概要
概念としての大元はヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキーが説いた神智学に登場する「古代叡智の大師たち(Masters of the Ancient Wisdom)」である。
メンバーも引き継いでいるが、ブラヴァツキー夫人の著作のみを重んじる本家神智学グループからは「大師」たちの真の姿、在り様を歪曲したものであると批判されている(リンク)。
本家側からすれば、分派の時点で曲げられてしまった概念からの三次創作、という形になる。
アセンデッドとはアセンション(昇天、上昇)の動詞形ascendの過去形。彼等彼女等が霊的・超自然的な高みに登った存在である事を表わす。
歴史
ヨーロッパで悠久の時を生きるとうそぶく法螺吹きとも語られたサンジェルマン伯爵は、ブラヴァツキーにとっては霊的な真理を修め高みに登った賢者であり、彼女は彼についてのいくらかの情報を書き加えた。
この時点では個人名すら不明であったが、アリス・ベイリーや伯爵と会ったと主張するチャールズ・W・レッドビーター(リードビーター)のような分派の祖たちによって人物情報が加えられた。レッドビーターは容姿や身なりについての詳細な記述を残した。
ふたりは神智学協会のかつての主要メンバーであったが、外部の読者層の中からもサンジェルマン伯爵に新たな情報を加える人物が出現することになる。
アメリカ合衆国カリフォルニア州のシャスタ山のふもとに住んでいた鉱山技師ガイ・バラードとエドナ・バラード夫妻である。ふたりは神智学とオカルト思想の書物を広く読み込んだ。
ガイ・バラードはシャスタ山でハイキングしていた時に、若い男の姿をしたサンジェルマン(英語読みで「セント・ジャーメイン」)伯爵に会ったと主張。バラード夫妻とその息子エドナ・エロス・”ドナルド”・バラードと共に伯爵の唯一の「認定メッセンジャー」を自称した。
伯爵を教えを受けたと主張するガイはゴドフリー・レイ・キング(Godfré Ray King)のペンネームで後世の神智学派生団体、ニューエイジに大きな影響を与える「アイ・アム運動」の書籍を執筆・刊行した。
アセンデッドマスターはアイ・アム運動が初出の語であり、サンジェルマン伯爵などの「マスター」たちはこの存在であると説かれた。
リードビーターの著作で登場した「グレート・ホワイト・ブラザーフッド(Great White Brotherhood、大白色聖同胞団)」の語はアイ・アム運動書籍に取り入れられた事で知名度を上げた。
「アセンデッドマスターの教え(Ascended Master Teachings)」とも名付けられたこのスピリチュアル運動は、別個でマスターとつながったと自称する更なる分派の祖たちを生む事となった。
その一人エリザベス・クレア・プロフェットの著作によって「マスターたちの過去生」も設定されていった。
「アセンデッドマスターの教え」運動において、その協力者に宇宙の存在も含まれる形となった。
この背景もあってかニューエイジ側ではさらに「アシュター・コマンド」といった霊的な宇宙人集団の同盟者と見做されるようになる。
「古代叡智の大師たち」との違い
本家神智学の「古代叡智の大師たち」はヒマラヤに住む。超常的な力は持つがその肉体は生身である。
ブラヴァツキーは生身の存在が「昇天、上昇」するといった概念を「世界と同じくらい古い寓話」と呼んで否定している。
彼女の弟子のアルフレッド・パーシー・シネット(APシネット)に対して「モリヤ」という大師が送ったとされる書簡では自分達が「架空の人格神」のような力を持つ事を否定し、もしそれを持っていて、なおかつ不変普及の法則が「玩具」のようであったなら、自分達は地球をアルカディアのようにしていたかもしれない、としている。
「大師」たちの力は限られており、宇宙の法則内に収まるものである、というのが本家の神智学の見解である。
神智学協会から分派したレッドビーターは、サンジェルマン伯爵が(ブラヴァツキー夫人が否定した)儀式魔術を行うという話をしており、「大師」概念は本家→神智学分派→「アセンデッドマスターの教え」運動→ニューエイジに引き継がれるにあたって段階的な変化を遂げていったと言える。
