堺一馬
さかいかずま
概要
関東料理界を代表する超新星「ミスター味っ子」こと味吉陽一、九州料理界を代表する逸材「素材の魔術師」こと中江兵太と肩を並べる関西料理界の鬼才。得意分野はカレー。
単行本の幕間ページで寺沢自身が「ファンレターが一番多い」「思い入れが一番強い」と語っているお気に入りのキャラクターであり、アニメ版では準主役級の座を与えられ、続編『ミスター味っ子II』でも物語を深く関わる重要人物の立場にある。
人物
原作版
自称「味の貴公子」。
大手建設会社『永田建設』を経営する社長・永田に雇われた凄腕の少年料理人であり、強引な手段で下町商店街を地上げして大食堂ビル「味ビル」を建設する計画を撤回させるべく直談判に乗り込んできた陽一が発した「これくらいの料理なら俺にも作れる」という一言が逆鱗に触れ、味ビル建設の是非を賭けた料理勝負「チキンカレー対決」に挑む運びとなった。
すでに一流料理店のオーナーを務める知識と経験、恩人の永田すら足掛かりにしてさらなる飛躍を虎視眈々と目論む野心を燃やしつつ、自身の眼で厳選した最高の材料から余さず旨味を引き出す工夫を重ね、さらにインドから直輸入した36種類の香辛料を調合したオリジナルブレンドスパイスを組み合わせた傑作を完成させたが、その上を行く創意工夫によって陽一が編み出した「パイナップルカレー」の前に惜敗を喫した。
その後、並み居る強豪と料理勝負を繰り広げる国内最大級の料理勝負『味皇グランプリ』における陽一最大のライバルとして立ちはだかり、第28回大会で「甲乙付け難し」の裁定によって陽一との同時優勝を飾って名実共に大阪を代表する料理人となった。
これ以降は全国行脚の味修行に日々を費やす一方、ライバルの立場は保ちつつも年齢の近い陽一と交友を育む仲となったが、第29回大会では思わぬミスで足元を掬われて第二回戦敗退という結果に終わり、人知れず嗚咽を漏らして悔し涙を流す屈辱を味わった。
やがて時が過ぎ、味皇料理会を支える主任一同が「陽一に主任級の役職を以って料理会に迎え入れる」と満場一致で決めた際、その腕を見極めるべく味皇自らが相手となる最大の試練「味試し」を挑み、一縷の望みを繋いで最終戦に臨む陽一の元へ劉虎峰と共に駆け付けて協力した。そして、陽一と虎峰すら気付かなかった料理の欠点を見抜いて奔走し、間一髪の所で逆転の秘策を授けて見事に味皇から勝利を掴み取った。
性格こそ極めて熱しやすく、己の腕を信じ切る相当な自信家であり、時にそれが行き過ぎて慢心となった際には手痛い敗北を味わっている。反面、他者の料理に対する観察力と理解力は極めて鋭敏にして深く、前述の通り自分のみが気付いた欠点を補う秘策を授けた事で陽一が味皇に勝利する要因を作っている。
連載後期に寺沢が漫画情報誌『ぱふ』に寄稿した際、「一馬はいいとこのぼんぼんで二人姉弟。お姉さんは箱入り娘でとっても上品なんだよ」と裏設定を明かし、それを基に幕間ページで『意外!!あの一馬に美人お姉さん(18)がいたですって!?』と銘打って紹介している。なお、姉のデザインは名古屋在住の同人作家(本誌中で本名公表)のスケッチを参考にし、頭一つ背が高く清楚な姉に寄り添われて気恥ずかしさに汗だくで戸惑う一馬が描かれている。
アニメ版
自称「カレーの天才」。
第28回大会優勝までは原作版とほぼ変わらないが、それ以降にシフトチェンジしたアニメオリジナルストーリーでは「馴れ合いはしないが心強い味方」として度々登場し、陽一が通う開陽学院転入と同日に日之出食堂のほぼ真向かいに自身のカレー食堂『一馬屋』(かずまや)を開店して付かず離れずの仲となった。また、直弟子のコオロギ(声優:神代智恵)が女性だったというアニメオリジナル設定が組み込まれた際には、「ぞぞ気が走る」(=関西弁で「寒気がする」)と全力で拒否する女嫌い(厳密には女性耐性に乏しい)の弱点が追加された。
