オブジェクト番号:SCP-1973-JP
オブジェクトクラス:Keter
SCP-1973-JPはある特徴を持つ、人型実体である。
SCP-1973-JPは、世界を自分のレベルに合わせて稚拙に作り変える現実改変者である。外見も見る人によって様々だが、観測者にとって尊敬・恋慕・愛護の対象となるような理想的な姿になる。SCP-1973-JP自身は財団に敵意がなく温厚で社交的である (自分の英雄譚をお膳立てしてくれる財団に何の不満があるというのか、という話ではあるが)。
SCP-1973-JPに対しては以下の事例が記録されている。
- SCP-1973-JPの最初の事例として記録されているのは収容以前の事案であり、機動部隊がSCP-1973-JPの収容を試みた際に、機動部隊は逆に全員拘束されて無力化された。その後機動部隊隊長がSCP-1973-JPに部隊入りを願い出たことで収容された。この時の機動部隊は連携行動をしない、向かって突撃する、応援の要請やHQへの連絡をしないといった行動が目立っており、およそプロの仕事ではなかった。
- 次の事例はとあるアノマリーの収容違反のインシデントが起きたときの事案であった。このアノマリーは無力化され、報告書は廃棄された。当たり前だが、アノマリーが無力化しようとも、報告書は本来廃棄してはいけない。Neutralizedと指定されるだけだからだ。現在復元もかなわない常態であり、収容違反の原因もわかっていない。それだけでなく、ポーラ博士は「記憶が正しければ、それは収容違反するようなオブジェクトではない」と話し、SCP-1973-JPの調査を申請した。しかしSCP-1973-JPの影響を受け、「私の思い違いでした」と申請を取り下げてしまう。
- その後、正式な実験としてSCP-1973-JPはジェフリー博士のそばで、とある病の研究補助をすることになった。しかし事前にSCP-1973-JPには医学的な知識もなく、科学知識もないはずであったのに、いつの間にかSCP-1973-JPが実験を指揮し、ウイルスと見られていた病原体は光学顕微鏡で見つかり、治療法は世界中に拡散されたがO5の許可も取られていない。トレッキー博士は首を傾げたが、ジーン博士の要請で査問委員会は開かれなかった。
- 次は学力テストを3回行った。このとき、対照実験として医療従事者だったDクラス2名にも同じ試験を行わせる。しかし、SCP-1973-JPは満点を取り、Dクラスは平均80点程度だった。この試験では「日本における中学3年生程度の問題がほとんど」であったという。このことから、SCP-1973-JPが問題、及びDクラスの知能をいじくった (現実改変)ことが疑われたが、その痕跡を財団は見つけ出せていない。
- 機動部隊Ω-7が補給のためにサイト-██に立ち寄った際SCP-076-2がSCP-1973-JPに襲いかかる事案が発生。しかしその攻撃はSCP-1973-JPにいっさい当たらず、SCP-076-2のいた地面が崩れる、近くを通りかがった職員が盾になるなどして失敗している。SCP-1973-JPサイドからも有効打を与えられなかったが、SCP-076-2はとりつかれた状態になり、戦闘を終了させるためSCP-076-2は一旦自殺。これを見た職員たちはSCP-1973-JPがSCP-076-2に勝ったと見たのか、なんとSCP-682の終了実験を実施しようとした。しかし、SCP-682が「なあ、本当に我の終了実験の実験許可は出ているのか?」と職員に尋ねたことで担当者が問い合わせたところ、実験許可の偽造が確認され、実験は中止。
- ジーン博士は、影響者のひとり、エノビー博士にインタビューを行った。彼女はSCP-1973-JPをひたすら称賛し、彼のクロステストのための実験許可を偽造した。前述の実験もすべて実験許可を偽造した状態で行われていたのだ。ジーン博士は彼女を拘束したがエノビー博士はSCP-1973-JPの有用性をしきりに主張するので、「納得行く根拠を述べられるなら君の拘束を解いてやる」と問いただした。エノビー博士はまず、SCP-1973-JPが「11人の現実改変者をひとりで終了したこと」を功績として語った。しかし、ジーン博士は「それは財団エージェントでもできるし、その際に直接戦闘を仕掛けたことで周囲への被害は甚大、近隣へのカバーストーリーにも苦労した」と反論。