だから滅びた
だからほろびた
偉そうな事を言いやがって……
貴様らサイヤ人は罪の無い者を殺さなかったとでも言うのか?
だから滅びた…
俺が滅ぼしたんだ
サイヤ人は何となく気に入らないんでね……
今度はこの俺が貴様を滅ぼす
「だから滅びた」とは『ドラゴンボール』のナメック星での最終決戦において、フリーザの問いに答えた孫悟空の発言。
名セリフとして知られている反面、前後のやり取りや過程が割と複雑であるため、解釈の仕方でよく論争になりやすいセリフでもある。
①貴様らサイヤ人は罪の無い者を殺さなかったとでも言うのか?
フリーザのこの問いは、悟空の「罪も無い者を次から次へと殺しやがって」というセリフへの反論である。
悟空は罪も無い者を傷つけるような性格ではなく、フリーザの悪行を咎める正義感も持ち合わせているが、無自覚の内に育ての親をサイヤ人の力で殺害してしまっている。
それを知ってしまったためか、自身もラディッツ襲来から続くサイヤ人による悪行の被害者でありながら、自分も同じサイヤ人であることを受け入れ、ベジータの無念を理解して「サイヤ人の誇り」を抱くという二律背反のような立場をとっている。
クリリンを殺され「フリーザに仲間を殺されたサイヤ人」になった悟空は、自身の怒りに正義感を上乗せしてフリーザの悪行を咎めた。
それに対してフリーザは、サイヤ人が悪行を咎める立場にないことを指摘しているセリフである。
アニメ『ドラゴンボールZ』では「罪の無い者を殺しただと?貴様らサイヤ人のしてきた事が正しかったとでも言うのか?」とセリフが改編されている。
一見するとこのフリーザのセリフは自然な応答に見えるが、悟空がフリーザ個人の悪行を指摘したのに対して、フリーザは悟空個人ではなくサイヤ人という種族全体の所業をあげつらい、それを種族の代表者でもなんでもない、ただの一サイヤ人にすぎない悟空に対して問いただしている。
言い換えれば、
①サイヤ人=悪党が多い②悟空=サイヤ人という情報から、③悟空=悪党であり他人のことをとやかく言う資格はない、という稚拙な三段論法をしているのである。
幼いころから地球に飛ばされ、両親も知らずサイヤ人社会と隔絶された環境で育ってきた悟空に対して、まったく悟空と無関係に行われてきたサイヤ人の所業の責任を問うのはとばっちりもいいところであり、何より少年期の時から悟空をずっと見てきた読者にとって、悟空が作中描写されてきたナッパやベジータといった罪のない人々を殺す非情なサイヤ人とは全く違うことは自明の理であることを考えれば、フリーザのこの反論は全くの詭弁であり、論点のすり替えもいいところである。
とはいえフリーザ側の事情に立ってみると、フリーザは地球育ちのぽっと出のサイヤ人の過去や素性など知る由もない。
そのようなどこの馬の骨かもわからないサイヤ人の素性を類推するには過去にフリーザが知り合った複数のサイヤ人や種族の特性から推察するほかなく、上記の三段論法を使った主張をするのもやむを得ないところではあるが
②だから滅びた…
そんなフリーザの反論に対しての悟空の返答が「だから滅びた」である。
悟空の中でサイヤ人の「誇り」と仲間を殺された「怒り」と悪を咎める「正義」は別々に存在しており、サイヤ人の悪行は否定せず、滅ぼされたことを因果応報として受け止めている。
③俺が滅ぼしたんだ
対してフリーザは「俺が滅ぼした」理由は「気に入らない」と言い放つ。
サイヤ人が滅びたのは「悪は必ず滅びる」などといった根拠のない因果ではなく、強者が力を振るった結果に過ぎないと断言している。
ただしフリーザがサイヤ人を気に入らないのは「何となく」ではなく、その残忍性故の「厄介さ」と成長性を踏まえた「恐怖」が真の理由であり、戦闘民族として非道な侵略行為を繰り返した結果、サイヤ人という種族全体が「脅威」と見做され排除されたのは、善悪論を踏まえなくても成り立つ因果関係である。
④今度はこの俺が貴様を滅ぼす
悪びれもせずサイヤ人を滅ぼしたことを語るフリーザに、悟空は容赦なく「滅ぼす」と宣言した。
強大な力を思うがままに振るい続けたフリーザは、より強大な力に目覚めた「超サイヤ人」に滅ぼされるのが宿命。
フリーザは滅びるべき「悪」であり、サイヤ人の誇りを汚した「宿敵」であり、何よりも「クリリンの仇」なのだから、悟空が容赦をする理由は元より一切なかった。
結論
上記の内容を元にこのシーンにおける舌戦を補足すると、
「罪も無い者を次から次へと殺しやがって極悪人め、俺は貴様を絶対に許さない」
↓
「極悪非道な戦闘民族のサイヤ人が何を言うか、それとも貴様らサイヤ人は罪の無い者を殺さなかったとでも言うのか?」
↓
「そうだ、サイヤ人は非道な連中だった。だから因果応報で滅びた…」
↓
「その理屈は関係無いね、サイヤ人なんかよりはるかに強い俺が自らの手で滅ぼしたんだ。サイヤ人は何となく気に入らないんでね……」
↓
「そうか、なら今度は貴様なんかより更に強いこの俺が貴様を滅ぼす事になるが文句は無いな?」
となる。
より簡潔に言うなら、善悪の価値観を以て咎められた事に、強ければ何をしてもいいと返し、それなら俺の方が強いから大人しく死ねと結論付けているのが一連の台詞である。