主なアセンデッドマスター
ブラヴァツキーの著述から「大師」だった存在
- モリヤ
「古代叡智の大師たち」と「アセンデッドマスター」双方の代表格。椅子に座るヘレナ・P・ブラヴァツキーの後ろにモリヤ、クートフーミ、サンジェルマン伯爵が映ったものと主張される写真が残っている。
後世に、おそらくニューエイジ支持者によってエル・モリヤ・カーン(El Morya Khan)というフルネームが定められた。
- クートフーミ
綴りは「Koot Hoomi」は略称でマスターKHとも呼ばれる。別表記Kuthumiから日本語では「クスミ」「クツミ」とも表記される。
後世に、おそらくニューエイジ支持者によってクート・フーミ・ラル・シン(Koot-Hoomi Lal Singh)というフルネームが定められた。
- サンジェルマン伯爵
詳細はサンジェルマン伯爵を参照。
派生運動・ニューエイジ出身
- バラード夫妻
「アセンデッドマスターの教え」信奉者によって、ガイ・バラードとエドナ・バラードは死後アセンデッドマスターになったと信じられている。
マスターとしての名はアセンデッドマスター・ゴドフリ(Ascended Master Godfre)、アセンデッドレディマスター・ロータス(Ascended Lady Master Lotus)。
夫ガイのペンネームと、妻エドナのペンネーム「ロータス・レイ・キング(Lotus Ray King)」が名前の由来となっている。
古代神話・伝統宗教出身
- サナトクマラ
メイン画像。神話出身のアセンデッドマスターの中でも高位の存在。日本のスピリチュアル書籍では「サナート・クマラ」とも表記される。
インド神話におけるヴィシュヌの化身たる四童子チャトゥルサナの一人サナト・クマーラに起源を持つが、ヴィシュヌの化身とはされない。
三人の兄弟達と共にブラフマチャーリヤ(生涯の禁欲・独身の誓い)を立てているため子も孫もいない原典のサナト・クマーラと異なり、妻子と孫がいる。
ブラヴァツキー夫人によるとキリスト教神話における堕天使ルシファーとされた「炎の主方(Lords of the Flame)」という存在の一つである。この段階では「大師」とは明言されていない。
リードビーターによって「グレート・ホワイト・ブラザーフッド」のリーダーとされた。
彼とアリス・ベイリーがサナトクマラの出自として金星を定め、そのエーテル層から地球に来訪したと位置づけた。
「アセンデッドマスターの教え」運動やニューエイジではレディマスター・ヴィーナス(Lady Master Venus)という妻がいる。
ふたりの間にはレディマスター・メタ(Lady Master Meta)という娘もいる。彼女がササン朝ペルシアで受肉して活動していた時代にもうけた息子がマスター・チャ・アラ(Master Cha Ara)。
- イエス
宗教史を代表するビッグネームの一角ナザレのイエス。神智学協会二代目会長アニー・ベサントとレッドビーターが1913年に刊行した共著『人間 - どこから、どうやって、そしてどこへ(Man: Whence, How and Whither )』において「大師」に加えられ、「アセンデッドマスターの教え」運動において「アトランティスの皇帝」等の過去生が加えられた。
- クァン・イン
綴りはKuan Yin。大乗仏教における菩薩のひとり観世音菩薩。「アセンデッドマスターの教え」運動で追加された。原典では男性の尊格だが、女性のマスターとして認識される。
背景として東アジアの文化で広く中世的・女性的存在として表現され、道教に取り入れられた慈航真人(慈航道人)が明確に女性となっている事に影響されているのかもしれない。
「アセンデッドマスターの教え」やニューエイジを発展させた米国人が、移民が信じる中国仏教や道教経由の情報からクァン・インのイメージを再構築したというのはありえる話である。
関連タグ
ハイエロファント:ブラヴァツキー夫人がサンジェルマン伯爵に教えを授けた存在として言及。
金星人:サナトクマラ周辺の金星の設定が関連。金星についての科学調査が進み神秘性が剥がれて以降はプレアデス人に「霊的に進んだ宇宙人」の座を譲った。