実は、アニメ版中盤から物語の中核を担うようになる謎の存在『怪傑・味頭巾』と深い因縁を持つ。一馬は最も過酷な味修行「味遍路」(あじへんろ)の中で父親を失った孤児であり、偶然に出会った味頭巾から料理の手ほどきを受け、味頭巾が持つ地位と包丁欲しさに勝負を挑む料理人相手に味頭巾の代理として幾度もの勝負をくぐり抜けて来た。そして、当時の大阪で並ぶ者の無かった和食料理人・永田(後の永田建設社長)の挑戦をも見事に跳ね返したが、この勝負を最後に味頭巾の考えあって幼い一馬は包丁もろとも永田に託された。
たった4歳で実父の死に目に遭い、その実父の如く慕った味頭巾までもが自身から遠ざかっていった強烈な幼児体験が災いして本能が過去の記憶を封印してしまい、味将軍グループとの抗争で再び市中に味頭巾が現れるまでは全く忘れていた。しかし、幼い頃の記憶が完全に甦る前からその兆候は「孤児院のシスターにのみ素性を明かして子どもたちにカレーパンなどを無償提供する」「『独りでいる事』には慣れているが『孤独』には言い知れぬ恐怖を覚える」といった形で、一馬本人すらその行動原理がわからないまま表れていた。
後に、思う所あって今度は己一人で果てしない味遍路に旅立ち、消息不明となる。
ミスター味っ子II
前作の味試しから長い年月を経て30代に入り、引き続き料理人として活動しているが、それとは別に建設会社『永井建設』(前作の永田建設)社長代理としても活動し、飲食店関連の建設工事を一手に切り回している。
工事を請け負ったフードパーク『ラーメンワールド』建設予定地が下町商店街だと知り、土地買収計画を主導する凄腕ラーメン職人・佐野稔次(さの ねんじ)を思い留まらせるようと十数年振りに商店街を訪れた際、陽一の息子・陽太の腕に興味を抱いて不利なラーメン勝負に対抗するヒントを自身の食事風景からそれとなく伝えた。
物語の7年前に本人の口から味皇の名を背負うべく世界行脚を勧められた陽一、最高の味を求めるが故に一貫して現状維持を最善とする中江のように、一馬もまた成り行きとは言え社長業を始めた関係で経営学的視点から料理界の変革を目標とするようになり、その夢を活力にして社長と料理人の忙しい兼務生活を送っている。
丸井善男との再会を機に現在の味皇料理会のやり方に改めてきな臭さを感じ、第50回大会開催を迎えた味皇グランプリへ陽一・陽太親子、ヨーロッパ統括部長の役職で在籍し続ける旧陣営唯一の生き残りである下仲基之、その下仲と物語の数年前に世を去った芝裕之(しば ひろゆき)を除く旧味皇料理会主任陣(丸井、小西和也、関場武雄、米本精道)らと「打倒・新味皇」を誓い、自身は直弟子のコオロギと組んで参戦した。
ところが、本戦出場資格を決める第2課題で、それもカレーに次いで自身に理のある「焼きそば」でまさかの予選敗退に終わった。この時、一馬とコオロギが出場したBグループには陽一が才能を見出したシオン、下仲が才能を見出したアランがペアを組んで参加しており、まるで不慣れな調理課題に肩を落としていた様子を見た一馬が良かれと思って「ダメ元で自分の出来る限り存分にやったらいい」と励ましの言葉を掛けた所、これがシオン・アランペア起死回生のアイデアに繋がって本戦出場権を逃す敗因となってしまい、敗戦後に「慢心の上油断してました」と普段の自分らしからぬ慎ましい反省を強いられた。