特徴
KC-767をアメリカ空軍向けに改良したもので、見た目はそっくりだがコックピットはボーイング787に準じた最新版となり、フライングブームもKC-10のものの改良型。
生存性も考慮されており、コックピットや胴体床下の燃料タンクは防弾され、さらに後者は誘爆しないよう不活性ガスで満たされている。レーダー警報受信機や赤外線ミサイルを妨害する指向性赤外線妨害装置も装備する。
また、KC-767のエンジンはCF6であったが、KC-46のエンジンはPW4062であり、かつスラストリバーサーも未搭載。
アメリカ以外では日本(後述)とイスラエルが導入を決めている。
空中給油機の後継
はじめに
冷戦がアメリカ率いる自由主義連合の勝利で終わり、際限ない軍備拡張にも一区切りがついたころ。KC-135の兄弟機ボーイング707にも、ボーイング747やボーイング767といった優秀な後輩が登場しており、ボーイング社ではこれらに役割を受け継いで、生産を打ち切ろうとしていた。
一方アメリカ空軍でも、KC-135Aは既に旧式化したと考えていて、KC-10導入を進める一方、旧世代のJ57をCFM56系統のターボファンエンジンに換装して近代化を進めた。何せベトナム戦争時代に製造されて以来の「古道具」なのである。しかし、累積飛行時間は増え続けていずれ限界を迎えてしまうことは明らかであり、また頼みのKC-10もマグドネル・ダグラスがボーイングに吸収された後は再生産されない事になってしまい、完全な入れ替えが終わらないまま調達は終了してしまう。
『グローバルパワー、グローバルリーチ』
これは1990年にたてられたスローガンで、巨大な空軍を世界中に配置するよりも、より実戦向きで精強、適度な規模で世界規模の派遣にも堪える空軍部隊を目指していくという意気込みである。しかし、このままではKC-135が退役した後、少数のKC-10でだけしか空軍の戦闘能力は支えられない。大多数のKC-135の任務を、少数のKC-10で引き継げるものだろうか?
間違いなく否だろう。
KC-X計画:えこひいき?
そこで1996年、折からの軍縮に予算を圧迫されていながらも、空軍は次期空中給油機の選定を始めることになった。
というのも、アメリカ会計検査院が『このままKC-135を運用し続けて21世紀に入った場合、整備・検査にかかる費用が激増するだろう』と予測したのである。空軍としても、このまま使い続けて事故を起こすのも具合が悪い。避けられる恥は避けるべきである。
こうして始まったのが「KC-X計画」である(この「KC-X計画」計画は三段階の最初の一段階であり、次の「KC-Y計画」でKC-10を置き換え、最終段階の「KC-Z計画」ではステルス性を持った給油機の導入が予定されている)。
これに対し現行機の製造元ボーイングは2003年、既にイタリア・日本に納入実績のあるKC-767をアメリカ向けにした仕様を提案し、この整備など受け持った上で貸与とし、満了後は空軍の買い上げとして引き渡すリース契約を結んだ。
途中経過:しっちゃかめっちゃか
が、この契約は議会で紛糾。いわく、そもそもボーイングの単独指名で不公平だの、実際には試算ほど安くならないだの、KC-767にすると設備改修が必要だの、KC-135E(州軍向け離着陸強化型)を改造して一線に廻したが早いんじゃないのだの、極めつけには国防総省高官とボーイング社の官民癒着までが明るみに出てしまった。これによりKC-X計画は撤回され、一度は仕切り直しになった。
KC-X計画:群雄割拠
というわけで完全に混乱したKC-X計画である。
計画中止の後は様々な代替計画が浮かんでは消えた。
・中古のDC-10をKC-10仕様に改造する(どうせ旧式だし新しい旅客機でもいいじゃん)
・大型と小型と2種類の空中給油機を混合運用する(戦闘機で空中給油しても効率が悪いだろjk)
・KC-135EをKC-135Rの代替にする(そもそもこの計画の意味わかってる?)
このように、いずれも一時しのぎのような計画が出されもしたが、結局は新型で大型の空中給油機が効率的なのは明確だった。
こうした果てにウクライナからまさかの刺客、An-112KCが提案されるなど、色々とすったもんだの末、2007年にはとうとう国防総省がボーイング案:KC-767とノースロップ・グラマン&エアバス案:A330MRTT(KC-30T)のどちらかを採用することを決めた。
KC-X計画:最後の混乱
2008年、国防総省はA330MRTT(KC-30T)案をKC-45として採用する決定を下す。
が、もちろんボーイング社(並びにボーイング工場のある地方の議員)は大反対。いくら性能はKC-767以上とはいえヨーロッパ企業なので、最終的な儲けは国外に持ち出されてしまうのだ。もちろん、どうせなら国内でも雇用が生まれる方がいい。
そんなわけで選定は見直され、ついでにノースロップ・グラマン&エアバスによる贈賄も明るみに出て、KC-767がKC-46A「ペガサス」として採用を勝ち取った。
採用されても苦難は続く…
こうしてKC-46は2014年12月28日に試験機が初飛行。
2017年には最初の18機が調達される見込みとなっていた…のだが、開発の中でさまざまな初期不良が露呈し作業は遅延、配備も思うように進んでいない。
特にブームの遠隔操作に欠かせない映像システムの問題が深刻で、特定の状況では映像が歪み作業が困難になってしまう上、ブームを給油する機体にこすりつけて傷つけてしまうトラブルが起きたためF-35のようなステルス機への給油は当初認められていなかった(ステルス機の命と言えるステルスコーティングを剝がしてしまう恐れがあるため)。2022年2月にやっとF-35とF-22への給油が認められたものの、改善策が取られた映像システムのバージョンアップは少なくとも2023年以降になる予定。
さらに、ブームの空力的な問題でA-10に給油しようとすると接続したブームが機体に合わせて動かなくなり大きな負荷がかかってA-10の機体を損傷させてしまいかねないため、A-10にも給油が認められていない。対策としてアクチュエーターを設計し直して交換する予定。
もっとも、この時期のボーイングは民間旅客機である787や737でも品質不良の問題が多発しており、社全体に問題が蔓延していた状態だった。
ちなみに、あまり知られていないがあの悪名高きMCASも搭載されている。操縦桿の操作で簡単に解除できるようになっているなどの安全策がとられているとの事だが…?
そんな事もあって、海外輸出では安定した性能で着実に実績を上げたA330MRTTにことごとく敗れ続けており(日本とイスラエルでは候補にA330MRTTがいなかったから勝てたようなもの)、KC-767の導入国であったイタリアからも「こんなもん買えるか!(要約)」と見放され、本国アメリカでさえ続く「KC-Y計画」にてA330MRTTがロッキード・マーティンとタッグを組み再び名乗りを上げる事態にまで発展している。
大丈夫なのかKC-46…
航空自衛隊では
KC-767の増強用として2015年に採用。KC-767と異なり塗装がダークグレーなので識別は容易。
2021年10月に最初の機体が到着しているが、上述したように機体の問題が改善されていないまま納入されてしまったので、運用にしばらく影響が出るのは避けられない。
2024年8月には、給油中に誤操作が原因でブームが突如外れた反動により機体後部胴体とブームが損壊し緊急着陸するインシデントが発生している。
関連動画
アメリカ空軍航空機動軍団による公式動画