概要
宇宙植民地という意味が示す通り、地球から離れて宇宙空間に居住するための大規模な施設のことである。
地球上の人口爆発と資源枯渇等に対応する一つの方法として、人類を宇宙空間に移住させるアイデアとしてアメリカで発案された物を大本とする。
宇宙空間に人間が恒常的に居住するには、地球と同じ大気・温度・重力等の環境を整える必要がある。
必要な資材は低重力の月等から運んで宇宙空間に集めて巨大な構造体を建設し、中を空気で満たす。
問題は重力だが、一般には遠心力で代用することが想定されている。
例えば直径6kmの円筒が1分50秒で一回転すると、円筒の内壁にはほぼ1Gの重力が発生する。
建設予定地は、地球と月との引力が比較的安定して作用するラグランジュポイントが想定されている。
「宇宙空間に設置された、巨大ロボットが内側でアクション出来る巨大建造物」としてファーストガンダムの舞台に設定され、その後の宇宙世紀シリーズの盛り上がりからアニメファンには広く知られるようになった。
一方、英語圏では「植民地」という単語自体のマイナスイメージを拭う為か、「スペースハビタット(Space Habitat/宇宙居住地)」「スペースセツルメント(Space Settlement/宇宙居留地)」といった名称になっている。日米合作のGセイバーでも「セツルメント」に改められていた。
歴史
アメリカ合衆国プリンストン大学のジェラルド・オニール博士が学生たちとのゼミを行う中で、1969年に生まれたと言われる。
1974年にニューヨークタイムズがこのアイデアを掲載したことで一般に知られるようになった。
前述の通り地球における人口の爆発的増加・資源枯渇に対しての解答として注目されていたが、様々な技術的な課題や費用対効果の面から人口爆発の具体的な解決策であるとは言えず、冷戦後の宇宙開発投資の抑制・先進国の出生率低下等もあり、現在実現に向けたプロジェクトは具体化していない。
21世紀現在では理論上の存在として認識されている。
フィクションの世界においては、軌道エレベーターや宇宙戦艦などと同じくSFにおける代表的なガジェットとして、アニメや漫画、小説で積極的に用いられている。
また、作品によってはそれ自体を質量兵器やレーザー砲として用いる等、軍事方面で使用される場合もある。
種類
シリンダー型
ジェラルド・オニールによって発案されたタイプ。
直径6km、全長30kmの円筒型シリンダーであり、円筒を6つに区分して交互に人類が居住する陸地と巨大な窓とを配置する。
窓の外には大きな鏡を浮かべて太陽光を取り込み、その調整で昼夜や季節を再現可能である。
この円筒が1分50秒という高速で回転すると、先述の通り内壁にほぼ1Gの遠心力がかかるが、
円筒の回転中心軸付近はほぼ無重力となる。
『機動戦士ガンダム』から始まる、宇宙世紀シリーズに登場するコロニーといえば大抵はこれを指し、日本におけるスペースコロニー=シリンダー型というある種の常識を定着させた。
ベルナール球
J.D.ベルナールによって発案されたタイプ。
直径1.6kmで2万人から3万人が居住できる中空の球で、空気が満たされ、太陽光は外部に設置された鏡にて反射され、極付近の大きな窓から取り込まれる。
後にスタンフォード大学で再設計された案が提出されており、再設計案は島1号、島2号と呼ばれる。
ガンダムシリーズではシリンダー型の前の旧型のコロニーとして認識されている他、『ソニックアドベンチャー2』のスペースコロニー・アークもこのタイプに該当する。
スタンフォード・トーラス
スタンフォード大学で設計された型。
トーラス(ドーナツ)の名が示す通り、環状の構造体を回転させ、トーラスの外側に遠心力で重力を発生させる。
日光は鏡を用いてトーラスの内側から取り入れられる。トーラスと中央の構造体(ハブ)は多数のスポークによって繋がれている。スポークはトーラスとハブの間を通じる通路としても機能する。
また、ハブはステーションの自転軸上にあるため、人工重力が最も小さく、無重力での工業製品の製造や宇宙港として用いられる。
主に『新機動戦記ガンダムW』や『スーパーロボット大戦OG』等で用いられているタイプ。『機動戦士ガンダムUC』において、宇宙世紀0001年の開始が宣言された「ラプラス」もこれに該当する。
小惑星型
小惑星や小型衛星の内部をくり貫き、内側を居住地区にする物。
建造の為の資材を自己調達出来る為、遠方から資材を運び入れる為のコストが抑えられるというメリットがある。
こちらも『機動戦士ガンダム』において宇宙要塞「ソロモン」や「ア・バオア・クー」として、登場している。
その他
「機動武闘伝Gガンダム」の世界では人工重力が発明されている為、かなり好き勝手なデザインの宇宙都市が多数建設されている。人工重力が存在する世界観(マクロスシリーズ、宇宙戦艦ヤマト、等)では形態にこだわる必要は無い。
コロニー公社(宇宙世紀)
上述の、『機動戦士ガンダム』から始まる宇宙世紀シリーズに登場する、半官半民のNPO。半官のためNGOではないが、表向きは地球連邦政府の政策(を含めたあらゆる組織の意向)とは関係なく、人口増加(予測)に従ってコロニーの建設計画を立案し、維持運営を扱う企業である。
が、実際には公社総裁は政府高官の天下りポストとなっており、「コロニー新設・維持」の名目でスペースノイド(宇宙移民者)から徴収した多額の税金を、一部とは言え地球の再開発に充てるなど、上層部は癒着が著しい。この他にも、コロニー居住者に、ローテーション制のシステム・構造体(外壁など)の簡易メンテナンスをも課してもいるため、スペースノイドからは著しく嫌悪されている。
