隠岐の国たく火の里にたかぬ火を 備後の木梨にいまぞたくろう
(後鳥羽上皇)
概要
備後の国御調郡(広島県南東部。現在の尾道市を中心とする地域に当たる)の海上に現れるという怪火。同様のものに不知火がある。夏から秋にかけての夜中、二つ並んであるいは連なって出現する。くらべ火ともいわれる※1。
”たくろう”という名も、比べるという意味の古語「た比ぶ」に由来するものと考えられている。
概要上の和歌は、承久の乱の後、配流となった後鳥羽上皇が備後を通過した際、海上の不知火を詠んだものと伝えられている。尾道から高野町にかけては、後鳥羽上皇に関する伝説・伝承が多く存在する。
柳田國男は『妖怪談義』の中で、『藝藩通志』から記事を引き、安芸の国~備後の国の境の航路にある「京女郎」「筑紫女郎」という岩の話を上げて通行の舟の信仰との関連を示唆している※2。
非業の死を遂げた2人の女が岩と化したという。
このほか、海上で見られる鬼火として有名なものには「セント・エルモの火」がある。これは嵐などの悪天候時に、船のマストの先端など尖った部分が青白く発光する現象で、シューシューという異音を伴う。物理学的には静電気による放電現象の一種とされる。
同様の現象がもとになったと思われるエピソードが、ギリシャ神話の一つ、金羊毛皮を求めて旅立ったアルゴー号の物語の中にも見られる。乗組員のカストル&ポルックス兄弟の頭上に火がともったところ、嵐が静まったという。このエピソードから、兄弟は船乗りの守護神とされることになった。
※1 多田克己 『幻想世界の住人たち4 日本篇』 文庫版p269
※2 柳田國男全集 第20巻 p392 「火の数は二つといふから起りは『くらべ火』であらう」とある。
創作におけるたくろう火
水木しげる作品
- 妖怪画
3つの骸骨のような異形の顔を持つ火で描かれる。点描で描かれた複雑な模様も必見。
やのまんブックス発行の「鬼太郎と行く 妖怪道五十三次」では「由井」にて足長手長の周りを飛んでいる。
漫画ではねずみ男と組んだ「妖怪クリーニング」が大繁盛し、分身を製造して日本征服を夢見たが、鬼太郎の妖力を吸収しようとしたので失敗した。
『働け!働け!この地に炎の王国を作るのだ、そして俺達は一生遊んで暮らすのだ、フハハハハハ!』
CV:龍田直樹
アニメ3期では85話に登場。目玉親父曰く「怠け者で、楽しい場所を乗っ取る悪党妖怪」。3つに分離可能で、それぞれが独立した動きができるが、台詞は3つの顔が同じ台詞を喋る。また、一つは明らかに龍田氏ではない女性の声がする。
互いの境遇を羨んでいた人間の天童星郎と河童の三吉に「体を入れ替えてやる」という願いを叶えると共に「河童族へのお近づきの印」として渡した酒の小瓶に自分の体を入れ、水中の先にある河童天国へとまんまと運ばせた。そして、河童天国を占領し、河童と星郎を奴隷のようにこき使って「炎の王国」を作ろうとする。
そんな時、人間の生活に嫌気が差してきた三吉の話を聞いて鬼太郎が河童天国へとやってきた。3つに分離していたたくろう火は鬼太郎を見つけると見せしめとばかりに河童達に炎を吹きつける。鬼太郎は手も足も出ない状況だったが、その時オカリナで呼んでいたさざえ鬼、かわうそ、ぬれ女、がんき小僧が到着する。
「動くと河童共を皆殺しだぞ!」と脅すたくろう火だったが、4匹は脅しをガン無視して空中に霧を噴出し、雨乞いをし始める。すると河童天国は大雨となり、河童達は一気に元気を取り戻し、怒り狂ったたくろう火(の一部)は鬼太郎と一騎打ちに。
