概要
「応天の門」とは、『月刊コミック@バンチ』(新潮社)にて、2013年10月より連載している日本の漫画。作者は灰原薬。第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作品。
2024年5月号の休刊に伴いコミックバンチKaiに移籍した。
主人公は学問の神様として名高い菅原道真と、百人一首「ちはやふる」の作者で歌人として有名な在原業平。基本的な流れは平安京に起こる数々の怪奇事件を検非違使(現代における警察)として活躍する業平が、若くして博識な道真の元に持ち込み、解決していくというもの。頭は良いが毒舌で人付き合いが苦手な道真と、人心掌握がうまく色男の業平の絡みが魅力的な作品。
菅原道真と在原業平が怪事件に挑むミステリーの中に、台頭する藤原氏勢力の暗躍を描く歴史ものとしてのストーリーも展開される。平安時代の話であるが、妖怪や幽霊の存在は本質の目くらましであり、謎解きは理論的に行われる点が特徴。一方で権力を拡大していく藤原氏と他貴族の争いが謎解きと並行してストーリーの軸となり、主人公である道真、業平ともに藤原氏との過去の因縁が徐々に明らかになる。藤原氏と菅原道真の対立の結末は歴史によって事実上ネタバレしているといえるが、この作品ではどのような落としどころを見せてくれるのか注目したいところである。
なお、「応天の門」は平安時代の事件「応天門の変」を意識したタイトルと推察される。
登場人物
主要登場人物
- 菅原道真(すがわらのみちざね)
本編の主人公。文章生(平安時代の官吏養成施設最高機関・大学寮で学ぶ学生のこと)。
学者を多く輩出する菅家の現当主菅原是善の3男。そのため友人の紀長谷雄からは「菅三殿」と呼ばれている。また、屋敷の人間からは幼名「阿呼さま」で呼ばれることもある(本人はこの呼び方をされるのを子供扱いされていると取っているのか、あまり好んではいない様子)。
幼少の頃より学問の才に秀で、文学から地学、化学など様々な知識が豊富。一方人付き合いや遊びを面倒・馬鹿馬鹿しいと感じており、普段は自宅にこもって唐から伝わってくる書物を読みふけっている。しかし業平の強引な誘いによって数々の事件と関わることで、知識を人のために使う喜びに徐々に目覚めるようになる。自身も貴族であるが貴族達の権力争いに非常に強い嫌悪感を示すのと対照的に、庶民には平等な目線で接しようとする。
家柄でなく学問の実力で出世ができるという唐に対して強いあこがれを抱いている。
- 在原業平(ありわらのなりひら)
本編もう一人の主人公。平安時代の警察である検非違使を率い、都の警護を務める。
平城帝の血を引くエリートだが、藤原家の勢力が強い宮廷内では権力の中心から外されている様子。歌人の才は都中が認めるところだが、同時に女性遍歴の多さも有名。そのため、過去に関係した女性がらみの事件に巻き込まれることも。
人心掌握に長けており、社交的で人脈も広いため、様々な人物から相談事を持ちかけられることが多い。道真の知識をかっており、都で起きる怪事件を解決するためだけでなく、知人からの相談事をそのまま道真に丸投げすることもある。
- 白梅(はくばい)
道真と業平が解決したとある事件がきっかけで、道真に仕えることになった女官。
容姿は良くないという設定だが、漢学の知識は豊富である。情にもろい。
道真のことを主人としてよく慕っているが、業平に対してはアイドルを見るような熱狂ぶりを示す。
- 紀長谷雄(きのはせお)
文章生。道真の数少ない友人。名門紀家のお坊ちゃんで惚れっぽく、遊ぶことが大好き。勉強嫌い。道真と性格は正反対で、遊びの誘いをいつも断わられているが、道真の周りをはなれようとしない。軽い性格が災いして失敗することも多い一方、一途で純粋な面もある。
- 昭姫(しょうき)
商店の女主人。舶来の怪しげな品をとりあつかっており、同時に賭場も提供している。
世情に通じる豪胆な女性。情に厚いところがあり横暴な貴族のふるまいを嫌っている。
女官失踪事件で道真、道長と知り合ってからは公私含めて二人の相談にのってくれる頼もしい存在。ちなみに出会った時の因縁から長谷雄は昭姫を少々苦手としている。
道真の父。帝の侍読をしており、息子に負けず劣らずの本好き。物腰は常に穏やかだが、ときに笑顔のまま怒ったりする。
藤原氏の恐ろしさをよく知っており、道真を関わらせたくない。
藤原家
- 藤原良房(ふじわらのよしふさ)
作中屈指の権力を持つ藤原北家の筆頭。幼い清和帝の祖父として、現政権を操る。
- 藤原基経(ふじわらのもとつね)
藤原良房の甥にして、養子。策略家。良房の後継者として暗躍する。