しかしながら、スペースコロニーという「新たな大地」を製造できる技術を持った数少ない企業体であり、実地で働いている職員はむしろ開拓者精神が旺盛な人物が多く、自分の業務に自負もある。
また、本格的なメンテナンス技術も公社下請け企業がほぼ独占しているため、コロニー公社抜きでは様々な弊害が生じるのも確かであり、デラーズ・フリートのように、公社を攻撃した組織はやはり「非道なテロリスト」という烙印を押される(デラーズがコロニー落としのために奪った「新サイド6」用コロニーは、難民達の居住区となる予定だった)。
問題点
人工物である為、どうしても欠点が出てくる。様々な理由から実現が難しいと考えられているが、ガンダムシリーズのみならず、科学考証よりも娯楽性を優先するスペースオペラでは物語の題材としてよく活用されている。
- 耐用年数がある
人工物には必ずつきまとう。大規模になればなるほど深刻化しやすい。特に資材の調達に纏わる資源の確保が必要となる。もしも修理不可能として放棄された途端に、住民は全て難民になる。フィクションでもジュドー・アーシタの故郷は戦火の影響もあって老朽化が進行していたが、コロニー住民の税金で本当に保守点検が行われていたかどうかハッキリしない。
- 大気の自浄作用が地球と比べて低い
空気清浄を行う機器や設備が不可欠であり、大気汚染の原因となるCO2を発生させる内燃機関や焚火などがコロニーでは使えない。工場排気の煙突、ガソリンエンジン、石油ランプ、煙草、といった類の品物が存在しない世界になるのかもしれない。
- 宇宙放射線の遮断
宇宙空間には多数の放射線が飛び交っているため、遮断する技術が無ければ話にならない。とはいえ宇宙線が人体にどういう影響を与えるのかまだハッキリわかってないので、スペースオペラではしばしば無視される要素のひとつ。珍しいところだとゲーム『ポリスノーツ』は、コロニーにおいて宇宙線被爆は防げないもので、住民は高度な医療技術によって病気を絶えず治し続けながら暮らさなくてはならないと想定しており、それゆえに医療企業が大きな力を持つ世界としてスペースコロニーを描いている。
- 防災
莫大な人数を収容する人工物である以上、事故・テロリズム・戦争の被害には極端に弱い。穴が開けば空気が宇宙へ吸い出され、住民の命に関わる事態に直結してしまう。住民は非常事態に備えて、宇宙空間への避難訓練を義務付けられるかもしれない。ガンダムシリーズでも戦闘によって穴が開くなどの被害(そしてそれを防ぐための駆け引き)はお約束の展開である。
- 疑似重力の問題
回転筒の遠心力を重力として活用する場合、落下物にはコリオリの力が働く。この為、スペースコロニーの内側で野球をするとボールが変な方向へ飛ぶと考えられている。自動車は右折時と左折時に遠心力のかかり方が変わるかもしれない。コロニー住民が行うスポーツは、地上人の発想とは少し異なってくる。
これを描写するのが面倒だから、人工重力が実用化されている場合も多い(特に実写SF作品では、撮影の手間を省く為に「重力制御スイッチオン」の台詞だけで片付けるのが定番である)。
- 秩序
地味な問題だが、閉鎖的な生活圏が完成した状態で、軍事独裁政権による鎖国状態が発生すると、世代を重ねるうちに文化風習が変化してくる可能性もある。下手をすれば迷信に囚われた中世社会に逆行するかもしれない。木連やヴェイガンのような存在は、SF全般では珍しくない。そこまで行かなくても、宇宙世紀では地球居住者とコロニー住人の感情的な対立が度々題材に活用されている。
そこまでして宇宙に住む必要があるのか?
元来は1960年代〜1970年代頃に議論されていた「将来は人口爆発や環境悪化で居住地が無くなるのではないか」という疑問に対するひとつの提案であるが、実際の21世紀においては、むしろ少子化による人口減少のほうが問題視されており、さらに建物の高層化などによる土地利用の効率化によって、都心回帰が進み郊外の土地が余っているという現実がある。
これは経済が十分に発展した国に共通する傾向であり、いまは人口増加が著しい発展途上国も将来的には同様の状況になることが予想され、最終的に世界人口は100億人をピークとして減少に転じると推測されている。際限なく増加し、宇宙へと生息域を広げていくという人類の姿は、想像しづらくなってしまった。
また21世紀の技術をもってしてもなお、宇宙は遠い場所である。スペースコロニーを一から作るよりは、シベリアや砂漠、南極などのエリアを可住化する方がはるかに現実的である。何なら『北斗の拳』よろしく放射能などで汚染された地上さえ、宇宙空間よりはよほど住みやすい(地下都市や地上にドーム都市を作るなどの手がある)。地球環境の悪化が叫ばれて久しいが、少なくとも現在は幸いにして、スペースコロニーによる宇宙進出に迫られるほどではない。
スペースコロニーのアイディアが盛んに提案された時代は、宇宙と付けばなんでもウケた宇宙ブーム時代。月や火星への移住計画もそうだが、そんな時代のバラ色の楽観的な未来都市のビジュアルに過ぎなかったのである。
冷戦終了に伴う宇宙開発予算の減少はフィクションにも影響を与えている。2011年に放送された機動戦士ガンダムAGEでは、過去のガンダムシリーズを知らないKIDS層が「スペースコロニーでの宇宙生活」にあまり共感を持てない(宇宙生活に興味が無い?)というデータもあったらしい。
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