肉吸い(妖怪)
ようかいのにくすい
三重県の熊野市山中や和歌山県の果無山に出現したとされる人間に近付いてその肉を吸い取ってしまう恐ろしい妖怪。明治時代には、郵便局の人が配達へ行く際「これが出た」所を通過しないといけないので拳銃の携帯をさせてもらった(郵便屋さんは出会わなかったそうである)などと言われる。
その正体は背丈が二畳(約3.6㎡)程ある骨と皮だけの肉が全くない化け物で、夜遅くに提灯をともして山道を歩いている人間に齢の頃18、19の美しい美女の姿に化けて近付き、「火を貸してくれませんか?」と語り掛けて提灯を取り上げて火を消し去り、周りが全く見えない暗闇の中で相手に食らい付き、その肉を吸い取って食い殺してしまうとされる。
その為、熊野市の人々は火の気無しに夜道を歩くことはなるべく避け、どうしても夜道を行く際には提灯と、万が一提灯を奪われてしまった時に備えて火種を用意してから夜道へと出歩き、肉吸いに提灯を奪われた時には火種を振り回して肉吸いに打ち付けてその難を逃れるようにしていたという。
また、十津川付近では源蔵という猟師が果無山に猟へ出かけた際に何故か狼がやって来て(ニホンオオカミは人類にやさしいのは日本のお約束なのだが南方熊楠『南方随筆』〈全集第2巻363頁〉には詳細が書いてない)それ以上先へ進めさせまいと袖に噛みついて来た。するとそこへ18、19歳ほどの女性が「ホーホー」と笑いながらやって来て火を貸すように頼んできた。
源蔵は怪しみ、何時も護身用で持ち歩いていた「南無阿弥陀仏」と彫られている銃弾(Hitした弾丸はありがたいので持ち帰って携帯するシャチ玉という信仰があるの)を準備していると何事もなく女は立ち去っていったが、その後背が2畳ほどもある化け物の姿で現れた為、先ほど準備していた銃弾で仕留め難を逃れたという話が伝わっている。
この話を紹介する南方熊楠(紀州人だ)は、「ウェルズとか言う人の書いた『宇宙戦争』に出てくる火星人類」がだいたいあってるくらいで、他に似た妖怪を知らないと結んでいる。