分岐
概要
1978年に宮崎駿監督、日本アニメーション制作でNHKで放送された『未来少年コナン』を叩き台に『未来少年コナン2』の位置付けで宮崎駿と日本アニメーションがNHKに提案した企画である。内容としては超古代文明を巡る探検ミステリーもので、『未来少年コナン』同様日本アニメーションが制作に携わることになっていたが、結局この企画は実現に至らずお流れとなったが、企画書は宮崎駿やNHK、東宝、日本アニメーションがそれぞれ持ち帰っている。
そして時が過ぎ、この企画書を基にした派生作品が次々と生まれることになる。
海底世界一周の派生作品
その1:『天空の城ラピュタ』
1985年に「スタジオジブリ」が設立され、翌年公開に向けてジブリ初のアニメ映画作品の制作に取り掛かったが、映画監督としてスタジオジブリに移籍した宮崎はボツ企画とって持ち帰った『海底世界一周』の内容を叩き台に約2時間の作品にまとめ、1986年に公開されたのが『天空の城ラピュタ』である。ラピュタ劇中の悪役のムスカ大佐は企画段階では未来少年コナンの悪役レプカ局長の祖先として作られたキャラクターであったため、両者は共通点がみられる。
当時は「スタジオジブリ」の知名度がなく、宮崎駿の名前はそこそこ知れ渡っていたがアニメ映画オリジナル作品がまだ受け入れられにくかった時代で、興行収入約11.6億円、配給収入5.83億円と同じ時期に上映されたのび太と鉄人兵団(興行収入約15億円)を下回っている。但し、その後スタジオジブリや宮崎駿の名が知れ渡っていくと『天空の城ラピュタ』も再評価され、VHS+DVDは150万本を突破。テレビ放送も2年周期で放送されるなどまさにジブリ作品の原点にふさわしい実績を持つことになる。
その2:『ふしぎの海のナディア』
一方NHKの倉庫に眠っていた『海底世界一周』の企画書であるが、ある日NHKのプロデューサーがそれを発見。企画の面白さに感服しどうにかテレビアニメ化できないか考え始めるが、この企画を作った宮崎は既にスタジオジブリでアニメ映画監督となっていたため、東映を通じてテレビアニメ制作でNHKと繋がりのあった「ガイナックス」ヘこの企画を持参。この時対応した庵野秀明が『風の谷のナウシカ』などで宮崎と一緒に制作に携わっていたことや、ガイナックスも『王立宇宙軍』の負債があったこともあり応諾し、元の企画に様々なアレンジが付け加えられ、1991年にテレビアニメとして放送されたのが『ふしぎの海のナディア』である。
『ふしぎの海のナディア』は最初の数話で予算を使い尽くすなど最後まで放送されるのか心配されたが、湾岸戦争などで放送が延期になるなどで人員に余裕が出来、また一部を海外制作として費用抑制に努めるなどでどうにかやりくりしたことで予定通り完走。映画化など各種メディアで展開されるなどこちらも人気を博し、自転車操業状態だったガイナックスの懐を助けたとされている。
その3:『七つの海のティコ』
『ふしぎの海のナディア』の放送から間もない頃、『世界名作劇場』の製作を行なっていた日本アニメーションでも『海底世界一周』の企画書が再び火の光を見ることになり、企画を基に『世界名作劇場』の合うようにアレンジし、フジテレビやハウス食品へ企画を通し1994年に放送されたのが『七つの海のティコ』である。『世界名作劇場』は世界中の文学作品をアニメ化したものであったが、この作品のみ原作がないオリジナル作品となっているのはこのためである。
『世界名作劇場』にアレンジされていることもありアクション性は前2作と比べて控えめであるが、制作会社が日本アニメーションということもあり描写などが『未来少年コナン』により近いものとなっている。
その4:『未来少年コナンII タイガアドベンチャー』
『七つの海のティコ』からさらに時間がたち、日本アニメーションがTBSにもこの企画を持ち込み、1999年に放送されたのが『未来少年コナンII タイガアドベンチャー』である。元々『未来少年コナン2』として企画が作られたものが十数年経ってようやく表題に『未来少年コナン』が付けられる作品となったが、前作との繋がりがなく、他3作と比較しても企画の関連性が薄い等評価が分かれる結果となっている。それでも要所で他3作に通じるワードが取り入れられており、『海底世界一周』をベースにしている部分はある。
多数の派生が生まれた要因
本来の企画そのものが流れたのにもかかわらず、その後4つも派生作品が生まれたのは前代未聞といえる。これは『未来少年コナン』の続編だったことや、制作サイドの都合もあって実現されなかったなど、諸般の事情でアニメ化には至らなかった例といえる。但し『海底世界一周』の内容そのものは評価が高く、それぞれの制作サイドが個別に「棚上してお蔵入り」し、その後「棚卸のうえアレンジ」され、結果細部は異なるが基本設定が酷似したアニメが次々と誕生した要因となった。
「1つの企画で複数の作品が誕生する」ことは海外では珍しくなく、最たる例として1998年にアメリカで公開された『ディープ・インパクト』と『アルマゲドン』がある。この2つは1つの企画に複数の脚本家がシナリオを書き、別々の制作会社がそれぞれの脚本の中から気に入ったものを採用して制作に取り掛かった結果である。そのため「地球に隕石が落ちてくる」点は同じだが
「ディープ・インパクト」が地球上視線に対し「アルマゲドン」が宇宙上視線であることなど脚本ベースでかなり違っており、「どっちかがパクった」ということではない。
ちなみに『海底世界一周』はまだ企画ベースのものであることから、著作権のトラブルは発生していない。
Pixivでの扱い
繰り返すが『海底世界一周』そのものは企画止まりで脚本も詳細なキャラ設定も作られていない、または世間に公開されていないことから作品そのものに関連付けるのは実質不可能である。代わりにその後誕生した『天空の城ラピュタ』『ふしぎの海のナディア』『七つの海のティコ』といった各作品のクロスオーバー的作品に対して関連付けを行なうことが適していると言える。