概要
『イチケイのカラス』は、モーニングで2018年24号から2019年14号まで連載されていたリーガルサスペンス漫画。
2021年に月9ドラマとして実写化。東京地方裁判所第3支部第1刑事部(通称:イチケイ)を舞台に、主人公の刑事裁判官・入間みちおの自由奔放で型破りな裁判に振り回されるも真実をつかもうと奔走するイチケイメンバーの活躍が描かれる。主演は竹野内豊、ヒロインは黒木華が務めた。主題歌は、和楽器バンドの「Starlight」。
原作漫画では主人公は特例判事補の坂間真平であるが、テレビドラマ化するにあたり、原作者了承のもと、原作漫画で脇役であった入間みちおを主人公に据え、小太りでメガネをかけた中年裁判官という風貌を竹野内のようなおしゃれ髭を生やすイケおじ裁判官に変更し、坂間真平も黒木がヒロインを担当するにあたって女性の坂間千鶴に人物設定が変更されたうえ、物語が再構築されている。
2023年に映画化。映画では、岡山県が舞台となっている。映画版主題歌は、Superflyの「Farewell」。
登場人物
- 入間みちお(演:竹野内豊)
イチケイの判事。元弁護士の異色の経歴を持つ。原作では小太りで眼鏡をかけた男性だったが、ドラマ版ではちょび髭を生やしたイケメン判事に変更。趣味はふるさと納税をすることで、机の周りは返礼品で溢れかえっている。
1人当たり250件前後の裁判を担当し迅速かつ効率的な処理が求められる刑事裁判官でありながら、自らの足で現場に赴き、マイペースで事件を徹底的に検証する。しがらみや偏見、先入観に一切とらわれないことから弁護士、検察の双方から恐れられている。そのため、彼が裁判長を務める裁判では毎回のごとく「職権を発動します!」という言葉と共に裁判所主導の捜査がまかり通ってしまっている。
彼のファンクラブ的なものとして、傍聴マニアたちによる「みちおを見守る会」が結成されており、度々職権発動の場面が劇画風に描かれSNSに投稿されている。彼ら曰く、「みちおの裁判は面白い」らしい。(なお、演者は芸人がほとんど。)
元々老舗旅館の跡取り息子として生まれたが、両親が経営悪化改善のための苦肉の策として産地偽装を行っていたことが従業員の告発によって発覚。みちおも証言台に立ち、真実を告白したことで真実の追求に意義を見出し、高校を中退。働きながら司法試験に合格し中卒の裁判官という異例の経歴となった。
ドラマ最終回では、これまでの公判を乱しまくった諸々の責任を負わされ、熊本地方裁判所第2支部への異動を経て最終的に岡山地裁秋名支部に異動となった。
なお、月9ドラマ『女神の教室』の主人公・柊木雫と面識があり、一緒に公判を担当したことがある。
- 坂間真平
本作の主人公。武蔵野地方裁判所第一刑事部(通称:イチケイ)に配属された特例判事補。エリート意識が高く生真面目だが、怒りっぽい。周囲から「THE裁判官」と揶揄される。
ドラマ版では、坂間千鶴(演:黒木華)へと人物設定が変更され、女性判事となっている。だが、堅物な性格は原作通りであり、エリート意識が高く、冗談が通じないタイプなのも同様。みちおと同じ裁判官宿舎に住んでいる。「みちおを見守る会」からはブルドーザー裁判官などと呼ばれており、「面白くない」「つまらない」と評されているため少々気にしているようである。
映画では、「他職経験制度」で弁護士へと転身しており、みちおの赴任先の隣町・日尾美町で活動していたため、とある事件でみちおと再会することになった。
- 駒沢義男(演:小日向文世)
イチケイの部総括判事。任官から30年以上、刑事事件一筋のベテラン判事。物腰柔らかで温厚な人物。ただし、他者に迷惑をかける悪辣な人間には鋭い皮肉を交えながら丁寧な口調で諭す。
みちおが弁護士から裁判官に転身するきっかけとなった12年前の裁判に関わり、みちおを裁判官に誘った張本人。
スマホゲームにはまり、課金の原資にするために自著の売り込みに熱心。
SPドラマ・映画でもイチケイに残留している。
