概要
古典落語の演目の一つ。元は上方落語だが、江戸落語としても広く演じられる。
おっさん2人の大人げない喧嘩とツンデレっぷりが微笑ましいハートフル・コメディとなっている。
逸話など
- 上方落語の始祖・初代露の五郎兵衛が書いた笑い話の本「軽口露がはなし」に掲載されている「この碁は手みせ禁」をもとに作られた、上方の噺。
- 大阪から持ち帰った三代目柳家小さんが江戸落語として翻案。現代ではこの三代目小さんの形で広く演じられ、五代目柳家小さん、十代目金原亭馬生らの得意噺として知られる。
- 噺のモチーフとなっている川柳「碁敵は 憎さも憎し 懐かしし」の原型は「川柳評万句合」に掲載されたもので、「睦まじき事 睦まじき事」と言う下の句に対する前句付。後に前句だけが「誹風柳多留」にも掲載された。
- 五代目古今亭志ん生は囲碁がわからないと言う理由で、題材を将棋に変えた改作「雨の将棋」として演じていた。
- サゲの場面は、ずっと待っていた方のおっさんの視点で演じられ、盤面を濡らしていた水は笠の水か、それとも…と考えさせられる「考えオチ」になっている。
あらすじ
へっぽこ囲碁仲間の旦那2人が今日も今日とて仲良く差し向かい、一局打とうということになった。1人が「根岸で一局打って散々に負かされ、お前は“待った”をするからヘボなんだと言われた。だから上手くなるために“待った”なしでやろう」と言い出すが、窮地に陥ると思わず“待った”。
「待った無しでやろうと決めたのだから、この一番は最後まで待ったなし」
「カタいこと言わず、待ってくれたっていいじゃないか」
互いに譲らぬ強情な2人、売り言葉に買い言葉で悪口合戦になっていく。
「一昨年、借金の返済“待ったして”やったんだからこのくらい待て」
「お礼にと大掃除の手伝いにだしてあげたうちの若い衆をこき使ってそば一杯食わさないケチ」
「勝手知らぬ手伝いなど邪魔だった」
「世話になっているからと、わざわざヘボの相手をしに碁を打ちに来ているのに」
「ヘボぉ!?ヘボとはなんだヘボとは!?二度とくるな!」
たった一つの碁石をめぐり、いい年こいた大店の旦那2人は喧嘩別れ。
しかし「碁敵は 憎さも憎し 懐かしし」。
大店の旦那というものは店の仕切りを番頭に任せているため、人と会う以外に仕事がない。そこへ来て3日も雨が降り続き、店に誰も来ないものだから、旦那としては暇を持て余し、好きな碁を打ちたくなる。しかし、碁会所に行ったとしても周りが強すぎて全く楽しくないのは目に見えていて、そうなると憎き碁敵が懐かしくてたまらない。
そんな時、旦那の片方は煙草入れを相手の店に忘れてきたことを口実に、憎き(?)碁敵のところへと向かおうとするが、生憎と傘がない。しょうがないので古い菅笠をかぶって、家のものにはブツブツ言い訳をしながら、いそいそと出かけていく。
一方、ヘボと言われた旦那の方も、いざ来ないとなると退屈で退屈で仕方ない。居ても立っても居られず、忘れていった煙草入れを大事にとっておき、わざわざ店先に碁盤を据えて、デンと座って碁敵を待っていた。すると、当の碁敵が笠を被った珍妙な姿でやってくる。「そら、やってきたぞ」とウキウキしながら小僧にお茶やお茶うけを用意させるが、肝心の碁敵は店の前を何度もウロウロして中をうかがうばかりで、いっこうに入ってこようとしない。
やがてしびれを切らした旦那は、わざわざ一人で棋譜並べをしながら「おい、あまりうちの店の前をウロウロするな」と碁敵に声をかける。
「ウロウロしたかねぇが、ヘボの家に煙草入れ忘れちまったから…」
「ヘボだと…!?やい、ヘボかどうか一番打ってみろい!」
「よぅし!やってやろう!」
中に入って打ち始めれば、すっかり仲良しに戻る2人。しかしふと、盤の上にぽたりぽたりと雨の雫が降ってくることに気づく。何度拭っても滴ってくるものだから、雨漏りかと思って顔を上げた“ヘボ”旦那、何だろうと碁敵を見上げて気付いた。
「何だお前さん、まだ笠被ったまんまじゃないか」