「嗚呼、私は振り返らない――」
概要
大森藤ノ先生のライトノベル『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅢ』のアニメ第8話のサブタイトルである。
主人公ベル・クラネルの『破滅』と『愚行』、そして、2人の『愚者』が起こした奇跡が描かれている。
あらすじ
ダンジョンで、【イケロス・ファミリア】のディックス・ペルディクスを追い詰める事に成功したベル。しかし、ディックスの卑怯な策略により、額の石を取られたウィーネが暴走状態になり、地上に出てしまう。
しかし、そこでベル達の道を阻んだのは憧憬を加えた【ロキ・ファミリア】であった。
怪物が屠られる事を望む民衆、怪物を殲滅せんとする【ロキ・ファミリア】、暴れ苦しむウィーネ。
その全てを受け、悩み、苦しみ、苛まれ、そして少年が下した判断は――
「このヴィーヴルはっ、僕の獲物だ……!!」
「だから、手を出すな……!!」
オラリオを、敵に回すことであった。
その言葉を受け、当然、民衆は何を言っているんだと、ベルを責める。フィンは「子供の我儘に付き合う必要はない」と切り捨て、逃げ出したヴィーヴルを追うよう指示する。
【ロキ・ファミリア】幹部勢も異端児と交戦。しかし、第一級冒険者の力の前に、誰も彼も相手にならず、フェルズの隠し玉であったアダマンタイト製のゴーレムさえ、たった一撃の斬撃で爆散という有様で一方的にねじ伏せられる(この直後にフェルズは、やけくそ気味に笑い出しては「駄目だウラノス、ロキ・ファミリアの方がよっぽど化け物だ!」と、尤もすぎる評し方をしている。確かにこれではどっちが化け物だかわかったものではない)。
もはやこれまでかと思われたその時、異端児の中でも最強の存在であるアステリオスが襲来。その圧倒的な力は【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者達が束になってもねじ伏せてしまう程であったが、アイズ・ヴァレンシュタインによって右腕を切断されてしまい、それでもアステリオスは仲間達を助ける為に抵抗を続けようとする。
しかしその直後、【ヘルメス・ファミリア】によってマジックアイテムの煙幕弾が投げつけられ、【ロキ・ファミリア】が視界を奪われた隙に、異端児達は逃走に成功する。
一方、ベルもウィーネを追いかけ、ウィーネを殺そうとする冒険者に、着弾しないようにしているとはいえ、魔法を放ち、同業者に罵られながらも、とことん邪魔をした。
しかし、漸くウィーネに追いついた筈が、複数の魔導士によって完全包囲され、魔法を同時に喰らってしまい、地下へと落ちていく。
「ベル……大好き」
そこで、上記の台詞を口にしながら、ウィーネは朽ちてしまう。
全ては終わったかのように思えた、その瞬間。
「【未踏の領域よ、禁忌の壁よ。今日この日、我が身は天の法典に背く――】」
フェルズの八百年間成功しなかった蘇生魔法が発動した。
魔法が成功し、蘇生されたウィーネをベルは涙を溢しながら抱き締めた。
(成功した理由は明言されていないが、ベルの幸運アビリティが発動したのだろうか?)
しかし、今回の行動によってベルの「英雄」としての名声は決定的に零落。
安全な地下へ退避した異端児達と一時別れたベルは、市街地で遭遇したエイナ・チュールから、自身が本当に【ロキ・ファミリア】の邪魔をして市街地に被害を出したのかという質問をされる。
それに答えたベルは平手打ちを受け、涙を流しながら彼女は「信じないよ…」という言葉と共に抱き締めるのだった…。
タロットカードの『愚者』
タロットカードにおいて『愚者』のカードには、始まり、純粋、冒険、可能性などの意味があるが、恐らくこの話には、ベルの表向きの愚行だけでなく、これらの意味も込められていると思われる。
実際この時のベルの選択は、異端児達だけでなく、多くの者の運命に影響を与えており、人類と異端児の関係が大きく変わる切っ掛けとなっている。
何も知らない者達には一見愚行にしか見えなかったベルの行動は、間違いなく世界の運命を大きく変える事に繋がるのだった。
余談
本編11巻と外伝10巻を参照してもらうと分かるが、この時のウィーネ生存ルートはこの行動しかありえないのが、かなり辛いところである。実力行使で止めようとしても敵う道理は当然なく、一か八か全て話したとしても、一族の名声を何よりも欲するフィンは間違いなく自分が零落しないよう情報だけを聞き出した上で、民衆とベルの前でウィーネを処理した為、結果的に彼の行動は己を破滅へと導くこの上ない愚行と同時に、皮肉にも正しかった事になる(作者曰くフィンと二人きりの場合は交渉もありえたが、他の幹部も含めて民衆もいた為、どうしても詰む結果である)。
もし冷静さを欠かずに全て話すという行動に出ていれば、本当に取り返しのつかない結果になっていただろう。
唯一ベルに救いがあったと言えるのは、フィンやレフィーヤ・ウィリディス、ティオナ・ヒリュテといった一部の【ロキ・ファミリア】のメンバーが、ベルの行動に何か理由があると考え、後々に少なからず理解を示す様になった事だろう。
でなければ、本当にベルや【ヘスティア・ファミリア】はオラリオでの立場を失い、ウラノスやフェルズでも庇いきれず、出て行かざるを得なかったかもしれない。