ひとたび出現すれば景色を埋め尽くさんばかりの群れで襲ってくるため、いくら1羽1羽が弱いと言っても討伐なんて話にならないレベルの事態になる。
完全な肉食性であるため、『大兎』が通った後は生物が悉く食い尽くされ、無人の野が広がるばかりとなる。
オマケに1羽が無限増殖する性質を持っており、討伐の際は1羽でも取り逃してしまうとその1羽から一瞬で元の数まで増殖するという地獄みたいな展開に陥ってしまう。
一般的に『大兎』が現れた際、まずなによりすべき事は全力でその場から逃げることが鉄則とされている。
この特徴から、本来呼ばれていた名は『多兎』。
現在はその名が転じ、『大兎』という名で伝わっている。
(英語圏での名前は"Great Rabbit"。"Great size Rabbit"とも"Great number Rabbit"とも取れるような名称になっている。)
夥しい数の群れとして出現するが、その実態は『大兎』という一体の魔獣。
実は一つの意思によって行動してるだけに過ぎず、複数のうちの1羽が勝手にどこかへ行ったり自由行動することはない。「常に群れで出現する」のはこのため。
また、無限増殖するとはいえ増殖数自体には上限があり、100,000羽程度が限界。
もしそれぞれに意思があり、増殖数に限りがなければ「世界はとっくに滅んでる」と言及されている。
また意思自体はあるものの、その内容は常に強烈な飢餓感に蝕まれており、まともな思考ができている状態ではない。
あらゆる感覚で獲物を感知し、見つけ次第サイズ差も実力差も全く考えず手当たり次第に食い付いているような状態で、獲物が見つからない時は、群れの中で共喰いをしつつ増殖しながら獲物を探し回るという悍ましすぎる生態を持つ。
自身に対する攻撃にはまるで無頓着であり、自分が滅ぼされないために何かするような知能は無いと言っていい。
そのため、絶滅させるとはいかないまでも、ある程度誘導する事自体は可能である。
仮に『大兎』を討伐するとすれば、
マナを頼りに獲物を探す習性があるため、まずは強力な魔法使いなどのマナの扱いに長けた人物を囮に誘導し、一ヶ所に群れが集まった所を一気に叩く、と言う戦法が有効とされる。
尤も、1羽でも溢さないよう一発で地形ごと吹き飛ばせるぐらいの殲滅力があることが前提となるため、あまり現実的ではない。
こういった生態から「実力は白鯨が上だが、討伐難易度は大兎が遥かに上」と評されている。
その起源は『暴食の魔女』ダフネが「この世界から飢えを無くすために」と生み出された存在。
1羽から無限増殖する性質は「いくらでも食べられるように」とダフネなりの思いやりの結果持った性質である。
しかし、実態は世界中の人々を逆に喰らいまくる存在と成り果ててしまっているが、ダフネ的には「相手を喰おうとしてるのに自分が喰われることを考慮しないのはおかしい」としてこの結果に不満は無い様子。
また、自身の消えない「飢餓感」を投影させて産み出した存在でもある。
常に際限の無い飢餓感に苦しめられているダフネとしては、「倒して見せる」と啖呵を切ったスバルには割と好感を抱いており、自身の分身がどういう最後を迎えるのか、非常に期待している。
作中での行動
時系列としては、クルシュ・カルステンの過去を描いた短編『獅子王の見た夢』にて初登場。
17歳を迎えたクルシュの誕生日記念パーティの日に突如出没。カルステン領へ侵攻した。
クルシュの父、メッカートが立ち向かうが話にならず、もはや絶体絶命というところへ彼女が参戦。のちに『白鯨』にも大打撃を与える『百人一太刀』の一撃でなんとか撃退に成功した。
『大兎』が何故このタイミングでカルステン領に現れたのかは謎。
本編で登場した時期は第4章『聖域と強欲の魔女』編。
3回目の死に戻りでナツキ・スバルが『聖域』の中で5日目を迎えた日に遭遇。
この時、『聖域』内は何故か季節外れの雪が降り積もっており、家屋や資材を除き生物全てが消え去っていた。
不審に思いつつ誰かいないかと探し回るスバルの前に現れたのは、1羽のかわいらしい兎。
なぜこんなところに、と何気なく兎に手を伸ばしたスバルだったが…
兎に指を手首ごと食いちぎられた。
後ずさるスバルだったが次は激痛とともにバランスを崩し尻餅をつく。足元には自分の脚を貪る別の兎が。
ふと周囲を見れば、100羽どころか1,000羽は下らない夥しい数の兎がスバルを囲っている事に気づく。
兎達は一目散に痛みに悶えるスバルの元へ走りより───
このシーンはアニメ化もされているが、今までの回を含めて一番と言えるほどグロテスクであり、割と洒落にならないレベルで悲惨なので耐性がない方は軽い気持ちで閲覧しないことをお勧めする。
そうでなくともこの回はリゼロ屈指のトラウマ回として有名であり、多くの読者を恐怖のドン底に陥れた。
この後スバルは4回目の死に戻りをしている。
が、あまりにも凄惨すぎる最期を迎えたためか精神の方がぶっ壊れ、スバルも発狂寸前まで追い込まれてしまった。
『強欲の魔女』エキドナが自身の精神世界へ招き、彼の心に細工しなければもう完全に廃人と化していたと思われる。
スバルはエキドナの精神世界で『大兎』を産み出した張本人、『暴食の魔女』ダフネと面会。