火なのに物理攻撃が効いてしまうという困った性質を持っていたためにオカリナの剣で滅多打ちにされるが、たくろう火も負けじとリモコン下駄を跳ね返して体当たりを繰り出し、分かれていた火とも合体して鬼太郎に火を吹き付ける(この辺りの戦闘シーンは見もの)。しかし、火はオカリナの剣を回転させて裁かれた上にムチで縛り上げられてしまう。それでも逆に縛られたまま鬼太郎を引きずるが、河童一族たちが鬼太郎の手伝いに来たことによってたくろう火の勢いが止まってしまう。
そして遅れて鬼太郎を手伝おうとしたねずみ男が勢い余って河童達にぶつかってしまったことによってたくろう火を捕まえていた鬼太郎たちは水へ落下。たくろう火も一緒に落下し、うめく様な叫び声を上げながら水中で消滅した。怠け者妖怪の炎の王国の夢は叶わずに終わったとさ。
3期アニメを元にしたSFCのゲーム「復活!天魔大王」では4-1面に2体登場する。大きな炎の状態で波状に動き、鬼太郎が近づくと一瞬三つの顔を見せながら止まる。更に近づくと三つに分裂してしばらく円状に回る。攻撃方法は分裂と体当たりだけだが、攻撃が通るのは何と顔を見せる一瞬だけ。顔を見せて止まった後に少し判定が残るとはいえ、攻撃のチャンスが少なく、足場の悪さもあって中距離攻撃がデフォルトの鬼太郎ソロではなかなか厳しい相手。ぶっちゃけボスの八岐大蛇より強い。
「ともだちを返せええええええ!!」
CV:吉田小南美
一方、6期では、心優しい寂しがり屋の妖怪として登場した。
- 本来”二体で一体”であるはずのたくろう火が一体のみでいることで、彼の孤独が強調された。また、本来は発光するだけのたくろう火だが、3期同様強い火力を持つ設定となっている。
近づくものを全て燃やしてしまうたくろう火は、その能力ゆえに常に一人ぼっちで、人付き合いが苦手になっていた。その孤独感からねずみ男につけこまれ、「ともだち第一号になってやる」と舌先三寸で丸め込まれて遊園地でタダ働きさせられる。
ウェブニュースで新アトラクション「BIBIBI FIRE」を自慢するねずみ男の取材報道を見た鬼太郎親子とねこ娘は、また悪巧みをと早速説教に出向く。ねずみ男を問い詰める鬼太郎たちを見たたくろう火は、ねずみ男はともだちで自分は手伝っているだけ、騙されてなどいないと反発する。しかしねずみ男は、人間に正体を知られないようにとたくろう火を閉じ込めておきながら、自分は毎晩のように街へ繰り出し、アトラクションの売り上げで豪遊を繰り返していた。
退屈していたたくろう火は、こっそり部屋を抜け出した際、同じようにねずみ男プロデュースでこき使われていたロボットで、同じように人付き合いの苦手なピグと出会う。
ピグはたくろう火の炎に触れても燃えることなく「あったかい」と笑ってくれた。感激したたくろう火とピグはともだちとなり、励まし合って芸を磨き、やがて二体のアトラクションは大盛況となった。
しかしねずみ男はピグに見切りをつけ、舞台をリニューアルし、ピグをスクラップにしてしまう。真のともだちを失ったたくろう火は怒りに我を忘れて暴走し、ねずみ男ばかりか遊園地の従業員を次々に襲って飲み込み、建物に火をつけた。
事態を察して駆けつけた鬼太郎だが、たくろう火が善良な妖怪であることを知っているため戸惑う。そこへ突然雨が降り出し、火を消し止め、たくろう火に飲み込まれた人々を解放する。
雨を降らせたのは雨降り小僧だった。実はピグは雨降り小僧が演じていた着ぐるみで、ともだちを騙した形になったことが申し訳なくて、姿を隠していたのだ。ともだちを取り戻したたくろう火と雨降り小僧は、互いを許し合い、友情を確かめ合った。
「彼らならうまくやって行けそうですね」と微笑む鬼太郎に、目玉おやじも「違うからこそ助けあえる、そういう絆もあるんじゃのう」と頷くのだった。
西洋妖怪編では西洋妖怪軍団によって燃えたゲゲゲの森を鎮火する雨降り小僧の傍にいた(雨に弱いので唐傘お化けの下にいた)。