禍(妖怪)
かあるいはわざわい
仏教経典の1つ『旧雑譬喩経』の説話集などにみられる災禍を生み出すとされる怪物。
禍獣(かも)、禍母(かぼ)との別名を持つ。
『旧雑譬喩経』の説話によれば何一つとして災禍が無い豊かな国の王が好奇心から、「この世には禍というものがあるらしいので一度見てみたいからこれを求めてこい」と(止めておけばよいに)家臣たちに命じて捜索させた。
そして家臣たちは市場で禍母と呼ばれる禍を生み出す巨大な生物を見つけてこれを購入し城へと持ち帰った。
禍母は小さな猪ぐらいの大きさをしており、1日に一升の針を餌としていた。
そこで王は国民たちに日々針を差し出させてこれを飼育していたが、国民たちはこれに疲弊してしまい次々と国から逃げだして行き、さらに小さかった禍母は急速に成長して城屋敷まで食い尽くさんとする威容となってしまう
この事態に困惑した王を始めとする家臣たちは禍母を殺してしまおうと試みるも、成長した禍母の体は鉄のように固くなっており刀で切る事も突く事も儘ならない。そこで今度は焼き殺そうと火を放つが、それでも禍母は死ぬこと無く、逆に大暴れして城や町中を駆けまわって全てを焼き尽くし次々と人を襲って食い殺していった。
実は市場で禍母を打っていた商人は天の神の化身であり、流石にこのような事態になった王は今までの非道を後悔し、悔い改めたとされている。
なお、この出来事から自ら悪事を招くことを“市に禍を買う”ということわざが生まれたとされている。
また、日本では『宝物集』で上記の説話が紹介されており、それによれば鉄だけを食べつ猪の様な姿をした怪物とされているほか、室町時代頃に書かれた御伽草子『鶴の草紙(鶴草子)』にも登場しており、こちらでは角が生えた牛のように大きな狼の姿をしており、角を振り、凄まじい風を起こす事ができるとされている。
また、江戸時代に書かれた小説『椿説弓張月』にも妖僧・曚雲(琉球の虬塚に封印されていた邪悪な蛟)によって召喚して使役する怪物として登場しており、ここでは牛の体に二本の角を持つ虎の顔をした怪獣の姿をしており、寧王女と死闘を繰り広げ、最終的に退治されている。