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そのころ、東京中の町という町、家という家では、

ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば、

まるでお天気のあいさつでもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。

(江戸川乱歩『怪人二十面相』冒頭)


概要編集

江戸川乱歩の少年向け作品「少年探偵団シリーズ」ほぼ全巻に登場する怪盗。当初「怪盗二十面相」となる予定だったが、「盗」の字が少年向けに不適切とされ、「怪人」になった。

同シリーズは第一作の題名も「怪人二十面相」であり、その活躍やダークヒーローとしての人気から、真の主役としても過言ではないかもしれない。

明智小五郎及び小林少年率いる少年探偵団の宿敵として描かれ、「紳士的怪盗」とも呼ぶべき典型を確立・一般化したキャラクター、乱歩の言う「今一つの世界」の象徴とも言いうるだろう。


設定編集

戦前より戦後に至るまで日本を騒がせる怪盗。

変装の名人で、老若男女を問わず変装でき、至近距離でも見破る事は出来ず、「二十面相」という名前も「二十の異なる顔を持つ」という意味である。変装が上達し、その種類が増えたとして一時期「四十面相」を名乗っているが、「二十面相」の方が通っている為か数巻を経て元に戻っている。その変装のバリエーションは、研究者が数えたところ全111種類に及んでおり、二十や四十どころか「百面相」とも言えなくもない。

ちなみに、シルクハットや黒マント等のイメージは、あくまでも挿絵による物に過ぎず、実際の本文中には見られない。自分の偉大さを示したいという自己顕示欲に反映してか、アジトでくつろいでいる場面では、金モールで飾られた将軍のような服がお気に入りのようである。


盗品で集められた自分だけの美術館の創設を念願としており、原則として美術品だけを盗み、また盗む際には犯行予告を行う。しかし、シリーズ後半になると、様々な怪物宇宙人に変装(?)し、世間や少年探偵団を騒がせる事が目的としか思えない愉快犯的な行動が多くなっている。


初登場作品「怪人二十面相」では、「人を傷つけたり殺したりする、残酷な振舞は、一度もしたことがありません。血が嫌いなのです」という一文があり、これが二十面相の基本イメージとなっている、「怪奇四十面相」においては、自らの危険も顧みず窮地の小林少年を助けた事すらあった。ただし追い詰められた場合はその限りではなく、荒っぽい手段に訴える場面も多い(後述)。


また反戦主義者のようで「宇宙怪人」では、各国の仲間と示し合わせて世界中で宇宙人襲来騒ぎを起こし、「自分達のような盗人より、戦争による大量殺人の方がはるかに大犯罪。宇宙から敵が来たとなれば、ちっぽけな地球上で争っている場合ではないと気付くはず」と主張しているが、自分達の犯罪行為を正当化する為の「居直り」にしか聞こえない部分もある。


登場する話の大抵の結末では、捕縛されるか、アジトの爆破などで生死不明の状態に陥っているかだが、次の巻では平然と登場する。脱獄の様子は一度だけ描かれた。

明智小五郎が評したところでは明智と互角の能力の持ち主との事…の割にはいつも明智にしてやられているが、これは二十面相が自らの能力を過信して、尚且つ明智の能力を見くびり過ぎているのが原因と言える。


正体と複数存在説編集

「少年探偵シリーズ」の話の一つである「サーカスの怪人」で、本名や出自を明智小五郎に暴露される。

明智によれば本名は遠藤平吉(えんどう へいきち)。元は「グランド・サーカス団」というサーカス団に所属していた曲芸師で、同じく曲芸師であった笠原太郎と二代目団長の座を争ったが敗れ、話の15年前に団を去り、その後何らかの経緯を経て世間を賑わす大怪盗になったとされている。その後、話から3年前に警察に呼ばれた笠原に自らの素性をばらされた事を逆恨みした結果、この話におけるグランド・サーカス事件を起こすに至っている。