更にその11人には、財団に協力的な者もいたそうだとまで付け加えた。エノビー博士はそれでも「現実改変者にまともなやつはいない、今は良くてもいずれダメになる」と反駁したが、「なら同じ現実改変能力者のSCP-1973-JPも危険性の疑いがあるとして終了しなくてはいけないのではないか」と正論でこれに応える。その後もエノビー博士は如何にSCP-1973-JPが優れているかを述べ立てるがすべてジーン博士に棄却される。そしてジーン博士は、ひとつの質問をぶつける。「エノビー、そんなにSCP-1973-JPは魅力的な人物なのか」と。SCP-1973-JPの功績をずらずら並べるエノビー博士に対して、ジーン博士はSCP-1973-JPの人柄が全く見えてこない、なぜ彼が素晴らしいと思ったのかを教えてくれていないと訝しんだ。実際、この報告書において、SCP-1973-JPのセリフやちょっとした所作は述べられていない。
以上のようにSCP-1973-JPの影響を受けてしまった世界は、「SCP-1973-JPの一挙手一投足をおおげさに称賛する味方」と、「SCP-1973-JPの英雄譚のためにかませにされるだけの敵」だけになってしまう。SCP-1973-JPを主役として、周囲はそのモブにのみなるのだ。SCP-1973-JP自身は馬鹿で、非力で、とりたてて何の優れた能力も有さないが、現実改変により相手を自分以上の『無能』かつ『雑魚』にしてしまえるため、SCP-1973-JPに勝負を挑むことは、挑んだ側の「敗北」を意味する。そして、SCP-1973-JPは勝利するために本来無害なオブジェクトをあえて収容違反するように仕向け、マッチポンプを起こしてすらいるわけである。逆に言えば、SCP-1973-JPでも絶対に勝てないようなSCP-076-2 (アベル)や、SCP-682 (クソトカゲ)に関しては、「すべての攻撃が当たらない偶然を作り出す」「クソトカゲとマッチする前にクソトカゲに許可の確認をさせる」という方法で戦いそのものを避けつつ、「SCP-1973-JPに一発も当てることができないクソザコ」「SCP-1973-JPと戦うことを恐れて逃げたクソザコ」と印象付けを行うことを忘れない。
また、影響を受けた者は「味方」「敵」双方ともに論拠を述べられず、SCP-1973-JPを極度に肯定的・否定的に見る理由を「そうでないとおかしい」。「味方」はSCP-1973-JPについて「もっと積極的に利用すべき」「信頼できる」「SCP指定を解除し職員として迎え入れるべき」と主張し、「敵」は「即刻終了すべき」などと主張して、直接的な排除行動に及ぶこともあるが、この排除行動は上述の異常性により必ず失敗する。こうして、すべてがSCP-1973-JPのご都合主義的な世界になる。
ジーン博士の提言により、現在SCP-1973-JPはSCP-1973-JPを収容するためだけに作られたサイトに収容され、このサイトは記憶処理と擬似記憶の植え付けを行ったDクラス職員だけで運営されている。
このサイトは全ての財団データベースから切り離され、偽装データが常に送信され、サイト内以外での業務は最小限にし、サイト外での業務を行った後は記憶処理が行われる。
そして、SCP-1973-JPと「勝ち負け」が発生しうる事象を行うことは禁止されている。
ある日、そのサイトから『管理官』役のDクラス職員がメールを送ってくる。彼は、収容に失敗したという意味合いの文面を送信してくるが、受信者は「なるほど、ジーン博士の提言したカバーストーリー『杞憂の世界』はうまく行っている」とジーン博士に回答した。
余談
元ネタのメアリー・スーにちなみ、このSCP-1973-JPに登場する博士の名前は『A Trekkie's Tale』(「メアリー・スー」が初出した小説)の著者ポーラ・スミスや宇宙大作戦のパイロット版でクリストファー・パイク船長を演じたジェフリー・ハンター、スタートレックシリーズの生みの親のジーン・ロッデンベリー、スタトレオタクを意味するトレッキーなど、スタートレックにちなんだ人名や用語を引用している。1973も 『A Trekkie's Tale』の発表年が由来。
なお、エノビー博士のみ由来が異なり、『史上最悪の二次創作』として知られるハリー・ポッターの二次創作小説『My Immortal』の登場人物Ebonyから。このEbonyはしばしば作者がEnobyとタイプミスをすることから定着した。