初出:2巻、もしくは22巻
※本記事では「透明な力」などについても記載する。
※この記事は原作の重大なネタバレを含みます! |
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概要
上条当麻の右腕が破壊された際、その切断面から出現する竜の頭の姿をした何か。
上条の右腕に宿る幻想殺しとの関係は不明だが、幻想殺しはどうやら理想送りと同じように上条自身の魂の輝きによって引き寄せられただけの付属品のような物らしく、ある意味この力こそが上条自身の力と呼べるのかもしれない。
上条の中に潜む何かは個々に姿形が異なり、ある時は「竜」、ある時は「透明な何か」、ある時は「魚卵にも似た赤黒い三角形の集合体」となる。これらが同一存在なのかは現在も不明。
アレイスター=クロウリーは右方のフィアンマとの問答で「ホルスの時代(アイオーン)」を着地点に見据えた計画に組み込まれている事を示唆した。
ホルスのアイオーンは1904年にエイワスがもたらした魔道書「法の書」を土台に、クロウリーが始めた「テレマ教」という実在する新興宗教(近代魔術)の概念である。
クロウリーはこの計画を実行する為に、形を変えたテレマ僧院である「学園都市」を設立し、かつてイタリアのシチリア島にて散ったテレマの欠片を「科学」という形に偽装して蘇らせた。
彼はあえて都市の治安を悪化させ、非人道的な計画を利用して暗に上条を騒動の渦中に飛び込ませるなど、何らかの「成長」を促している節がある。
この点に関してフィアンマの計画と類似している事をクロウリー本人も認めている。
『魔神』オティヌスやエイワス、クロウリーの発言からも現状では不完全である事が窺える。
作中での描写
とある魔術の禁書目録(2巻、22巻)
初めてこの「竜王の顎」が現出したのは原作2巻において、錬金術師アウレオルス=イザードが上条の右腕を能力で切断した時である。
その大きさは上条本体に並ぶほど巨大で、まるで恐竜のような大口を開けていた。色はガラスのように透明であり、材質は不明。
アウレオルスの力は現実を改変する力であり、「負ける」という意思があったのでこのように現実が改変され、アウレオルスの恐怖と焦燥がこのような形で溢れ出たのではないか、という説もあるが、上条自身はアウレオルスの想像とは無関係なのでは?と疑問を呈した。
暫くその存在は忘れ去られていたが、旧22巻で右方のフィアンマに右腕が切り取られた際に「謎の力」が上条の肩口から姿を現す。
フィアンマが放った力は確かに惑星を塵にし、十字教のあらゆる神話を再現し得る程の莫大な力だった。しかし謎の力はその力をも容易く切り払い、上条の意思で顕れたさらに別の力によって消滅、その余波で右腕までが完全再生した。
22巻で現れた力は「竜」の姿をとっていなかったが、竜王の顎はアウレオルスが上条の奥底に潜む何かを連想したのではないか?と2巻の伏線がすぐ話題に上がり、次第にアウレオルスが再評価されるようになった。
もっとも、アレイスターの発言や記憶喪失前の上条が幻想殺しの謎を知っていた可能性がある件も含めて、一介の平凡な高校生という上条のアイデンティティーも崩壊したわけだが……。
新約とある魔術の禁書目録(1~20巻)
その後、新約4巻バゲージシティ編のオティヌス戦で右腕を失った際に同様の力が現れたが、オティヌスには雑魚扱いされ一瞬で握りつぶされていた。
また上条は新約9巻でオティヌスと共に何千億回もループを繰り返し、何度も彼女に殺されているのだが、その世界の一つが描写された際、右腕に「正体不明の力」が集まり実際に出現しかけた事がある(未遂に終わっている)
新約15巻のオティヌスの発言によると、謎の力の正体は大体予想できているらしいが、木原加群が生きていれば予想に確信を与えられたのだという。
なお、新約14巻における上里翔流との対決で『幻想殺し』が吹き飛ばされた際もそれらしいものが出現しており、その際は上里の理想送りを無効化した挙句に彼に瀕死の重傷を負わせている。
あくまで幻想殺しは異能を打ち消すだけの力だが、竜王の顎は物理的攻撃力も有するようだ。これについて上条自身は「以前とは違うモノではないか」という予測をしているが依然、正体は不明である。
新約18巻でエイワスはこの力を指してか「成長」「純度」と言っていたが、エイワスに言わせるとまだ完全ではないようで、たったの2行で握りつぶされている。