養父良房ですら計り知れない一面もある本作のラスボス的存在。
- 藤原高子(ふじわらのたかこ)
良房の姪で基経の実の妹。良房による権力拡大の一手として清和帝に嫁ぐことが定められている。
しかし本人の心は業平にあり、過去に駆け落ち事件を起こしている。困ったことがあると唐の名品をちらつかせ、道真を動かしてしまう手腕の持ち主。さすが藤原の姫。
良房の甥で、基経・高子の異母兄。藤原家へ出入りする吉祥丸を使い走り扱いし威張っていたが、出世は年下の基経より遅い。業平と駆け落ちした高子を、追っ手として連れ戻した。
- 藤原良相(ふじわらのよしみ)
良房の弟で、基経らの叔父。藤原家以外とも交流がある穏健派と見られているが、高子に先駆けて娘の多美子を入内させるなど油断ならない面もある。
- 藤原常行(ふじわらのときつら)
良相の息子で、基経とは従兄弟。基経と同時期に参議に任ぜられたが、身分の低い女の許へ通うため夜道を微行し"百鬼夜行"に遭遇。
- 藤原多美子(ふじわらのたみこ)
良相の娘で、常行の妹。父親の画策で高子を出し抜く形で入内したが、本人はまだあどけなく従姉の高子を慕っている。
- 藤原良近(ふじわらのよしちか)
業平が催した反藤原派の宴に参加していた貴族。藤原式家の当主であり、良房ら藤原北家に要職を総取りされていることを不満に思っている。
- 藤原有貞(ふじわらのありさだ)
業平が催した反藤原派の宴に参加していた貴族。藤原南家の当主。
伴家
- 伴義男(とものよしお)
大納言。藤原家の勢力拡大をけん制するため、奔走している。豪胆・豪快な性格。道真の遠い親戚。
道真に興味を抱いており、時折会うために自ら訪ねることもある。
- 伴中庸(とものなかつね)
善男の子。非藤原氏勢力の中で、自分より年下の道真を懇意に思っている。
- 紀豊城(きのとよき)
素行不良で父や兄から家を追い出され、伴善男の許へ身を寄せているトラブルメーカー。右目に大きな傷跡がある。
島田家
- 島田忠臣(しまだのただおみ)
基経に仕える漢詩人。菅家廊下で教えを受けた是善の弟子であり、また、道真の師でもある。基経の命で裏で暗躍している。
- 島田宣来子(しまだののぶきこ)
道真の師である島田忠臣の娘。道真とは許嫁にあたる。
学問ばかりの道真が相手にしてくれないのをさみしく思っている。感情表現ゆたかな行動派の姫君。
大学寮
- 橘広相(たちばなのひろみ)
大内裏八省院内大学寮に勤める学者で、道真の師。是善の元で学んだこともあり、今でも懇意にしている。道真が師事している数少ない人物のひとり。
- 都言道(みやこのことみち)
広相と同じく、大学寮に勤める学者。道真の未熟を指摘したり、学業をサボりがちな長谷雄を指導したりしている。山行を愛好する。
皇族関係者
- 清和帝(せいわてい)
藤原明子の子で、良房の孫。父である文徳帝の急死により、幼くして即位した。他に皇太子として有力視されていた兄達もいたが、祖父である良房の威光により立太子に至った経緯がある。
- 染殿(そめどの)/藤原明子(ふじわら の あきらけいこ)
先の文徳帝の女御で、清和帝の生母。良房の娘であり、基経の義姉にあたる。先帝の崩御や幼い皇子と引き離されたことで気を病んでいるとされ、実質的な幽閉状態で療養している。
- 山科宮(やましなのみや)
元はやんごとない身分だったが、出家し山科に住んでいる。盲目のため、常人よりも聴覚が鋭い。琵琶の名手。文徳帝の異母弟。
- 文徳帝(もんとくてい)
清和帝の父。先代天皇。
- 紀静子(きのしずこ)
業平の旧知。文徳帝の東宮時代から入内して寵愛を受け、第一皇子の惟喬親王や恬子などを産んだが、藤原氏より後ろ盾が弱く身分の劣る更衣だったため、息子は皇太子になれなかった。
- 恬子(やすこ)
文徳帝と静子の娘で、清和帝の異母姉。伊勢の斎宮を務める。
- 源能有(みなもとのよしあり)
文徳帝の子で清和帝の異母兄になるが、生母が伴氏出身で身分が低く、早いうちに臣籍降下となった。散位で隠棲中に、善男の計らいにより同年代の道真と親交を得る。書を好み将来を見通す見識がある一方、おしゃべり好きで細かいことにこだわらない性格。
- 嵯峨帝(さがてい)
文徳帝の曾祖父。
- 源信(みなもとのまこと)
嵯峨帝の子で、臣籍降下した非藤原系の有力貴族。仏教信仰に篤く、博識で穏やかな性格。臣籍降下した身といえど、源一門は莫大な財産や私兵を有しており、家人の土師忠道を信頼していた。
- 源融(みなもとのとおる)
嵯峨帝の子で、信の弟。耽美趣味で、また藤原氏の台頭を快く思っておらず、源氏の財力にあかせて広大な庭園を造成するなどした。
兄の信を悩ませる厄介者で、いつも兄の小言から逃げ隠れしている。