「あれは自身の消えない飢餓感を投影させて産み出したもの」「あれを倒すならマナを囮にすれば良い」とアドバイスを貰う。
その上で、「『大兎』は必ず自分が倒す」と啖呵を切るのだった。
その後5回目の死に戻りでは『聖域』内で何故か2日目に雪が降り始める。
紆余曲折あり、『聖域』に降っている雪は人工的な大魔法によって引き起こされたもので、『大兎』はその魔力に引き寄せられている事、そしてその雪を降らせている張本人がロズワールである事を知る。
ロズワールはある目的のためにスバルを「エミリアだけを救うためそれ以外を切り捨てる賢者」に仕立て上げるべく、『大兎』を利用してスバルを追い込み「死に戻りを使ったとしても全ては救えない」と思い知らせようとしていた。
(ロズワール当人は『叡智の書』に従って雪を降らせていたに過ぎず、『大兎』が現れる事自体は予見していなかった。)
『大兎』が現れた以上、完全に手詰まりの状態となったスバルは墓所へと逃げ出す。
ちなみにこの道中、避難してきたアーラム村の村人達は『大兎』に喰われるくらいならと焼身自殺している。
このシーンも中々精神的にくるものがある。
全身を喰われながら、這う這うの体でなんとか墓所へ辿り着き、せめて大好きな人に会いたいという気持ちから、最期はエミリアに看取られながら死亡した。
この回で分かる事だが、ロズワールは第4章において全てのループ内で『大兎』を呼び寄せている。
つまり、スバルが死亡して『大兎』に遭遇していない世界線でも、『聖域』内の人々はエミリアを含め全員喰い殺されてしまっている。
『聖域』解放反対派だったガーフィールとの和解、留守中のメイザース領を襲撃したエルザの打倒、ベアトリスの禁書庫からの解放、そしてエミリアの『試練』突破に成功。
ロズワールの妨害がありながら「全てを救う」という『強欲』な活躍を見事やってのけたスバルは、ベアトリスと共に最後の仕事、『大兎』の討伐に挑む。
魔力の強いものに引き寄せされる習性を利用し、自ら囮となって『大兎』を一ヶ所に集め、エミリアがその周りを氷魔法で固め、閉じ込める。
そしてベアトリスの陰魔法『アル・シャマク』で地形ごとこの世界から隔絶した異空間へ送られることとなった。
別の次元に転送されたので二度とこの世界に戻ってくることは無く、実質『大兎』の討伐は成された。
ちなみに『白鯨』と違い死体が残っていないため、公には討伐扱いにはなっていない様子。
異空間で獲物を失った『大兎』は、自らの消えない飢餓感を少しでも埋めるため、永遠に共喰いと増殖をし続けるという悲惨な末路を迎える事になる。
鳴き声を上げ、キチキチと歯を鳴らし、それは気が狂いそうになる。尽きぬ空腹感、決して満たされない飢餓感。食んでも食んでも、許されない狂気。
母も、こんなものを抱えていたのだろうか。
一瞬だけ、食欲に支配されるそれの脳裏を謎の思考が過った。
ノイズめいたそれは単なる感情の走りで、決して言葉として明文化されるようなものではない。そしてそれも、すぐに狂いそうな飢餓感の前に永遠に消える。
───満たされない飢餓感が、満たされることはない。
自らの「飢餓感」を投影させて産み出した『大兎』のこの最期に、ダフネは何を思うのだろうか。
余談
- 着想について
作者曰く、映画ジュラシック・パークを観た際、ティラノサウルスのような大きい恐竜に襲われるシーンより、「無数の小さい恐竜に一斉に襲いかかられ、少しずつ食べられる」シーンの方が怖い、と強烈に印象に残ったらしく、そこから着想を得たとのこと。
- スバルのトラウマ
様々な死を体験する事になるスバルだが、初めて遭遇した時の死が今まででトップクラスに最悪とのこと。
その後、兎だけでなく小動物全般がダメになったらしく、兎の形のものを見ただけで身構えてしまうほどトラウマになってしまっている。
- 魔女が倒すなら
生みの親であるダフネなら簡単に平らげてしまうらしく、他の魔女ならエキドナとセクメトなら瞬殺できるとのこと。
それ以外だと相性の問題で勝てない。
- 『暴食』の魔女因子には
『魔獣』はダフネの保有していた『暴食』の魔女因子に従う性質があり、ダフネの死後は因子が移譲された人物に従うようになっている。
現保有者はうさぎ座のα星と同じ名前を名乗っているが、関連性は不明。と言うよりこんな化け物が保有者でも制御できるかどうか正直怪しいところである。
- 『異世界かるてっと』にて
ロズワールが黒板に兎を描いているシーンがあり、そこには「うさぎ 何を食べる?」と書いていた。
当時まだ2期の制作発表がなされておらず続編への伏線とも言え、既読者が見ると悪趣味が過ぎると話題となった。
- アニメでは
初遭遇のシーンは小説として読むだけでも胃から何かが込み上げてきそうな気分になるが、アニメとして映像化されたシーンは小林裕介氏の鬼気迫る演技も相まってそれはもうえげつない絵面になっている。
書籍勢ですらドン引きするぐらいの出来であったため、以来スバルだけでなくファンですら兎に忌避感を持つようになったとか。
関連タグ
ダフネ(リゼロ):生みの親。
白鯨(リゼロ):同じく『三大魔獣』の一翼。