新約20巻では美少女と化したクロウリーが、上条に対して「よりによってキミの内側と繋げようとするとは」と中の存在に関して言及(オルソラ=アクィナスを参照)。詳しく説明する気はないのか言葉を濁し、上条から「詳しく説明する気がないなら、俺はひとまず保留にするぞインテリ野郎」と毒を吐かれていた。
新約とある魔術の禁書目録22巻 ※ネタバレ注意
そして新約22巻にて、謎の力が再び顕現。
冒頭でコロンゾンに上条がグチャグチャの肉塊にされ、右腕と判断できるそれをクロウリーが治療の為に切り離した。本来ならすぐにでも封じ込める必要があったが、上条の構造の特殊性を認識しているクロウリー以外はその事に気付かなかった為、噴き出てしまう。
もっとも、その形状は竜の姿ですらない。赤黒い泡、それも球体ではなく三角形の集合体だった。個々のサイズも異なり、大きい物で上条の身長すら超える物が連結・蛇行して一本のラインを形作ろうとしていた。
姿形はオティヌスや美琴が見たものとも違うらしく、呆気にとられた美琴を他所に、クロウリーが食蜂に上条の認識を騙すよう命令・実行し、ひとまずその場は事なきを得た。
切断された右腕は、コロンゾンの襲撃の際に“隠していた”食蜂が上条に返還。もはや縫合の必要すらなく一瞬で繋がった。
しかし最終局面でコロンゾンに右腕を切断され、再び出現。制御しきれずクイーンブリタニア号を破壊してしまう。
力とその影響を恐れて半狂乱で逃避する上条。それを察知した本物のアンナ=シュプレンゲル嬢は、親しい顔を見つけた時の様に、目元を細めて「おはよう幻想殺し……そして神浄の討魔。貴様たちには世界は何色に見える?」と言い放つ。
アンナ=シュプレンゲル曰く、マダム・ホロスが滝壺理后を利用したのは、上条を内側から破壊させる為に仕組んだ事だと思っていたらしい。
ホロス夫人の実際の目的は一世紀前から続く魔術結社『黄金夜明』の芽を完全に摘み取る為だったが、この愚鈍な詐欺師(ババァ)が上条にも目を向けていれば、世界の一つくらいは取れていたのだという。何にしろ、シュプレンゲル嬢が一世紀以上も追い求め続けた程の存在であることは確かなようだ。
新約とある魔術の禁書目録22巻リバース
※神浄の討魔も参照
新約最終巻のリバースにおいて、この存在は「ドラゴン」「神浄の討魔」とも呼ばれ、ショッキングピンク/エメラルドカラーの本質的な姿を持つ「ドラゴン」である。
そして元の腕が切り離された「上条」自身、スカイブルーとレモンイエローの謎多き外殻を纏う力を一時的に獲得し、ドラゴンの姿(外殻)になっている。
どうやら、幻想殺しとは別の力である事がこの巻で判明した。
とある科学の超電磁砲
外伝作品『とある科学の超電磁砲』の大覇星祭編の終盤(禁書で描写されてない部分)、木原幻生の暗躍で"RAIL_GUN":LEVEL[PHASE]-5.3と化した御坂美琴との戦いにおいて再びその姿を見せた。
その際は一頭では処理しきれなかったのか他に7種類のドラゴンの首が出現し、御坂美琴の呼び出した、削板曰く「別の世界から来た何か」を文字通り喰らい尽くした。
同範囲がアニメ化されたとある科学の超電磁砲Tでも登場。「竜王の顎(ドラゴンストライク)」とサブタイトルにまでなっている。
それが放送された2020年5月16日の深夜、超電磁砲担当編集者である荻野氏のTwitterより天使型以外のドラゴンの能力が紹介されるという、まさかの展開が起きた。これについては長くなるので、下記の別項で解説する。
八竜の特性・力
『超電磁砲』における八頭の竜には異能の消去以外の特殊な力がある。またアウレオルスの記憶が消えた原因も竜の力である可能性が高い(禁書公式ガイドブック『とある魔術の禁書目録の全テ』でも「対象は記憶を喰われる」と書かれている)。
2020年5月16日に投稿された超電磁砲担当編集者の荻野氏のツイートによると、ドラゴン達は「どれも単一の属性ではなく、二つ以上の属性を有する恐るべき力の化身」であるらしい。以下、同氏のツイートを軸に禁書・超電磁砲の設定を交えて紹介する。
- 基本型ドラゴン
:おそらくシリーズで初めて登場した、無印2巻・禁書1期では半透明、今回の超電磁砲Tでは白い色のドラゴン。解呪と精神攻撃が得意。
:『噛まれると記憶を破壊されてしまう危険がある』らしく、実際このドラゴンに頭から喰われたアウレオルス=イザードは記憶を失い、さらに魔術も使えなくなった。
- 盲目ドラゴン
:設定画では盲竜と記されていた、黒いドラゴン。暗黒属性。強い精神作用を持ち、迂闊に近づいた相手を恐怖や混乱状態に陥れる。
- 単眼ドラゴン
:荻野氏のツイートでは『単眼コブラ風ドラゴン』と紹介された。雨風を呼ぶ水属性の水色のドラゴン。毒の概念を煮詰めたような牙を持っており、噛まれたナマモノ(生物?)は死ぬか死ぬより非道い体験に遭う。