この設定が全巻共通なのか否かは不明。今となっては、亡き江戸川乱歩以外知る者はいないと言えるだろう。


「鉄塔王国の恐怖」のラストでは警官隊に包囲された鉄塔から投身自決しており、「これが怪人二十面相の、あわれなさいごだったのです」という文で締めくくられた。どう見ても死亡したとしか思えない表現だが、次回作では何事もなかったかのように再登場している。

シリーズを通じると、流血沙汰を嫌っていた初期とは別人のように荒事を厭わない場面が散見される為、「この投身自殺で二十面相は死亡し、それ以降の二十面相は別人である」と考察する向きもある。また長期にわたるシリーズゆえに、戦前と戦後を舞台とした作品では設定に矛盾が見られる部分もあり、「戦前と戦後では二十面相は別人になっており、明智小五郎も戦後は小林少年が二代目を襲名した」と大胆な説を唱える者もあった。


殺人を犯した二十面相?編集

前述の通り、二十面相は殺人は行わない事をモットーとしている。ただし少年探偵シリーズ後半の幾つかの巻では一部の人間に対して殺意を明確に示しており、特に「魔人ゴング」では小林少年をブイの中に閉じ込める事で本当に彼を殺しかけている為、これも二十面相複数説の根拠の一つとなっている。


また、二十面相が初登場した「怪人二十面相」の冒頭でも、『いくら血がきらいだからといって、悪いことをする奴のことですから、自分の身があぶないとなれば、それをのがれるためには、なにをするかわかったものではありません』と表記されている事実からも分かる通り、原作者の江戸川乱歩本人も二十面相が殺人を犯さない保証は無いという事を暗に示していると言える。


ポプラ社版旧全集に収められた大人向け作品である「大暗室」のリライト版は、本来別人である悪役キャラクターを二十面相に書き換えたものであり、残虐な行為を平然と行う悪人二十面相が登場してしまっている。

さらに言えば、原作「大暗室」において、明智小五郎と二十面相が置き換わった人物である有明友之助大曾根竜次の二人の関係性は、「犯罪を相手に明朗快活に立ち向かう者」と「理由の無い犯罪を楽しむ者」というもので、突き詰めてしまうと根本的に明智小五郎と二十面相の関係性と殆ど変わらない事になる為、原作をよく知っている人間から見れば、実は割と納得のいく内容と言えなくもなく、リライトを行った氷川瓏の設定は的外れでも無かったと言える。


主な派生作品編集

少年探偵団シリーズは何度も映画・ドラマ・漫画化されており、アニメ・ゲーム化も一度づつある。

北村想『怪人二十面相・伝』と続編『怪人二十面相・伝 青銅の魔人』は、怪人二十面相を主人公として乱歩の原典を再解釈した作品。『K-20 怪人二十面相・伝』として映画された。

パロディ・オマージュ・ネタは無数にある。pixiv百科事典の記事では、CLAMP20面相におねがい!!』、小原愼司『二十面相の娘』、『探偵オペラミルキィホームズ』(トゥエンティ)が確認できた。

また、作品ではないが、グリコ・森永事件の犯人は「かい人21面相」と名乗っていた。ちなみに、乱歩が現実の犯罪を嫌っていた事は言うまでもない。


二十面相の奇想天外な変装に特撮の『怪人』の源流を見出したり、第二次世界大戦後初の登場作「青銅の魔人」(戦時中の様々な抑圧の反動で筆が乗った名作と評価が高い)が『鉄人28号』に着想を与えている説があるなど、『怪人二十面相はまほうつかいのようなふしぎなどろぼうです。二十のちがった顔を持つといわれる変そうの名人です。』(『こども家の光』昭和35年8月号)という日本産怪盗のステレオタイプ以外にも日本のオタクカルチャーに与えた影響は計り知れない。


関連タグ編集

江戸川乱歩 明智小五郎 少年探偵団

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