- 川添博司(演:中村梅雀)
イチケイの主任書記官。自称「ついていない男」。公判の検証の際の実験台にされたり痴漢冤罪に遭ったりと災難の多い人物。離婚歴あり。
同期のほとんどが管理職の中、自身が出世できないのはペアを組む裁判官の引きが悪く、みちおと組んでいることから評価が低いためと考えており、イチケイは自分の墓場で、このまま滞りなく定年を迎えることができればとネガティブ思考に陥っている。
ギターが趣味で、ついてない出来事にあうたびに「シブの歌」(渋々と地裁支部を渡り歩く裁判官の悲哀を歌った歌)を歌っている。
SPドラマでは、熊本地方裁判所第2支部との書記官トレードが成立したことで熊本地裁第2支部へ異動した。本人の強い希望によるものだったが、その理由は「離婚して熊本に帰っていた元妻から『娘のみどりがグレたから何とかして欲しい』と娘を更生させるように頼まれたから。」というものだった。一応娘との関係は修復したもののみどりは上京してしまい「元妻と2人きりで同じところにいるのは気まずい」と異動を申し出ているが、そんなすぐに異動できるはずもなく映画ではそのまま残留することとなったため、未登場。
- 石倉文太(演:新田真剣佑)
イチケイの書記官。人懐っこい性格でみちおに振り回されるイチケイメンバーの橋渡し役になる。実家は『そば処いしくら』。元傍聴マニアで趣味が高じて書記官となった。
千鶴に好意を抱いており、彼女に思わせぶりな素振りを見せるが、生真面目な千鶴に毎度怪訝な顔をされる。
同級生で初恋相手でもある馬場恭子(演:生田絵梨花)からは「文ちゃん」と呼ばれている。
映画では、真剣佑氏のスケジュールの都合もあり出演しておらず、海外留学中という設定。奇しくも、ドラマ放送後に真剣佑氏もハリウッドに本格進出している。
- 浜谷澪(演:桜井ユキ)
イチケイの書記官であり、三つ子の母。みちおを「残念なイケメン」と評する。SPドラマでは双子の出産により産休及び育休を取得しており休職中。映画では、書記官組の中で唯一イチケイに残留した。
- 一ノ瀬糸子(演:水谷果穂)
イチケイの新人女性書記官。映画では、伊織と結婚しているが伊織の異動に伴い岡山県に移住する羽目に。
- 日高亜紀(演:草刈民代)
最高裁判所判事。女性初の最高裁判所長官に最も近いと言われる人物。
千鶴の司法研修所時代の上席教官で、郷里が同じ長崎県かつ女性ということから彼女のことを何かと気に留めている。みちおが弁護士から裁判官に転身するきっかけとなった12年前の裁判の裁判長で、みちおが要請した重要参考人・志摩総一郎の証人尋問を関連性がないとして却下している。いわゆる、ドラマ版におけるみちおの因縁の相手。12年前の事件の再審で真実の追求に奔走するみちお達を見て、自身の下した判決を後悔し、ケジメをつけるべく真実を明らかにした上で裁判官の職を辞した。裁判官引退後はカレー店を経営している。
- 井出伊織(演:山崎育三郎)
中堅の検察官。甲子園ベスト4進出の元高校球児。第65期司法修習生。先輩である城島を尊敬してか、裁判を円滑に進めることを優先し、場を乱しまくるみちおを城島とともに敵視している。だが、時にはみちおたちに協力することもあり、事件関係者の女性を食事に誘って証言を得るなどイケメン故の色仕掛けも時々利用している。
映画では、糸子と結婚。また、みちおのお目付け役として岡山地裁秋名支部に赴任した。
ちなみに、山崎氏も野球経験者である。
- 城島怜治(演:升毅)
主任検事。総括判事の駒沢と司法修習時代の同期。第36期司法修習生。彼も井出と同じく裁判を円滑に進めることを優先し、場を乱しまくるみちおを城島とともに敵視している。だが、時には井出とともにみちおたちに協力することもある。
ある事件で検察上層部に逆らったことから転属が検討されたが、みちおを含め曲者揃いのイチケイに対応できる検事が他にいないことから異動を免れる。
- 青山瑞希(演:板谷由夏)