- 四ツ目ドラゴン
:沢山の眼力で、夢と現実の境を曖昧にする幻覚催眠能力の薄緑色のドラゴン。不在金属をも砕く、美声音波の歌い手……らしい。
- 氷晶ドラゴン
:鉱石とも記されていた、星そのもののような強靭さを持つ薄水色のドラゴン。とにかく硬く、氷のブレスを吐く。
- 槍状吻ドラゴン
:荻野氏のツイートでは『槍頭ドラゴン』として紹介された。金色に輝く派手なドラゴン。身体からは雷撃を撒き散らし、口からはレーザーブレスを吐く。
- 天使型ドラゴン
:頭に天使の羽を戴く、神々しい薄黄色のドラゴン。連載中の原作では『獄門解錠』編で美琴が対峙している。今後のネタバレにもなるためか、Twitter上では能力の紹介はされなかった。
:原作超電磁砲の描写を見る限り、身体に生えている羽が魅了(チャーム)となって人を操れるようになる能力と、物質(と異能も?)を塩化させる能力の二つを持っている。
この内、塩化のような能力はアニメ登場時にも使っていた。
- 骸炎ドラゴン
:エネルギー体とも記されていた、竜骨から炎が吹き出している火属性のアンデッドドラゴン。生命力そのものを焼くような、エナジードレインめいたダメージを与えてくる
新約22巻R(リバース)の神浄がどれに該当するかは不明。新約22巻の地の文に「竜ですらない」とあるため、成長して変質したか、本当に別物というパターンも考えられる。
補足
- 超電磁砲でこの力が発動した際、上条の目が赤く染まっていた。この描写は原作漫画の時点でもあったが、そちらは作画上の演出とも取れるような描き方であり、明確に赤く染まっていると分かったのはアニメが初である。また、ドラゴンのデザインを担当した木谷椎氏によるアニメ放送終了後に公開されたイラストでも目は赤くなっていた。以上の事から単なる充血ではない可能性がある。
- 実はアウレオルス戦の終盤、初めて『竜王の顎』が顕現する旧約2巻で上条当麻の目が赤く光っていたと思しき描写が295Pに存在している。『竜王の顎』がアウレオルスの『黄金錬成』によるものではなかった以上、この現象も実際に起きていたものである可能性が高い。
- 上記ツイートと同時期、荻野氏は鎌池ファンの考察ネタをリツイートした。内容は上条=ハディート説にも書いてある文と同様(後述)、「法の書」2章50節のハディートの「叫び」を引用したツイートだった。まさに「わが眼には赤色がひらめき~」。
- また色や属性が強調される点は、同作者の別作品「ブラッドサイン」の『未踏級』と類似している。
- 2020年5月19日、荻野氏がTwitterにてファンのイラストをRTした際に、『あの黒い球体の対処に八竜でも足りなかった場合、残りのドラゴン(掲載時に選ばれなかった八竜)も顕現した可能性があったかもしれない』という内容のツイートをしており、さらに『神様の数え方である「柱」という単位を使ってドラゴンを数えていた』など、また意味深な小情報が公開された。
神浄の討魔
詳しくはリンク先を参照。
第1巻から「神浄の討魔」として登場する用語で、読者からはドラゴン関係と推測されている。
そして新約22巻Rでは上条の右腕からドラゴンの姿・本質を持つ存在が出現し、アンナ=シュプレンゲルから「神浄の討魔」と呼ばれていた。
なお、上の画像のドラゴンはそれとは別に上条が外殻を纏った姿である。
上条=ハディート説
テレマ神秘主義の神格ハディートと絡めた有名な考察ネタ。新約22巻ではハディトと表記されており、実際の魔術関連書でもハディト表記が多い。
この神格と上条(幻想殺しや竜)には共通点が多く、黎明期より読者間では上条=ハディート説が支持を集めている。誤解されがちだがあくまでも有力説の一つのため、当然これ以外にも様々な可能性を考慮すべきではある。
共通点
旧約22巻ではテレマ思想を提唱したアレイスターが右腕、幻想殺し、神浄は十字教の尺度では説明不可能(ホルスの時代)?である事を示唆していた。
ハディートは〈法の書〉において「祓魔師」(1巻にて同一の表現)であり、「人間の心の内、そしてあらゆる星の中心核にて燃え上がる炎」(世界の中心点?)であり、さらに〈HADの書〉では「幻想を壊す者」(幻想殺し?)とも表現されている。
また各地に根付く蛇、竜信仰の流れで〈火の蛇〉(クンダリーニ)と同一視される。クンダリーニは蛇と喩えられるエネルギー体で、通常は人間の体内で眠っている。テレマなどの近代魔術では体内のチャクラを呼び起こし、クンダリーニを覚醒させる事が必須事項である。
