概要
兎月書房から三洋社(現・青林堂)に移籍した水木は1960年~61年にかけて兎月書房版『墓場鬼太郎』の続編にあたる貸本漫画『鬼太郎夜話』を発表した。
後に『夜話』は、三洋社の長井勝一社長が新たに興した青林堂が創刊した伝説の漫画雑誌『月刊漫画ガロ』で1967年~69年にかけてリメイクされた。
この『夜話』での鬼太郎は、タバコをふかしながら夜の街をうろつき、怪しい儲け話にまんまと引っかかる放埓な俗物であり、1965年~67年まで『週刊少年マガジン』で連載していた『墓場の鬼太郎』『ゲゲゲの鬼太郎』の主役である”正義のヒーロー鬼太郎”とは正反対の存在である。
ちなみにガロ版『鬼太郎夜話』は『ゲゲゲの鬼太郎』のコミックスにも2~3冊に分けて収録されており(例えば講談社KCコミックス版では8・9巻、サンコミックス版では11・12巻、3期放送時の講談社KC新書版では15~17巻、中公文庫コミック版では8・9巻に収録)、当時『ゲゲゲ』を読んだことで期せずして『夜話』の異質な世界観にハマった読者も少なからず存在する。
つまりガロ版『鬼太郎夜話』は、単行本の扱いでは(収録は大半が最後だが、時系列的に鬼太郎誕生後の)『ゲゲゲの鬼太郎』の大長編シリーズとして位置づけられている。まあ言うなれば鬼太郎前夜といった扱いであろうか。
現在では講談社「水木しげる大全集」にて、貸本版とは別に分けられた『鬼太郎夜話』が全2巻で刊行されている。
ガロ掲載(リライト)版についての余談
- 水木が『ゲゲゲの鬼太郎』をはじめ少年週刊誌連載で多忙な時期に、ろくに原稿料の出ない『ガロ』にあえて貸本版『鬼太郎』を並行して復活させたのは「水木の作家意識のあらわれだろう」との指摘がある。『ガロ』は既存の枠に収まりきらない作家を育て、世に送り出すことを目的として創刊された雑誌である。その性質上発行部数は乏しく、原稿料は大手の数分の1という激安であったが、それでも良いからと掲載を希望する漫画家が後を絶たない雑誌でもあった。詳細はリンク先を参照。
- ただし、『ガロ』が赤字続きで原稿料を出せなくなったのは1970年代に入ってからである。当時の水木は、読者を選ぶ作風に加え、貸本漫画そのものの衰退により明日をも知れぬような経済状態にあった。長井からの『ガロ』への執筆依頼は、そこに差し伸べられた救いの手とも言えるものだった。兎月書房から移籍して『鬼太郎夜話』を出させてくれた過去の事も含めて、水木は長井に強い恩義を感じていた。
- 後に『コミックボンボン』で連載された『最新版ゲゲゲの鬼太郎』では、ぬらりひょんからこの『夜話』の時期の鬼太郎のことを引き合いに出されるエピソードがある。
- アニメ版『ゲゲゲ』6期ではとあるエピソードで本作に相当すると思われる昔話が語られている。
関連項目
鬼太郎誕生ゲゲゲの謎:前述した6期の前日譚。『夜話』冒頭がエンディングで再現された。