概要
歩いている馬がこの風に当たると突然死んでしまうという怪異で、日本各地で伝承される。
この怪異で死んだ馬の肛門は太い棒を挿したように広がっており、鼻の穴や口から体内に入りこんで肛門から抜けることで死に至らしめられるものだと、馬を飼う者たちからは非常に恐れられていた。
江戸時代前期の僧・浅井了意の『御伽婢子』では、つむじ風が起こったと思うとそれが馬の首に当たって鬣が逆立ちさらに赤い光が差し込むのが見えた。すると馬は悲鳴を上げて倒れたと記述される。なお前方を刀で斬り払い、光明真言を唱えることで逃れられるとの記述もある。
この怪異は4~7月に起こるといわれ、特に5・6月の天気が変わりやすい日に多いとされる。美濃では白馬が、遠州では栗毛や鹿毛の馬が被害に遭いやすく、年老いた馬や雌馬は被害に遭わないとされた。
馬の首を布で覆う、鈴をつける、虻除けの腹当てを身につけると防げるとされ、もし襲われてもすぐに耳を切って血を出させる、または尾骨の中心に針を打ち正気に戻せば助かるという。
明治時代の物理学者・吉田寅彦は自著『怪異考』の中で、球電現象などによる感電死説を唱えている。
馬魔
尾張(愛知県)や美濃(岐阜県)では馬魔という小さな女の妖怪であるとされ、緋色の着物に金の頭飾りを身に付け、空飛ぶ玉虫色の馬に乗っていると伝わる。
襲われた馬は脚を絡まれて逃げたくても逃げられず、馬魔に微笑まれたあとに右に数回まわって死ぬという。
常陸(茨城県)や近江(滋賀県)大津の民話では、自殺した馬の皮はぎの娘が生まれ変わったものであるとされる。