さらに〈AL〉2章50節にはこうある。
50. Blue am I and gold in the light of my bride: but the red gleam is in my eyes; & my spangles are purple & green.
50. 己は青く,わが花嫁の光の中にあっては金色だ。そしてわが眼には赤色がひらめき、わがスパンコールは紫と緑。
この色は上記新約22巻リバースにおける、ドラゴンの色に対応していると見られる。実際、法の書の表紙には新約リバースのドラゴンと全く同じ彩色が採用されている。
また先述通り超電磁砲の作中で上条の目が赤く染まっているが、超電磁砲の担当編集者である荻野氏は、意図は不明ながら鎌池ファンが投稿した上記文章の画像付ツイートをリツイートしている。
四大元素の歪み、火と水の混線
同じく有名な考察ネタ。現時点で詳細不明な設定の一つ。
禁書では世界を回す歯車に限界が来ており、根源たる四大元素との対応、つまり天使の配置に歪みが起きている。この歪みはセレマの属性配置、主要な儀式「VelReguli」と全く同じ配置だったりする。
さらに火と水の混線も起こっているが、これも神秘思想の基本的概念である「火=男」(陽,男根)、「水=女」(陰,女陰)という解釈と一致する。
テレマの神秘的公式においてハディトないしはマスターテリオンが男性的な火であり、ヌイトないしはベイバロンが女性的な水、つまり水と火の混合に象徴される。
例えばセレマのVelReguliは
北・風 ヌイト
南・火 ハディート
東・地 マスターテリオン
西・水 ベイバロン
歪みが発生しない本来の4元素対応は、
北・地 ウリエル
南・火 ミカエル
東・風 ラファエル
西・水 ガブリエル
しかし禁書では、
北・風 ウリエル(セレマはヌイト)
南・火+水 ミカエル(セレマはハディート)
東・地 ラファエル(セレマはマスターテリオン)
西・水+火 ガブリエル(セレマはベイバロン)
鎌池がVelReguliや火と水(男女)の結合を意識して設定したかは不明だが、事実として属性配置と歪みは一致しており、禁書wikiの「四大属性」の記事でも長年に渡ってセレマとの共通点が掲載されている(ただ解説は省略されているが)。
その他のドラゴン考察
いっそ最初期の竜神伝説に回帰するのも有りだろう。ちょうど上条さんの従姉妹にも竜神乙姫という人物がいるし、八頭に関しても候補が2つある。その内の一つは未踏召喚://ブラッドサインにも神格級として登場している。
ただ八龍に関しても一応ハディート説で説明できなくもない。
〈ALの書〉2章15節より
15. For I am perfect, being Not; and my number is nine by the fools; but with the just I am eight, and one in eight: Which is vital, for I am none indeed. The Empress and the King are not of me; for there is a further secret.
