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概要編集

風船爆弾は大日本帝国陸軍で開発、使用されていた珍兵器の一つ。

気球に爆弾を取り付けてジェット気流に乗せ、アメリカ本土を爆撃するというもの。

世界で初めて(一応の)大陸間攻撃を可能にした兵器だった。


およそ1万発が作られたとされ、アメリカ本土まで辿り着いたのは数百発から1,000発程度とされる。


元々は海軍に中央気象台に勤めていたものから持ち込まれたアイデアで、計画放棄されたが陸軍に資料と研究機材が引き渡されて完成した。


性能編集

大気高層のジェット気流爆弾をぶら下げた風船を乗せてアメリカ本土まで飛ばす、と言えば簡単に聞こえるが、はるか上空で温度低下や気圧変化によって風船が落ちないようにすること、大陸間を飛行しても破れない風船を作らなければならない、など様々な問題を解決せねば風船爆弾は成功しない。

そこで日本陸軍は気圧計とバラスト投下装置とが連動する装置を開発。これにより、気球落下の問題を解決した。

そして、材料も壊れにくい高性能のものを用意した。そう、日本が誇る和紙コンニャクである。

和紙とコンニャク糊というとなんともローテクなイメージを抱きがちだが、両者とも実は驚くほど強靭な素材であることはご存知だろうか。

アメリカ軍も素材が紙であることはすぐ分かったものの、接着剤が一体何だったのかが分からず、未知のテクノロジーとして扱っていたという話も残っている。コンニャク糊を作る際に苛性ソーダが使われたのだが、そのせいで作成に駆り出されていた女生徒の指紋が消えてしまったという話も残っている。

5層になる紙の貼り合せは工場で行われたが、球形に貼り合わせた後でガス充填試験を行う必要があったため、高さと広さの両方がある空間が必要だった。そのため本所回向院の旧両国国技館や有楽町の日本劇場(現在の有楽町マリオン)といった広い施設で組み立てが行われた。


なお、海軍時代のものは羽二重織物にゴム引きで製造されていたが、物資不足と生産性から和紙とこんにゃく糊に変更された。

また、バラスト投下装置も火薬を使用して砂袋を落とす方式だったものが変更されるなど、装置そのものも改修がされている。


計画編集

この風船爆弾を実行可能としたのは、「偏西風」の存在であった。当時の気象学会ではまだ仮説でしかなく証明されていなかったが、この風あっての風船爆弾であった。


日本列島から飛ばした爆弾は高度を上げて偏西風に到達。そのまま偏西風に乗って太平洋を横断し、昼夜の気温差で風船が下降すると気圧計の変化で機械が作動し、バラストを落として風船を上昇させる。そうしていってアメリカ本土上空に到達。到達予想時間に爆弾投下が作動する時限式機械があり、これでアメリカ本土を遠距離攻撃した。


後述のようにその戦果は微々たるものだったが、本命は生物兵器としての利用であり、ペスト菌、炭疽菌などを搭載し、生物兵器を散布する無差別大量破壊兵器とすることが考えられていた。しかし、細菌は上空の低温に耐えられなかったため断念(細菌兵器の使用も上奏されたものの、昭和天皇が裁可されなかったとも)され、通常爆弾を搭載する兵器として用いられたのである。


戦果編集

陸軍は風船爆弾に膨大な人的資源を注ぎ込んだが、9割が海上等に落下し、海上で米軍機に発見されて撃墜されたものも少なくなかった。

アメリカの人的被害としては1945年に不発弾として落ちていた風船爆弾に触れた事で爆死した一般人6名のみ。犠牲者は子供と妊娠中の女性であった。

奇しくも日本側も風船爆弾製造中の事故により6名の死者を出している。


他に米国に到達したものも、山に落ちて山火事を引き起こした程度であり、実質的な戦果は微々たるものだったが、アメリカ政府やアメリカ軍に対する心理的効果は非常に大きく、レーダーをもってしても正確に分からない上、生物兵器・化学兵器を使用可能であると考えられたことから非常に警戒され、専門の防疫部隊の編成と共に公衆衛生機関に不自然な病気の発生の報告を義務化し、日本に向けて派遣する航空機部隊の一部(中隊規模を複数)を迎撃部隊として配置変更を行った(Lightening Project)。

風船爆弾によって戦意が下がる事が危惧された事と、風船爆弾の到達率や到達範囲などといった情報を日本側に与えないよう、徹底した報道管制が敷かれたという。

また、当初は発射地点が不明であったため、アメリカ国内もしくは近海に既に日本軍が侵入、もしくは支援する組織があるのではないかという疑念も抱くこととなった。

しかし、報道管制も完全ではなく、組織同士の情報共有や通達のミスなどにより不審なものを拾わないようすると言う注意は伝言ゲーム的に歪んで伝わる事が起きている。


バラストの砂を分析することで発射地点(九十九里浜)を特定し、そこへ集中的に爆撃を行う事も検討されていたが、特定できた頃には季節的な問題や報道管制によって効果がないと判断された事もあって風船爆弾による攻撃は終了していた。


戦後、風船爆弾の資料はアメリカ軍に接収され、1950年にはアメリカで日本の風船爆弾の設計をベースにしたE77気球爆弾がテストされている。


同類編集

イギリス軍は、日本軍に先駆けて、第二次世界大戦中、ドイツへ気球爆弾を飛ばすアウトワード作戦(→Wikipedia「アウトワード作戦」)を行っている。これは殺傷目的ではなく送電線をショートさせることを狙って放たれたもので、実際にドイツに落下し山火事を引き起こしたり変電所の破壊を行っているが、中立国であるスウェーデンにも落下し被害をもたらしている。


さらに遡ると、1849年にオーストリアの砲兵将校によりヴェネツィアに対し、火砲の射程が足りないことから風船に時限爆弾を積んだものによって攻撃が行なわれている。


オウム真理教も同様のものを作ろうとしていたが中止された。


関連タグ編集

大日本帝国陸軍 爆弾 風船 珍兵器

科捜研の女:season17第3話「 折り鶴が見た殺人」にて、戦時中に風船爆弾の製造に携わった人物が登場し、出産前の胎児も含めて犠牲者は7人としている。

太陽にほえろ!:第448話サブタイトル。東京上空を飛ぶ風船爆弾を、七曲署の刑事たちが追う。

RedAlert3:秘密兵器として『Baloon Bomb』が登場。風船部分に日本語で「飛行の死」と書かれている。

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