みちおと同じ法律事務所の同僚だった弁護士。みちおの愛犬・みちこの元飼い主。引っ越しにより自分の元では飼育できなくなったためみちおに預けている。
刑事裁判で無罪が確定した「東京ドリームランド」の事故を民事で損害賠償請求し、12年前の事件で志摩が関わっていた可能性が高まると被疑者の妹・由貴を説得し再審請求を促し、再審が決まると彼女の弁護士を東京第三弁護士会の代表として務める。ホームレス襲撃事件では被告のホームレスが母・多恵と接点がある人物と察知し、人権派をアピールするためとの建前で国選弁護人を引き受ける。
周囲からは「みちおに好意を持っている」と思われているが、あくまで「信頼できる元同僚」でしかないと本人は否定している。
SPドラマでの登場人物
- 岡林保(演:戸塚純貴)
新人書記官。もともとは熊本地方裁判所の書記官だったが、かねてから東京に行きたがっており、川添と所属先をトレードしてもらう。入間から坂間のことを聞いてある程度彼女の人となりは把握している模様。
映画では未登場だが、おそらくまだ東京で勤務していると思われる。
- 本多みどり(演:渡邉美穂)
川添の娘。両親の離婚後、母親の実家である熊本県に引っ越して暮らしていた。元々料理人を目指そうとしていたが挫折し高校を中退し、非行に走る。そのため、しょっちゅう補導されており、心配した母親が川添を呼び戻す原因となった。父親との仲は当初最悪で、「キモイ」「父親面すんな」と罵詈雑言の嵐。しかし、父親の書記官としての姿勢や「逃げたっていい。グレたっていい。ただ、経験したその苦しみをその後の人生に活かしてくれ」という言葉に感化されて立ち直り、再び料理人になる夢を掲げ、単身上京した。
映画での登場人物
秋名支部
- 土井潤(演:柄本時生)
岡山地方裁判所秋名支部の右陪席。面倒事が嫌いなタイプであり、みちおの行動に辟易している。
- 赤城公子(演:西野七瀬)
岡山地方裁判所秋名支部の左陪席。当初は土井と同じく面倒事を嫌ってみちおの行動に辟易していたが、徐々に影響されるようになる。
弁護士
- 月本信吾(演:斎藤工)
坂間とバディを組む地方の人権派弁護士。駒沢とは司法修習時代の教官と生徒という関係。何やら過去にとある出来事があったらしいが…。
防衛省
- 鵜城英二(演:向井理)
ドラマ版最終話に登場した衆議院議員・安斎高臣の推薦により史上最年少で防衛大臣に就任したエリート。自身を含め官僚が被害者となった傷害事件をきっかけに、イージス艦と貨物船の衝突事故に関する責任をみちお達に追及されることとなる。
日尾美町の人々
- 島谷秀彰(演:津田健次郎)
貨物船の船長。イージス艦との衝突事故で貨物船の沈没に巻き込まれ、逝去。
- 島谷加奈子(演:田中みな実)
秀彰の妻。葬儀の際に出席していた鵜城らを刃物で切りつけた傷害の罪で逮捕され、みちお達の公判の被告人となる。
- 小早川悦子(演:吉田羊)
「シキハマ株式会社」の産業医。坂間に法律事務所としての場所を提供しており、彼女にとって姉のような存在となっている。
- 小早川輝夫(演:宮藤官九郎)
悦子の夫で町役場の職員。坂間に法律事務所としての場所を提供しており、彼女にとって兄のような存在となっている。
- 三田村武晴(演:尾上菊之助)
「シキハマ株式会社」の顧問弁護士。会社の土壌汚染疑惑を否定している。
- 木島昌弘(演:平山祐介)
「シキハマ株式会社」の工場長。彼のパワハラ疑惑が会社の土壌汚染疑惑が明るみに出るきっかけとなる。
余談
- 映画にて、庵野秀明氏が日尾美町の裁判官役で特別出演している。
- その理由としては、映画にて彼が制作に携わった作品に竹野内氏、斎藤氏、津田氏が出演していたためと思われ、そのことを知った上で田中亮監督が誘ったと思われる。主演の竹野内氏ですら撮影開始まで知らなかったらしく、庵野氏のクランクアップの際に急遽駆けつける形となった。
- ちなみに、赤城役の西野女史も後に庵野が監督・脚本を務める作品に怪人役で出演することとなった。