15. というのも我は〈否〉なれば完全なのだ。我が数は愚か者によれば九だが、義しい者には我は八であり、八のうちの一である。これは核心を衝いている、というのも我は実はどれでもないのだ。女帝と王は我が属ではない。さらに秘密があるのだ。
もう一つ、竜には自然信仰の見地から「自然の化身」としての意味合いがあり、つまり一種の神なのである。伝説にも竜討伐後にその土地が衰退したというものもあり、幻想殺しは「地球、もしくは世界の復元能力」と推測する事もできる。
追:実際に世界を作り変えられる程の力を持った魔神によると「世界の基準点」「バックアップ」としての役割を持つらしく、竜との関連性は兎も角、この説は正解に近いのかもしれない。
関連項目
神浄の討魔 幻想殺し 神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの
※ここから原作最新刊のネタバレを含みます! |
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創約の第9巻にて、とうとう上条は自分の意志でこの力を振るう。
美琴の超電磁砲により右腕が引き千切られ、肩の断面から出現したのは───透明なドラゴン。
その時、上条の頭の中から、もう一人の少年の声が聞こえてきた。
『……良いよ』
『こっちだって、いい加減にムカついていたところだ。もう加減はナシ。テメェがやらなきゃ俺が勝手に表に出ていたところだぜえ!!!!!』
そして上条は己の目を赤く染めながら、呪いのように呟いた。
「……こんな右手がなければ」
この瞬間、ありふれた高校生はただの無能力者である事をやめた。
その力は、まさに次元が異なる。
まず上条自身の身体能力が向上し、たった一秒でローゼンクロイツとの全ての距離を詰め、デコピンのような些細な小突きでヤツを数十メートルもぶっ飛ばすほどの常人離れした速度と膂力を得た。
この状態の上条は超人と称され、人間としての限界を軽く越えている。
空間を支配する力もあり、ローゼンクロイツを殴り飛ばした後に上条が一歩踏み出した時は、空間がたわみ歪んで沈んだような現象が起きた。
もう少し強く踏み込んでいれば、空間が内側に向かって重力的な崩壊を起こして、取り返しのつかない大穴が空いていたかもしれない……と表記されている。
さらに、ローゼンクロイツが意図的に放った攻撃の流れ弾が上条とは関係ない所へ着弾しようとした瞬間、その攻撃は虚空に消えている。
ヤツが言うには「強き必殺の意志を込めた一撃以外は、意味と共に空間に呑まれて消失する」「確率論を無視して一律で不幸に見舞われる上条当麻は敵のラッキーパンチを、ローゼンクロイツは己の情念や遊び心に反する偶然的言動をそれぞれ嫌うため、結果このような歪みが生まれた」らしい。
この言葉を解釈するなら、上条当麻と敵対者の意志によって戦いの場の条件が変わるという事だろうか?
他にも、ドラゴンらしく光のブレス、もしくは蛇のような毒液を超高水圧で吐く、鋭い鱗の射出、周辺の環境に溶け込む事で視界から消える、トカゲの如く尻尾を身代わりにして一度だけ絶命を回避する、片翼も生やして風を生み出して気象操作を行う、自身の血に相手の知識を当て嵌めさせる事で魔術を引きずり出して自滅させる、ドラゴン自体が一時的に独立して動くなど、あまりにも多彩すぎる能力を見せつけている。
特筆すべき能力は従属化である。
王冠を載せた竜の王の『威圧』でもって、なんと生物だけでなく無機物に至る世界の全てを操り、従わせる事が可能。
竜王に従った物は、王の邪魔にならぬように自ら動き出す。ブレスが吐かれれば、その起動に合わせて壁や天井の着弾部分が分かれて避け、そして元に戻る。もちろん人間も、その場所から自然と距離を取る。
つまり流れ弾、人質、他者の命を一切考慮せずに力を行使できるため、この上条を止める枷は無いに等しい。
周囲の物を取り込む事で、より強力なブレスを放出できる。
その場合は上条自身の口で咀嚼する必要があるようで、創約9巻では病院地下にある医療廃棄物焼却炉……最大で摂氏3500度に達する特殊な大型電子炉を喰らって『電子により全てを焼き尽くす竜の閃光(マグネトロンドラゴンブレス)』を解放した。
『超電磁砲』で他のドラゴンを呼び出したような力も見られ、北欧神話のヨルムンガンドの重みを利用して止血を図っていた(ヨルムンガンドそのものを出現させたのか、あくまでも重量だけを再現したのかは不明)。
『橋架結社』の超絶者や、『黄金』との死闘を制して世界を科学と魔術に分けた『人間』アレイスター=クロウリーさえも圧倒した伝説の魔術師クリスチャン=ローゼンクロイツを相手に、ほぼ一方的に戦えるほどのあまりにも絶大な力だがリスクも存在し、それは上条の存在が危うくなるというもの。
作中では「幻想になる」とも「侵食されていく」とも言われ、その危険信号として上条の影が古ぼけた蛍光灯のように明滅する。
タイムリミットが来る前にローゼンクロイツを撃破できた事で、なんとか無事に生還できたが、もしも限界を迎えていたらどのような結末を迎えていたのか。
後に振り返った上条はこの力を「死へ向かう一本道」と認識しており、戦場に誰も残らない繋がる事のできない拒絶の道とも表現されている。
なお、この状態の時の記憶はあまり覚えていないようで、意識が朦朧としていたからなのか、それとも禁忌に触れすぎて脳が思い出す事を拒否しているのかは不明とのこと。
なんにせよ、上条はもう二度とこの力を使わない事を決めた。
あとかぎでも一回限りの反則とも言われているので、少なくとも上条自身の意志で『竜王の顎』が解放される事は今後ないだろう。