概要
ホンダのバイク。
レース専用車と市販車が存在しており、どちらも「楕円ピストン」を使用する非常に特殊なエンジンを搭載していた。
レース専用車
元々は1979年にWGP(現在のMotoGP)向けに開発されたNR500(画像左)に遡る。
このマシンは、当時の2ストローク勢に対抗するため、4ストロークV型4気筒32バルブの楕円ピストンエンジンを搭載していた。
楕円ピストンとは、文字通り真円ではなく楕円(長円)形状のピストンで、1個あたり2本のコンロッドで支えるユニークなものである。
ちなみに、何故こんなエンジンを作ったのかと言うと、創業者・本田宗一郎の意思からくるホンダの4ストローク偏重と、技術革新の探求のためであった。
理論上は2ストローク勢と渡り合えるとされたが結果は散々で、1982年をもって退役。
末期に同時開発した2ストロークのNS500が好成績を収めたことで、そちらにバトンタッチする形となった。
5年後の1987年、排気量を拡大したNR750(画像右)が登場。
NR500時代の問題点を対策し、洗練されたエンジンは高い戦闘力を示した。
主力だったRVF750に肉薄するタイムを叩き出した上、オーストラリアのレースでは楕円ピストン初となる優勝を獲得するなど、ある程度の成績を残してみせた。
市販車
1992年発売。
先述のNR750で得た技術をフィードバックし、同じく楕円ピストンエンジンを搭載している。
正式名称は「NR」であるが、こちらを指してNR750と呼ぶ場合もある。
レーサーレプリカではなく、ホンダのフラッグシップとして開発された為、様々な新機軸やカーボン・チタン・マグネシウムなどの高級素材を惜しげもなく投入。
製作の難しい楕円ピストンも、加工技術の追求により量産にこぎつけた。
エンジンはフルパワー仕様で130馬力、国内仕様は77馬力だった。
生産数は300台限定。
車体価格は520万円と高額にもかかわらず、話題性の高さや発売前のバブル景気により注文が殺到し、無事に全て売り切れる……はずだった。
しかし、発売直前にバブルが崩壊し、不景気が訪れたことでキャンセルが多発。
売れる予定だったNRたちはホンダとバイク屋のお荷物となってしまった。
実際の生産数は予定の300台に届いていないと言われる。
以降は新車在庫もゆっくりと捌けてゆき、現在では逆にプレミアが付いている。
純正部品の供給は既に終了しており、また台数の少なさから中古部品もまず出ない。
このため大事に保管しているライダーが多く、表に出てくることは滅多にない。
フラッグシップとしては成功しなかったが、現在では伝説的名車の一つとして語られる車種であり、バイク史上に確かな足跡は残している。
余談
漫画『BLACKLAGOON』の日本編で、レヴィが盗んで走った後に大破させた赤いバイクはNRである。